ねこのきもち
万事屋に久し振りに入った依頼を終わらせた帰り道。
何時ぞや野良猫を捕まえようと張り込みをしていた神社の前を通った。
あの野良猫達は、元気かなぁ?
ちょっとだけ、様子を見てみたり…しようかな…?
何でかは分からないけど、凄くそんな気になったんで、2人に話してみる事にした。
「銀さん、神楽ちゃん、ちょっと神社に寄って行きませんか?野良猫達が元気か気になりません?」
僕がそう提案してみると、神楽ちゃんがノリノリで喰いついてくる。
「気になるネ!頭撫でてやんヨ!」
うん、神楽ちゃん動物好きだもんね!
同意してくれると思ってたんだ、実は。
「ね、銀さん行きましょうよ!神楽ちゃんもこう言ってるし、何でか凄く気になるんですよ。」
勢いのまま、僕ら2人が神社の階段を駆けあがろうとすると、銀さんが嫌な顔をする。
「あ〜?んなの元気だって。ここは又変な事起こりそうだし…あんま入りたく無いんだよね〜」
…変な事って何だ?
そういえば、銀さん暫く居なかったよな…何度聞いても何が有ったかは教えてくれないけど。
そんな事言いつつ本当は階段登るの面倒なだけなんじゃない?
「じゃぁ、銀さんは先に帰ってて下さいよ。僕と神楽ちゃんで猫達見ていきますから。」
僕らが階段を昇り始めると、はぁ、と溜息を吐いた銀さんも付いてくる。
「オヤジは来なくても良いアル!」
神楽ちゃんは情け容赦無いなぁ…
僕がちょっとだけ同情して見ていると、ムスッとした銀さんがブツブツと文句を言い始める。
「んな訳にゃいかねぇだろ、ここは危ないんだよ!お前らは知らないだろうけどなぁ、スゲェ危ないんだよ!!」
…意味が分からない。
仲間外れにされたくないだけなんじゃない?この人。
だっさいな、マダオ。
僕と神楽ちゃんが軽蔑の眼差しで見つつも神社の階段を昇り切ると、いきなり目の前が真っ暗になる。
…あれ…?貧血…?
「あ〜、だから言っただろうが…」
銀さんが怒ってるけどもう遅い。
僕らはそのまま、意識を失った…
僕が目を覚ますと、そこは石畳の上で。
あ〜、しくじった!たまには銀さんの言う事聞くんだった。
まぁでも、やっちゃったものは仕方ない。
僕はどれぐらい気絶していたんだろう…?
むくり、と起きあがって頭を振ると、なんだかいつもとは違う気がする。
何だか地面も近い気がする。
あれ…?
キョロキョロと辺りを見回したら、なんだか全部が大きくなっている気がする。
それに、一緒に居た筈の、銀さんも神楽ちゃんも見当たらない。
僕だけ置いていかれた…?
「にゃーにゃーん!にゃにゃにゃにゃーん!?」
………え………?
何か今、僕変な声出さなかった…?
慌てて自分を見下ろしてみると、何でか真っ黒…
え…?
手を見てみると、肉球…?
え…?
「なっ…ななななな…!?」
「あ〜、畜生、又かよ!!」
「銀さんっ!!」
聞き慣れた声に振り返ると、白いブサイクな猫が2本足で立って自分の体を確認してる。
そして、僕に気付いたそのブサイクな猫がジッと僕を見てゲラゲラと笑いだす。
「新八?お前新八か?」
そんな馬鹿笑いされるほど…何が…
僕が自分の体を見回していると、ヒーヒー笑いながら近付いてきた白猫が、僕を水たまりの前まで連れて行く。
「見てみろよ…ってかお前は猫になっても眼鏡なのな…」
「へ…?」
言われるまま水たまりを覗いてみると、そこには真っ黒い子猫が居て…
目の周りだけ白い毛がくるりと生えていて…本当に眼鏡みたい…
「え…?ちょっ…えぇぇぇぇぇっ!?」
僕が顔を撫でると、水たまりの中の猫も顔を撫でる。
え…本当に!?
コレ…僕ぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?
バッ!と音がするぐらいの勢いで白猫を振り返ると、その猫はニヤニヤと笑ってる。
…銀さんだ…まごう事無く、銀さんだ…
「…何スか…そのブサイクな猫…」
「煩ぇよ、お前よりはマシだろ、メガネ猫。」
馬鹿にした顔が、メッチャムカつくぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!
