※土銀要素あり。
苦手な方はお気を付け下さい



恋人はさんたくろーす



今日は世間が浮かれまくってるクリスマスイヴだってのに、僕ら万事屋はやっぱり単発のバイトをやっている訳で。
まぁ、年末は稼ぎ時なんだから、贅沢なんて言ってらんないんだけどさ…

昼はケーキ屋でクリスマスケーキを叩き売って。
それも、銀さんと神楽ちゃんはサンタのコスチュームだっていうのに、僕だけトナカイの着ぐるみで…
何だよ、この凶悪な顔…なんか子供に泣かれるしさぁ…
その度に、どや顔の2人に
『新八は向こうに行ってて〜』
とか言われてもさぁ…イラッとするよね。まるで僕悪いヤツみたいじゃん。

夜は夜でかまっ娘でパチ恵にならなきゃならなかったし。
時給は良いけど、酔っ払いのオッサンに絡まれて大変だし。
馬鹿にされるんならまだしも、なんで口説かれなきゃなんないんだよ!?
パチ恵だよ!?パチ恵!!
おっそろしいな、お酒って!!
…まぁ…絡んできたオッサンは、パー子さんとグラ子ちゃんがボコってくれたけど…でも気持ち悪かった。


そんな感じで結構懐は暖かくなったんだけど、皆が浮かれている時にあくせく働くのはやっぱりなんか悔しい。
幸せそうな人達を見送ってると、なんだか…寂しい気持ちになってきて…
無性にあの人に逢いたくなる。
きっと…今晩…逢いに来てくれるよね…?
でも、あの人も年末は忙しそうだし…逢えなかったら…落ち込むし…あんまり期待しないようにしてるのが、より一層寂しさを募らせる。

はぁ、と大きな溜息を吐くと、パー子さんがシャンパンを片手に僕に近寄ってくる。

「ど〜したのぉ〜?パチ恵ぇ〜?何ブスくれてんのぁ〜?ちゃんと飲んでるぅ〜?」

…すっかりご機嫌になっちゃってるし…どんだけ飲んだんだ?この人…

「ちょっとパー子さん!飲み過ぎじゃないですか?僕らだけで送って行くの大変なんですからね!!」

腰に手を当ててちょっと怒ってみると、幸せそうににへら、と笑う。

「だいじょ〜ぶ、だいじょ〜ぶぅ!もうすぐ仕事終わるし、サンタさんが迎えに来てくれるも〜ん」

「…サンタ…?」

大丈夫か?この酔っ払い。
又どっかで変な知り合い増やした?
これ以上飲んだら明日辛いよ?きっと。

「もう!飲み過ぎないで下さいね?」

「だぁ〜いじょうぶ!アイツ煩いから。お前の所にもサンタさん来るだろ?今夜。」

…全然分かんねーよ…
『アイツ』って誰だ…?知ってる人…?

「何言ってるか分かりませんよ。サンタなんて父上が亡くなってからウチには来た事ありません。」

ちょっとキレぎみに言っても、ニヤリと嫌な笑いを浮かべるだけで。
だらっと僕に圧し掛かってくる…
お酒くさっ!

「バッカお前居るだろ?サンタクロース。お前の所に来るのはあんま背ぇ高くないけど。」

「はぁ?」

一体何が言いたいんだ?パー子さん…
フフフフーン、とか鼻歌を歌いだしたのは…かの有名な、オンナノコのクリスマスソング。

「俺の所のは今夜攫いに来るぜ?背ぇ高いのが。」

…コイビト…なんて居たんだ…
でもっ!

「それはアレですけど!神楽ちゃん1人にするつもりですか!?」

「あ〜?神楽んトコにも来るだろ。ハゲてんのか三つ編みのサンタ。」

にこり、とやけに優しく笑われたら嫌でも頭に浮かぶ家族団欒。
去年も坊主さんは来てたけど…アノ人も…来るのか…?
吉原で会った、怖い笑顔が浮かぶけど…
でも、ちょっとだけ家族団欒が羨ましい。

「…なら…邪魔しちゃいけないですよね…」

「そ〜そ〜、お互い邪魔はナシの方向で。俺だってプレゼント用意してるしぃ〜」

じゃん!と言って差しだされたのは…綺麗にラッピングされたマヨネーズ…
ちょっと頬を染めてにこりと笑うパー子さんは、女装のせいか、なんだかちょっと綺麗で…可愛い気がする。

…ってか…マヨネーズ…って…まさか…

「昔から言うだろ?恋人はさんたくろ〜す、って。新ちゃんの所にはドSなサンタが来るんだろ?あ〜、何なら明日休んでも良いから…」

そう言ってニヤリと笑う顔は、やっぱりからかうみたいで嫌な顔だ。
厭らしい大人だよ!全くっ!!

「やっ…休みなんて…っ…」

「壊されないように気を付けろよ〜?」

「なっ…!?」

僕が言葉に詰まると、ニヤニヤと笑いながら、ヒラヒラと手を振って一際賑やかなテーブルに混ざって行ってしまった…
追いかけるには…あのテーブルは上級者すぎる…

酷く顔に血が上ってなんだか熱い。
でも…
土方さんが銀さんのサンタだとしたら…
一緒にクリスマスを過ごす約束をしているんだとしたら…
あの人も今夜…僕の所に来てくれるのかな…?
約束してないけど…来て…くれるのかな…?
そう思うと、ドキドキと心臓が騒ぎ出す。

その後の仕事は、全く上の空で…あっという間に時間が過ぎ去ってしまった。