リップクリーム
最近良い物を食べていないせいか、唇がガッサガサになって、ベロベロに皮が剥けてきて、ものっそ痛いです。
特に姉上の暗黒物質なんか食べた日には、痛みで唇もげるんじゃないか、なんて思ってしまう程…
なので、出費はキツイけど、リップクリームなる物を買いにドラッグストアに来てみたんですが…
すっごい種類有るんだ…どれが一番効くんだろう…?速攻治るようなの無いかな?それも安いヤツ。
ちょっと呆然としつつ壁一面に有るリップクリームを見ていると、でっかいポスターが僕の目に飛び込んでくる。
『それは貴女もキスしたくなる唇』
…イヤイヤイヤ、それぐらいでキスなんて…騙されてる騙されてる!
そう思いつつも、そのポスターから目が離せない。
流行りの女優さんの、ぷるん、と艶やかな唇が確かに気持ち良さそうだ…
…僕も…こんな唇だったらあの人も…
脳内にふわりとよぎる、綺麗な茶髪。
イヤイヤイヤイヤイヤ!
そんな事無い!そんな事有る訳無い!!
だって僕男だし!!
脳内では激しく否定しても、手は勝手に伸びてポスターのリップクリームを手に取ってしまう。
へぇ…薔薇の香りか…値段は…
50円んんんん!?
えっ…ちょっ…安っ!!他と比べても半額ぐらいじゃん!!!
…コレは決してキスがどうのとかじゃなくて!
安いからっ!
安いからだからね!!!
そのままそれのお会計を済ませて、万事屋に戻って早速唇に塗ってみる。
…うわ…良い匂い…なんか、痛かったのも治った気がするし、唇も潤った気がする!
コレ、良い買い物だったかも。
嬉しくなって、又リップクリームをたっぷり塗ると、ガサガサしていた唇がぷるんと潤った気がする。
鼻歌なんか歌いながら、居間の掃除をしていると
「ただいまヨー」
と、元気に神楽ちゃんが帰ってくる。
「おかえり神楽ちゃん。」
上機嫌のまま笑顔で振り向くと、神楽ちゃんがヒクヒクと鼻を動かす。
「何か良いニオイするネ。」
あ!リップクリームの匂い…
そうだよね、神楽ちゃんも女の子だもん、薔薇の香りとか気になるよね!
「あのね、さっきコレ買ってきて…」
僕が袂からリップクリームを取り出してソレを見せようと近付くと、ギラリと目を光らせた神楽ちゃんがぐんと顔を近付けてくる…何…?
「新八ぃ…キスするネ…」
「なっ…!?」
そのまま本当にキスしようと近付いてくるんで、思わず避けて逃げようとすると、腕を掴まれてソファに倒される…
かっ…神楽ちゃんが…!神楽ちゃんがおかしくなったっ!!
「かっ…神楽ちゃん…?どうしたの…」
「何で逃げるネ…キスするヨロシ…」
間近に迫った神楽ちゃんの目つきが、とろん、としていて何だかおかしい!
ゴロリと転がって神楽ちゃんの囲いを抜けて玄関に走ると、物凄いスピードで追いかけてくる。
それから逃げられる訳も無く…
「捕まえたネ…もう逃げられないヨ…?キスするヨロシ…」
「ちょ!神楽ちゃんっ!気を確かにっ!!」
ぐいぐいと近付いてくる神楽ちゃんの顔を押しやりながら、ジリジリと玄関に向かって後退するけど…逃げられるかな…?
今絶対神楽ちゃんおかしいもん、正気に戻ったらきっと嫌だと思うよ…ここは僕がしっかりしなくちゃ!
それに…ファーストキスは…僕は…あの人が…
ぐいぐいと近付いてくる神楽ちゃんをなんとか押し戻しつつ、やっと玄関までたどり着くと、ガラリと玄関が開いて銀さんが帰ってくる。
「…何やってんだ?おまえら…」
「助けて銀さんっ!神楽ちゃんがおかし…」
「新八ぃー、キスするネー!」
グイグイと押し合う僕らを呆れた顔で見ていた銀さんが、僕をグイッと引っ張って神楽ちゃんの頭を押しやってくれる。
助かった…!
「全く…何の遊びだ?」
「分かんないですよっ!イキナリ神楽ちゃんが…」
いつものように、着物を掴んで文句を言おうと振り返ると、銀さんの目が死んでない…あれ…?
「新八…オメー…」
神楽ちゃんを押しつけたまま、ギュッと僕を抱きしめてくる…うわぁっ!!
「ちょ!銀さん離して下さいよっ!!まさかアンタまで…」
グイグイと銀さんを押しつけて距離を取ると、妙に煌めいた銀さんが顔を近付けてくる。
「艶っぽ過ぎんだよ、オメェ…」
「ギャーっ!正気に戻れ!正気に戻れぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「イヤ、俺は常に本気だから。」
キリッ、とした顔で舌舐めずりされると…サブイボ出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!
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