「イヤ、コレ何か可愛いですから!眼鏡みたいでなんか可愛いですからね!!」
思いっきり言い返すと、僕のお腹がぐぅぅと鳴る。
「あ〜、腹減ったな。狩りに行くか。」
そう言って銀猫さんが歩き出すんで、慌ててついて行く。
あ!神楽ちゃん!!
「銀猫さん!神楽ちゃんが!神楽ちゃんが居ませんけど!!探さなくっちゃ!!」
「あ〜、俺が起きた時にはもう居なかったからな。先に起きてどっか行ったんじゃね?とりあえず町に降りるぞ。」
「…はい…」
神楽ちゃんが心配だけど、居ないものは仕方ないよね。
先に起きて万事屋に帰ったのかな…?
銀猫さんはどんどん行っちゃうし…僕もこんな所で1人になっちゃ不安だし…
走って銀猫さんの後について行くことにした。
街中を並んで歩いて行くと、人間が大きく見えて少し怖い。
だから、出来るだけ離れないように銀猫さんにぴったりとくっついて行くと、ちょっとだけ安心する。
「良いか新八、俺らみたいなのはブサカワイイを前面に出してだな…」
「いや〜ん!可愛いこのネコ!メガネかけてるぅ〜!!」
銀猫さんの話の途中で、僕は女の子の集団に囲まれた。
優しく抱き上げられて、むっ…胸に顔を押し付けられて…
うわわわわっ!ちょっ!何このパラダイスっ!
一頻りパラダイスを満喫させられると、皆満足したのか、ばいば〜い、と手を振って去って行く。
僕…猫として生まれてきた方が幸せだったかも…
「銀猫さん…僕…このままでも良いかもしれません…」
ぼーっとしながら僕が言うと、ムスッとした銀猫さんがスタスタと歩きだす。
「馬鹿野郎、飯は貰ってね〜だろうが。」
…確かに…
あの子達、食べ物は何もくれなかった。
胸は一杯だけど、お腹はペコペコのままだよ…
銀猫さんについて又歩いて行くと、駄菓子屋さんのベンチに大量の駄菓子を抱えた沖田さんが居た。
その上、沖田さんはチラッチラと僕らを見て、頬を染めている。
もっ…もしかして沖田さんって猫好きなのかな?
沢山持ってる駄菓子、くれるんじゃないかな…?
「銀猫さん!沖田さんですよ!何かこっちチラチラ見てますよ!もしかして、猫好きなんじゃないですかね?」
「あ〜…あの子ね…」
僕が銀猫さんをパンパン叩いて呼び止めるけど、銀猫さんはあんまり乗り気じゃないみたいだ。
それでも僕がじーっと沖田さんを見ていると、懐から何かを出して、僕らに向かってぷらぷらと揺らし始めた。
あ!あれソーセージ!!
「銀猫さん!銀猫さんっ!!あれ、くれるんじゃないですか!?」
「イヤ!アノ子ドSだから!!」
ひき止める銀猫さんを無視して、僕は沖田さん…の持つソーセージにまっしぐら。
膝に飛び乗って、ぷらぷらさせていたソーセージにかぶりつく。
でも、子猫の口じゃ大き過ぎて噛みつく事も出来ない…
ペロペロと、一心不乱に舐める事しか出来ないけど…でも美味しいよー!!
「お前さんにはデカ過ぎやすかね。」
聞いた事も無いような、優しい声で僕に話しかけてくれる。
…沖田さん、やっぱり猫好きなのかなぁ…
ジッと沖田さんの顔を見上げると、凄く優しい顔で笑ってる…
うわぁ…綺麗…
心臓がドキドキするよ…
でも、そんな優しい顔のまま、沖田さんはソーセージをぱくりと食べてしまった。
そんな…酷い…
「にゃぁー…」
あんまり悲しくって、泣きそうになりながらモグモグと動く口を見つめていると、小さく噛み砕いたソーセージを掌に乗せて僕の前に差し出してくれる。
「ほら、これなら喰えるだろィ?」
そう言って、又ふんわりと笑う。
やっ…優しいっ!!
夢中でソーセージを食べていると、すぐに掌の上から無くなってしまう。
まだ食べたいな…
そう思ってジッと顔を見上げると、沖田さんは又小さく噛み砕いてくれてる!
待ちきれなくて、スカーフに掴まって沖田さんの口を舐めると、ビックリしたのか口を開ける。
だから、そのまま口の中に有るソーセージを食べてしまった。
「ふぁ…ふぁひを…」
沖田さんが僕を離そうとするけど、ぎゅうと掴まって夢中でソーセージを食べる。
すると、諦めたのか舌でソーセージを前の方まで持ってきてくれるんで、僕はそのソーセージを全部食べる事が出来た。
2
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