月が消えた夜



僕と沖田さんがおかしな関係になったのは、ほんの偶然。
銀さんに片恋してしまった僕が、想いを募らせすぎて自室で独り遊戯に耽っていた時に、運悪く近藤さんを探しにやって来た沖田さんに見付かってしまって…
どんな酷い言葉を投げつけられるんだろうと身を竦めた僕に、沖田さんは、優しく、色を多分に含んだ声で、囁いたのだ。

『ヒトリ淋しく遊んでんなら、俺とイッショに遊びやしょう?』

と…

『あくまで体だけの関係だからねィ、シツコくはすんなよ?』

と微笑んだ顔があまりにも綺麗で色っぽくって…思わず僕はコクリと頷いてしまったんだ。
それに…
その後すぐに始められた行為は想像以上に気持ち良くって…僕らは頻繁に体を繋げるようになって、所謂セフレという関係になった。

勿論僕は、未だに銀さんの事が好きだし、出来ればこういう事は銀さんとシたいと思ってる。
沖田さんだって…僕の事なんて、都合良くデキるヤツぐらいにしか思って無いだろうし…
大体僕らは初めっからそういう関係でしかないし、わざわざそんな事考えるまでも無いのだ。



でも、そんな関係も、今日で終わりだ。
奇跡みたいな事が僕の身に起きたのだから。
銀さんが、僕の事を好きだと言ってくれたんだ。
勿論それは、家族愛でも友情でもなく、恋愛感情だとはっきり言ってくれた。

僕は嬉しくて嬉しくて、夢見心地ですぐに僕も好きでしたと返事をした。
そして、そのまますぐに結ばれて…
凄く凄く幸せ…なハズなのに…どうしてか僕の心と身体に違和感が付きまとう。

それはきっと、沖田さんの指や唇や熱い楔に慣れてしまっているから。
きっとこれから、何度も銀さんと愛し合えば、消えて無くなるハズ。
だって、銀さんは僕が本当に好きな人なんだもん。
沖田さんは…体だけなんだから…シツコクしたら嫌われるから…
だから、胸の奥がツキリと痛むのは、僕の気のせい。
もう沖田さんとは他人に戻らなくちゃいけないんだから。

だから、今日はその事を沖田さんに伝える為に、僕は沖田さんを自宅に呼び出した。



「よう、新八くんお待たせしやした。土方が煩くってよう。」

いつものように飄々と、自分の家のように沖田さんがやってくる。
合鍵も返してもらわなくっちゃ…

「いえ、忙しいのにすみません。」

僕が頭を下げてお茶を淹れに席を立つと、いつもなら引き留めてそのまま雪崩れ込む沖田さんが、大人しく座布団を敷いて座り込む。
勿論、新八くんから呼び出すなんて、そんなにカラダ、疼いちまった?とかのからかいも無しで。

僕が冷たい麦茶をグラスに淹れてお出しすると、よっぽど喉が渇いていたのか沖田さんはすぐにゴクゴクとそれを飲み乾した。
そして、いつもは見せない…仕事中のような真面目な顔で僕を見た。

「あの…僕お話が…」

そう話を切り出すと、するりと近付いてきた沖田さんが僕を抱き上げて歩きだす。
え…

「沖田さん…?」

「話は後にしやしょ。今日は俺、もうゆっくり出来るんでさァ。」

そう言って笑った顔が愛しくて、僕はつい沖田さんの首に腕を回してしまった。
今日で最後だから…ゆっくり沖田さんを感じたい…
僕から言いだした事なのに、一度もした事の無いキスを沖田さんとしたい。
キスだけは、銀さんとしかしたくないって思ってたのに…今日は何故か凄くしたい。
…そんな事は言えないけど…



性急で、それでも濃い情事の後、いつもならすぐに帰ってしまう沖田さんが布団の中で僕を抱きしめてくれる。
その体温が、香りが、重みが、全て気持ち良くて落ち着いて…僕はそのまま眠ってしまいそうになる。
銀さんの事…話さなきゃいけないのに…

「…新八くん…きっす…してくれやせんか…?」

今日に限って酷く優しい沖田さんが…ううん、沖田さんはいつだって優しかった…
僕が眠っている時しかそんな事はしてくれなかったけど、でもふと目覚めた時にはいつも優しい手が僕を撫でていてくれた。
それが気持ち良くて僕はすぐに又眠ってしまって…目覚めた朝にはもう、その姿は無かったけど…でもアレは僕の夢などでは無いんだ…
そんな沖田さんが、それだけは出来ないと言っていた事を要求してくるなんて…一体…

「キスはしないって言ったじゃないですか…何で今日は…」

「まぁまぁ、今日はそんな気分なんでさァ。新八くんがやりたい事もしてやっから。」

な?と首を傾げる姿は甘えん坊で可愛くて…そんな姿初めて見た。
それでも僕は…ソレだけは出来ない…
交換条件で絶対不可能な事を言えば…きっと諦めてくれる…

青い薔薇…は作って来そうだ…

ツチノコ…も見付けてきそう。

後は…後は…

あ!

「…じゃぁ、あの明る過ぎる月を消して下さいよ。眩しくて寝られやしないから。」

「そんなの簡単でさァ。一瞬でィ、一瞬。」

そう言われて僕の目の前は真っ暗になる。頭から何か被せられたから。
…コレは…沖田さんがいつも着けてるアイマスク…?
そう思った時には僕の唇は柔らかいモノに塞がれていて、キスされたんだと分かってしまった。
駄目…だ…こんなの…

「おきっ…!」

「なぁ…今からでも俺にしやせんか…?俺ァズルくて腹黒い男ですが、新八くんの事ァ大切にしまさァ。」

アイマスクを着けたままだから、今沖田さんがどんな顔をしているのかは分からない。
でも、真剣だって事は声からでも分かる。

でも僕は…