夢のような、本当の話



授業も終わって、今日も1日良く学んだと大きく伸びをする。
はふぅ、と欠伸も出てきたんで、とっとと帰って昼寝でもしようと前を見ると、やっぱり俺の目にはアイツが飛び込んでくる。

ふとした瞬間、目に留まってしまう。
美人でも、ナイスバディでもない眼鏡。
それどころか、女ですらない。
ダサくてどんくさくて…その上糞真面目で。

…オイオイオイ、俺ァなんでそんなにアイツの事詳しいんだ?
近藤さんと姉さんぐらいしか他人に興味無いってェのに、その中に眼鏡君参入ですかィ?

そんな馬鹿な。

そんな事が目まぐるしく頭ん中駆け巡ってる間も、俺の眼は眼鏡君を追い続けてる。
又誰かに押し付けられたのか、背伸びして黒板を消してる。
…あーあ、遂に飛び上がりやがった…

そんなん俺には関係無いし、さっさと帰って昼寝しようと思ってた筈なのに、気が付いたらもう1個有る黒板消しを手に取って高い所を消していた。

「…え…?沖田君…?あっ…有難う!」

俺に気付いた眼鏡君が嬉しそうに笑いかけてくる。俺に!
どくどくと煩く騒ぎ始める心臓が、訳分からない…何なんでィ、これァ…

「りんごジュースで手ェ打ちまさァ。」

「あぁ、沖田君いつも飲んで…ってたかるのかよっ!?」

「あー、喉が痛ェー高いトコ届かねェ眼鏡君を助けてやってチョークの粉で喉痛めやしたー」

ポンポン返ってくるツッコミが嬉しくて、つい遊んじまう。

「もー…仕方ないなぁ…」

ブツブツ言いながら財布を覗き込んでっけど、まさか本気に…?

「…パックのなら…」

「…奢ってくれるんで?」

俺が聞き返すと、眼鏡君がビクリとして止まる。
と思ったらすぐに真っ赤になった…可愛い…

可愛い!?何考えてんだ俺ァ!?

「え…?あ…!もしかして冗談で…」

「貰えるもんは貰いやす。今更無かったはねェよ?」

ニヤリと笑ってささっと黒板を消しちまう。
未だにアワアワしてる眼鏡君の手を掴んで廊下に向かうと、グイッと引き戻される…何だ…?

「ちょっ!沖田君っ!僕財布とか鞄の中だし、それにもう1回ここまで戻ってくるの面倒だから鞄持って行きたい…です!」

そう言って、ギュッと手を握り返されると又心臓がバクバクと暴れだす。
手…柔らけェ…

ってか、この流れはもしかして一緒にジュース飲んで一緒に帰るとか…?
やべぇ…なんか嬉しい…

眼鏡君に手を引かれるまま席に戻ると、憎っくきチャイナやら影みてェな山崎が眼鏡君に集まってくる。
…タイミング外しちまった…
このままじゃぁコイツらも合流して、皆で学食…とかの流れじゃねェか…
あーあ、落ち込んでくらァ…

ゴソゴソと鞄に弁当箱と筆箱を詰めて出口に向かうと、2人に手を合わせて、1人で、眼鏡君が俺の方に駆け寄ってくる。

「お待たせ沖田君!食堂行こう!!」

「…え…?」

なんで1人…?

「イヤ、え?って…ジュース奢る約束したよね?それとも要らな…」

「要りやす。や、チャイナと山崎も一緒に来んのかと…」

「良いんです、今日はせっか…ゴホン!あの2人一緒だったら絶対僕が4人分奢らされますからね!だから良いんです!!」

グイグイと俺の手を引いて教室前から立ち去るけど…この手の暖かさが…俺は好きだ…

「…ゴチ…」

「はい!」

くるりと振り返って、眼鏡君が笑う。
…なんでそんな笑顔…スゲェ可愛いとか思っちまうんだ俺ァ…



食堂に行く途中の自販でパックのジュースを買う。
この学校でイチバン安いヤツだ。
ソレを持って食堂に行って並んでジュースを飲んでっと、間が持たねェのか眼鏡君は良く喋った。
スーパーの今日の安売りは何だ、とか。
この時間帯はその値段より断然安い、とか。
この時期に美味しい野菜の話とか。
正直俺には何の事だかさっぱり判らねェけど、眼鏡君が楽しそうだからなんだか幸せな気分になってくる。

「へぇ、俺ァ自炊しねェからさっぱりでィ。眼鏡君は料理する人なんで?」

「いえ、僕も必要に迫られて…あ、カレーとシチューと肉じゃがは味付け変えるだけで結構出来るもんですよ?」

「へぇ…肉じゃがなんてここ最近喰ってねェな…」

ホカホカと湯気を立てるソレが思い出されて俺の腹がグゥーっと鳴る。

「話聞いてたら喰いたくなってきやした。帰りに総菜屋に寄って買って帰りやしょうかねィ…」

俺がすっかり肉じゃがに意識を飛ばしてっと、くい、と袖を引かれる…何…

「僕…教えましょうか…?」

横を見ると、うっすらと頬を染めた眼鏡君がジッと俺を見てる。

「眼鏡君が作ってくれるんですかィ…?」

「まっ…まぁ今日は教えるんで僕が作りますけど…」

パタパタと手を振って慌てる姿も可愛い…
こんな嫁さんが居たら、毎日楽しいだろうねィ…って嫁さん!?
自分の行きついた考えに呆然として動かなくなった俺を、眼鏡君が心配そうに覗き込んでくる。
なっ…おっ…!?

「あの…沖田君…?やっぱり男の手料理とか気持ち悪い…よね…?」

あぁ…困ったような不安そうな泣きそうな表情…
ドSを自称する俺が一番好きな顔の筈なのに…こんな顔は眼鏡君には似合わねェ。
俺ァ、コイツの笑った顔を見ていたいみてェだ。

その方が…好きだ。

そうか、俺はコイツが…新八くんが好きだ。

「そんなん関係無ェだろ。男が作ろうが女が作ろうが旨いモンは旨いし不味いモンは不味いや。」

…お前さんの手料理ならなんでも上手ェよ、なんて…本当は言いてェ。
でも、そんな事ァ言えねェし…

「まぁ、そうだよね…なんか、沖田君らしい。」

えへへ、と情けなく笑う姿がキラキラして見えらァ…恋って恐ェ。
取り敢えず、新八くんの気が変わらない内に…

飲み終わった紙パックを潰してゴミ箱に捨てて、新八くんの手を引いて歩き出す。
まだ飲み終わってねーよ!とか歩くの早いですってば!とか文句を言うけど、手を離せとは言わないからそのままスーパーまで手を繋いだままで歩く。