次の日、退院する沖田さんを僕が病院まで迎えに行く。
真選組の皆さんは仕事が有るから誰も迎えに行けないと、近藤さんがはからってくれた。
そうでも言わないと、沖田さんは僕から逃げてしまうから…
あんなに…あんなに煩い位、僕に絡んで来てたのに…ちょっと落ち込むよ…
でも!沖田さんは僕がどんなに邪険にしても諦めなかったんだ!今度は僕が頑張る番だ!!

受付でお会計を済ませて病室に行くと、沖田さんはちゃんと僕を待っていてくれた。
精一杯の笑顔を作って僕が近付くと、沖田さんが警戒する…

…負けるもんか!

沖田さんだってきっと、初めはこんな気持ちだったんだ…
僕も…初めのうちは沖田さんが怖くて…ずっと警戒していたんだもの…沖田さんってドSだから、虐められるんじゃないかって…

「すみません、お待たせしました。会計を先にしてきたら遅くなっちゃいました。さ、屯所に行きましょう?」

僕が、ちょっとだけ有った荷物を持って歩き出すと、沖田さんは大人しくついてくる。

「沖田さん、屯所の場所分かりますか?」

「…おぅ…」

あ…返事はちゃんとしてくれる…
うん、大丈夫。
これから、前よりももっとずっと仲良くなれば良いんだから…

2人で屯所に戻って、沖田さんに教えて貰いながら、沖田さんの自室に行く。
その部屋は…必要な物しか無くて…タンスとちゃぶ台が置いてあるだけの部屋だった。

「…何か寂しいですね、この部屋。お花でも飾りましょうか…沖田さん、好きな花とかないですか?」

僕が聞くと、少し考えた沖田さんがじっと僕を見る。

「…ひまわり…」

「ひまわり、ですか。うん、良いですね!きっとパッと明るくなりますよ?じゃぁ僕探してきますね?」

そう言って僕が部屋を出ると、沖田さんの空気があからさまにほっとする。
…負けない…負けないよ…

近藤さんに断って近くの花屋さんに行くと、店頭にはいっぱいの花。
その中からひまわりを一輪選んで軽く包んでもらう。
すぐに屯所に戻ると、沖田さんの部屋は、人がいっぱいになっていた。

近藤さんがテレビを持って来て、土方さんがマヨを持って来て、山崎さんがお茶を持って来て…何人かでソファを持って来ていた…
和室なのにソファ…と思ったけど、沖田さんって意外と好かれてるんだなぁ、と思うと何も言えなかった。
きっと病み上がりだから良かれ、と思って持って来たんだろうし…

あ、そうだ。
皆さんが居てくれるんなら、今のうちに…
僕が、活けてきたひまわりをちゃぶ台に置いて沖田さんの方を向くと、満足そうに笑った目とぶつかる。
あ…久し振りに…沖田さんの笑顔を見た…

「沖田さん、僕ご飯作ってきますけど、食べられない物とか有りますか?」

僕がそう言うと、突然周りが静まり返る。
何だ…?

「…いいなー、新八君の手料理…」

山崎さんがぽそりと言うと、皆さんがざわりと騒ぎだす。
うらやましー!愛妻ご飯かよー!新婚は出てけよ!俺も俺も!
とか、何か変なセリフ聞こえるけど…僕、別に料理上手じゃないし…沖田さんにはお粥を作って来なきゃいけないだけなんだけど…

「おかゆですけど…皆さんも召し上がりますか…?」

僕が聞くと、又しん…と静まって、何だよー!とか言われる。
何だよは僕のセリフだよ!

「…魚…」

沖田さんが、ボソリと言った。

「あ…お魚が嫌いなんで…」

「…と野菜と納豆とヨーグルトとチーズと…」

「アンタ何食って生きてんだァァァァァァァ!?」

僕がつい、いつもの癖でツッコミを入れると、沖田さんがびっくりした後、ニヤリと笑う。

「肉と菓子と酒」

「んな不健康な食事、僕が許しませんっ!ちゃんと栄養の有るもの作ってきますから、残したら許しませんよっ!?」

僕がそう言ってドスドスと部屋を出ようとすると沖田さんがくつくつと笑う。

「何でィ、アンタ本当はそういうヤツだったのかィ。お母さんみてェだな。でも…そっちの方が俺ァ好きだぜ…?」

ちょっ…そんなっ…いきなりそんな事言われたら…っ…心の準備がっ…
僕が真っ赤なまま振り向くと、沖田さんが又、くつくつと笑う。

「何でィ、真っ赤になりやがって…オメェまさか俺狙いか?危ねェ危ねェ、尻に気ィ付けなきゃねェ。」

「なっ…!?そんなん狙いませんっ!」

僕が更に赤くなってドスドスと部屋を出ると、アハハハハ…と沖田さんの笑い声が聞こえる。
…ちくしょう…おかず全部野菜にしてやるっ…!



