暫く悪巧みしていた4人が、俺達の方にやってくる。
「オイ、総悟。真選組側は納得したが、志村側はどうなんだ?万事屋が了承してても、ホラ、アレ…志村姉が…」
土方が言いづらそうにちらちらと新八を見る。
…やっぱりソレが問題だよな…
「姐さんは…これからでさァ…」
「そんな!なんで皆そんなに心配なんですか?姉上だって話せば分かってくれますっ!」
新八が、心外だとばかりにぷぅと膨れる。
でもなァ…アノ姐さんだぜ…?一筋縄ではいかねェだろ…
「でもなぁ…妙さんにとっては大事な大事な妹だからなぁ…」
「ゴリさん…そんなオブラートに包む必要ねぇって。相手がアノ妙だから心配なんだろ?」
「そんな事は無いぞ!妙さんは綺麗で優しくて慎ましやかでたおやかで…」
「まぁ、局長は置いといて。姐さんを説得するのはホント大変だと思うんですよ。だって俺達チンピラ警察24時とか良く言われてますから。その上相手は沖田隊長だし…近藤局長も…ね…?ほら…」
「…普段の行いがな…」
コイツら失礼でさァ…思わず土方と山崎にバズーカを構えたけど、まぁ…それは事実でさァ…
新八が慌てて止めるんで、俺もバズーカを下ろした。
「とりあえず、戸籍の方は今から俺が掛け合ってくる。それから、心強い味方も呼んでみるから、明日…か明後日か。早い方が良いだろう。皆で妙さんを説得に行ってみよう!」
ニカリと笑った近藤さんが、忙しくなるぞー!と言いながらドカドカと歩いて行ってしまう。
心強い味方って…まさか松平のとっつあんとかじゃないだろうなぁ…アノ人ァ…駄目でさァ…纏まるモンも纏まらなくなっちまわァ…ちょっと心配になって銀の旦那の方を窺うと、にひゃりと笑う。
…大丈夫なのか…?
山崎の方を窺うと、山崎がばちーん!とウインクを決めて親指を立てていた…
……大丈夫なのか……?
土方は、ものっそい気まずそうな顔をしている…
………本当に大丈夫なのか………?
「沖田さん、僕皆さんが協力してくれるなんて思ってもいませんでした!良かったですね!」
新八はお気楽でさァ…
でもまぁ、どっちにしても越えなきゃいけねェ壁でさァね。
折角だから、皆踏み台にさして貰いやしょうかね…
◆
次の日、心強い味方とやらの都合がついたってんで俺達は姐さんを説得に志村家を訪れた。
まぁ、そのお人が来るにはもう少しかかる、ってんで俺達だけで先に来たんですが…しょっぱなから姐さん機嫌悪りィや。
全員真面目な顔で卓袱台の前に座ると、嫌々姐さんも向かいに座る。
「皆さんお揃いで…どうなさったのかしら?」
にっこりと営業スマイルを浮かべる姐さんの後ろに般若が見えるけど、んなモンに負けられっかィ!
「今日は姐さんに頼みが有って来やした…」
俺が一世一代のセリフを吐こうと息を吸い込むと、間髪入れずに姐さんが怖いくらいの笑顔のまま言う。
「嫌です。」
「俺まだ何も言ってやせんが…」
「チンピラ警察の頼みなんか、聞くまでも有りません。」
これまた笑顔のままでピシャリと跳ねのけられる。
でも、そんなんで負けてられやせん。
「新八を俺に下せェ。ぜってー幸せにしやす!」
姐さんに言いたい事を言うだけ言うと、姐さんも俺を無視して近藤さんに向き直る。
「ちょっと近藤さん?部下の躾はちゃんとなさって?狂犬が何か寝言言ってるわよ?」
笑顔のまま怒り狂ってるのがよく判る…近藤さんは何も言わねェ。
「姉上っ!僕達は真剣なんですっ!!」
見かねた新八が言うけど、姐さんの笑顔は崩れない。
「新ちゃん、おかしな事言わないで。貴方男の子でしょう?道場の復興は忘れたの?狂犬に噛まれて騙されてるんじゃないの?こんな人が真剣に人を好きになる訳無いじゃない。上っ面に騙されちゃ駄目よ?」
「そんなっ…!」
新八にはちょっとだけ優しい口調になったけど、全くもって折れる気は無いらしい。
「…お妙さん、新八君が女の子だって事はもうみんな知っています。」
近藤さんが静かに言うと、般若になった姐さんが、ギロリと近藤さんを睨む。
あ、花見の時のあの雰囲気…
「ゴリラは黙ってろや…」
「いえ、黙りません。総悟は俺の大切な仲間です。それをそんな風に言われて黙っていられる訳が有りません。」
近藤さんの、凛とした空気に姐さんが怯む。
そして小さくごめんなさいと呟いた。
「姉上、近藤さんに戸籍も直してもらったんです。僕、もう女の子に戻れたんです…!」
新八がそう言うと、少しだけ驚いた姐さんが、悲しそうに顔を歪める。
「…そう…新ちゃんは女の子に戻りたかったの…?」
「今までは…そんな事無かったんです。このままずっと男として生きていくのも良いかな、って思ってました。でも僕…沖田さんに逢ってしまったんです。ずっと…ずっと一緒に居たい人に…逢ってしまったんです…」
新八がきっぱりと言うけど、やっぱり不安なのか卓袱台の下で俺の手を握ってくる。その手をぎゅっと握り返すと、安心したのかふっと笑顔になる。
それに気付いた姐さんが、俺達を見つめてはぁ、と溜息をつく。
「貴方達…本当に本気なの…?今まで男だった新ちゃんが、急に女の子になったりしたら周りは皆おかしな目で見るわよ?」
「男だった時からイチャイチャしてやした。そんなん今更でさァ。」
俺が言うと、新八も大きく頷く。
「…それに…なんだって真選組なの…?こんな、いつ死んでもおかしくない様な男…新ちゃんには幸せになって貰いたいの、ワザワザ新ちゃんを置いて逝く確率が高い男、選ばなくても…」
姐さん…本当に新八が大切なんですねェ…でも…
「新八より早くにはぜってー死にやせん。じじいになっても根性で生き抜いてやりまさァ。」
「そんなの分からないじゃない!いつだって攘夷志士に狙われてるのよ?いくら強くたって…どうなるかなんて分からないじゃない!!」
姐さんの叫びが響く。
確かに…絶対の保証なんて出来やしねェ…
「あー…コイツは一人じゃねぇ。俺達も居る。」
…土方…?
「総悟は一番若いから、こういうのは順番が有るんですよ?お妙さん。」
にこりと微笑む近藤さんが、優しい目で姐さんを見る。
「…だから嫌なんです…」
俯いた姐さんの肩を抱こうとした近藤さんが、殴り飛ばされた。
「オメェらが代りに死んだら新ちゃんが負い目感じるだろうがァ!」
「イヤ、お妙さん!喩えですから!!喩え!!」
「やかましい!黙れゴリラァァァァァ!!」
「姉上止めて下さいィィィィィ!近藤さんが死んでしまいます!!それに僕は沖田さんとお付き合い始めた時から、その事は覚悟してますから!!」
新八が叫ぶと姐さんが止まる。
「でも…」
姐さんが何か言おうとした時に、志村家の玄関がガラガラと開く。
山崎のこっちです、という声と共に、誰かがやってくる。
あぁ、心強い味方、ってぇヤツの到着か…誰がこの姐さんに勝てるって言うのかねェ…
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