やっと午前中の授業が終わってお昼休みになる。
おっと、気を付けなきゃ…お弁当盗られちゃうよ…
「新八ー!弁当の時間アルヨー!」
神楽ちゃんっ!
…アレ…?今日はお弁当持ってる…
「隙アリっ!弁当は頂いたネ!」
はっ!!お弁当持ってると思って油断したっ!!アレはダミーかよっ!!
お弁当…盗られちゃったよっ…
「神楽ちゃん返してよー!」
「もう貰ったネ!新八はパンでも買ってくるヨロシ!」
ニヤーっと笑って走り去ろうとした神楽ちゃんが、何かに引っかかってビタン、とコケる。
あ…
「チャイナ、オメーいい加減にしとけィ。新八ん家は貧乏なんでィ。」
「そんぐらいわかってるネ!」
僕のお弁当を持って眼鏡の奥から冷たい目で神楽ちゃんを見降ろしているのは、さっきまで後ろで寝てた筈の沖田君で…
「ホラ、新八も盗られねェように気ィつけな。」
あ…今日初めて話しかけてくれた…
「あ…有難う…あの、沖田く…」
僕が呼びとめようとすると、くるりと踵を返して姉上の方に歩いて行ってしまう…
なんで…?いっつもなら一緒にお弁当、って煩い筈なのに…いつも無い眼鏡も相まって、別の人みたい…
「新八くーん!お弁当食べよっ?皆待ってるよ?」
山崎君が呼ぶ方を見ると、近藤君と土方君と伊東君が手を振ってる…
いつもなら、沖田君も居るのに…
姉上の方を見ると、何だか楽しそうに沖田君と教室を出ていくのが見えた…
何でだろう…胸が痛い…
駆け寄ってきた山崎君に背中を押されて皆の所に行ってお弁当を食べる。
いつものお弁当の筈なのに…全然美味しくないや…
「…美味しくない…」
僕が呟くと、土方君がブチュブチュと僕のお弁当にマヨネーズをかける。
「ほら、これで美味いぞ。」
…少しは味、するかな…
一口食べるけど、やっぱり美味しくない…
僕の頬に、ポロリと涙が落ちる…何で…?何で涙なんか…
「あーっ!新八君が泣いちゃった!」
「土方君、君がマヨネーズなんかをかけるから…」
「トシ…それは駄目だろ…」
「すっ…スマン新八…!」
オロオロした土方君が謝るけど、涙止まらないよ…
何で…?何で涙なんか…
「土方さーん、何新八泣かせてるんでィ。」
この声は…沖田君…?
僕が顔を上げると、ぐるりと横を向かされてぎゅうと抱き締められる。
あ…涙…止まった…
ぎゅうと抱き返すと、ビクリとした沖田君が僕から離れる…
ヤダっ…
離れないようにぎゅうとしがみつくと、そっと抱き返される。
優しい手が…酷く安心するよ…
「新ちゃんどうしたの…ってマヨネーズ!?…土方君…?新ちゃん苛めて生きて帰れると思ってんのか…?ああん!?」
あ…姉上…姉上が一緒だったから…僕から離れようとしたの?沖田君…そんなの…
「嫌だっ!嫌だ嫌だ嫌だっ!!!」
僕が更にぎゅうと抱きつくと、ポンポンと頭を撫でてくれる。
「…何がそんなに嫌なんでィ…土方の弁当…」
「そんなのどうって事ないよっ!沖田君と姉上が付き合うぐらいなら…完食してやるよっ!」
ばっ、と離れて一気にマヨ弁当をかきこむ。
うっ…不味い…
僕がぐったりと机に突っ伏すと、周りからうわぁ、と声がして、誰かが背中をさすってくれる…
「ちょっと新ちゃん、そんな訳…」
姉上が何か言おうとしたんで顔を上げると、沖田君が手で姉上の口を塞いでた。
…手…唇に当たってる…
「そんなモン喰ってまで、俺にどうして欲しいんでィ、新八ィ…」
「…離れて下さい…姉上から離れて下さいっ!」
僕が叫ぶと、ビクリとして2人が離れる。
はぁ、と溜息をついた沖田君が、少しずつ僕の方に近付いてくる。
「どこまでシスコンなんでィ…そんなんじゃ、オメェの姐ちゃん幸せになれねーよ?」
沖田君が、珍しく真面目な顔で僕に言う。
何で…?姉上の幸せって…そんな事なんで沖田君が…!?
「姉上の幸せなんて、近藤君が考えてれば良いんです!なんで沖田君なんですかっ!?沖田君は、僕の幸せだけ考えてれば良いんですっ!」
叫んでからハッとする。
僕は今…何を言ったんだ…?
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