僕が本当に野菜の煮物(一応可哀想なんで鶏肉は入れてあげた)とおひたしとお粥を作って持っていくと、皆さんまだ沖田さんの部屋に居て、ソファの取り合いをしていた。

「はい、ご飯ですよ?残さないで下さいね?」

ちゃぶ台の前に座ってお茶をすすっていた沖田さんの前に、おぼんごと食事を置くと、うへぇ、って顔をしながらも手を合わせていただきます、と言ってくれた。
野菜の煮物をつついていた沖田さんが、鶏肉を見付けて嬉しそうににっこり笑う。
あぁっ!いかんいかん…そんな顔見たら、晩ご飯は肉料理にしちゃいそうだ…

ぱくぱくとご飯を食べる沖田さんを見ていた皆さんが、食事を覗き込む。

「うわっ美味そう…良いねー、総悟は料理上手な嫁さんもらって…」

「頑張った甲斐が有ったな!」

皆さんがぽすっと沖田さんの肩を叩くと、沖田さんが不思議そうな顔をする。

「さっきから何でィ。コイツァ俺の世話係だろィ?」

沖田さんが言うと、嫁さん発言をした人が、こちらも不思議そうな顔をする。

「何言ってんだ、ずっと口説いてたろーが。新八君が泊まり込みで屯所に来て総悟の世話をする、って言ったらそういう事だろ?ついに口説き落としたんだろ?嫁入りだろ?」

まっ…真顔でそんな事言われてもっ!
僕は………嫁入りでも…って何考えてんだっ!?僕っ!!

「そっ…んな訳無いじゃないですかっ!」

沖田さんは僕の事全部忘れてるのに…皆さんその事知ってるんじゃないの…?

「えっ!?違うの!?」

皆さんが、ものっすごく意外そうな顔で僕を見る。
えっ…皆さん知らないの…?
近藤さんの方を見ると、近藤さんは優しく微笑んでる。
あれじゃぁ分かんないよ…
仕方ないんで、近くに居た山崎さんを捕まえて聞いてみると、皆沖田さんの病状は知っていると言う。

「局長は皆に言ったよ?でも皆は沖田さんに早く思い出して貰いたいって…ショック療法だ!ってガンガン言ってくつもりらしいよ?」

「…それ…ダメなんじゃないんですか…?」

「俺もそう思ったんだけどね…皆は大雑把だから…」

山崎さんがあはは…と乾いた笑いをこぼす。

「ほら、皆沖田さんに何か言ってるよ?」

山崎さんが指さす先には、沖田さんを囲んでニヤニヤしながら何か言ってる黒い集団。
なっ…何言ってんだ!?あの人達っ…?
そっとそちらに近付くと、ぼそぼそと話す声…

「なんだよ勿体無いなぁ、折角向こうから飛び込んで来たってのに…」

「そうだぜ?泊まり込みで献身的にお世話してくれるなんて、もうオッケーだろ。」

「そうそう、あんだけ逃げ回ってたのが、向こうから来てんだぜ?忘れてる場合じゃねーだろ。ぱくっといっちまえ!」

「はぁ…」

「なっ…何好き勝手な事言ってるんですかっ!?」

僕が赤くなって皆さんを怒ると、おっと、と言ってわらわらと散っていく。

「あ、このソファは俺達から2人にプレゼントだから。思う存分いちゃいちゃしろよー?」

最後に残ってたハゲの人とバンダナの人が、ニヤリと笑ってバタンと襖を閉めて行ってしまう。
なっ…思いっきり掻き回していたよいったよアノ人達っ!
僕がそろりと沖田さんの様子を覗き見ると、ぼーっとひまわりを見てた…