「ギャァ―――ちょ…無理です―――!!」

更にスピードを上げて闇雲に走っていくと、僕の前に立ちはだかった黒が2つに割れた。

「君達何をやっているんだ!」
「テメェら一般市民に迷惑かけてんじゃねぇ!切腹しろォォォ!!」

『げっ!!!』

そう、僕の前に現れた黒は、伊東さんと土方さんで。
2人に恫喝された黒い集団は、クモの子を散らすように四方八方へと散らばり、我先に逃げ出した…助かったー…


「悪かったな、アイツらが迷惑かけて。」

ひどく不機嫌な顔で土方さんがペコリと頭を下げてくれる。

「いえ、助かりました。でも、もう来ないようにお願いしますね?僕、そういう趣味は有りませんから。」

「…おう…」

僕が笑顔で念を押すと、土方さんは気まずそうに目を逸らした。
…後で近藤さんにもお願いしておこう…
っと、伊東さん!

「伊東さん、先日はご馳走様でした!ご飯、すっごく美味しかったです!!」

「いや、君に喜んでもらえたのなら僕も嬉しいよ。又今度時間が有ったら一緒に行ってくれるかい?良かったら神楽さんも。」

「良いんですか?神楽ちゃんすっごく喜ぶと思います!」

にっこりと微笑む伊東さんは、本当に優しくなった。
大切なモノを失ったけど、代わりにもっと大切な者を手に入れたから。
それを僕らのおかげだと言って、たまに万事屋がピンチの時にこっそり僕と神楽ちゃんにご飯を奢ってくれるのだ。
この間もバレンタインのお返しだってご飯をご馳走になったんだ。それも、当日だとお菓子を沢山貰うだろうし、忙しいだろうからって日にちをずらしてくれるって気遣いまでしてくれたんだ。
凄いよなぁ…この人がいるからちゃんと運営出来てるんだろうな、真選組。

僕らが楽しく話をしていると、ゲフンゲフンと咳ばらいが聞こえる。
…土方さん…?

「おい志村、お前伊東と飯に行ったのか…?」

「はい!バレンタインのお返しってご馳走になりました。あ、でもそうじゃなくてもよくご馳走になってるんです…」

僕が笑顔で答えると、何故か焦った顔の土方さんに腕を掴まれる。
何だ…?

「おまっ…まさか…伊東と付き合って…」

「は?何言ってんスか土方さん。伊東さんに失礼ですよ!真選組にそういう性癖の方が沢山居るのは先程知りましたけど、僕らまで一緒にしないで下さい。伊東さんの御好意を曲解しないで下さい!全く…銀さんと一緒で土方さんも爛れた恋愛しかして無いんですね!沖田さんが言ってた通りだったんだ。」

「なっ…天パと一緒にすんじゃねぇ!それに総悟の言う事なんざまともに聞く必要ねぇ!!」

瞳孔を開ききってそう言ってくる土方さんはやっぱり怖い。
そっと伊東さんの陰に隠れると、スッと僕を庇って土方さんと対峙してくれる。
そうしたら何故か土方さんの顔がもっと怖くなった。
そう言えば伊東さんと土方さんは仲が悪いって沖田さんや山崎さんが言ってたっけ…
…早々に退散しよう…

「あっ…あのそれじゃ僕はこれで!お2人とも助けて下さって有難う御座いました!」

伊東さんを盾にしたまま後ずさって掛け去ろうとすると、慌てた土方さんが僕を呼び止める。

「オイ志村!コレ持ってけ。」

ひょいと投げ渡されたのは、可愛らしくラッピングされた何か。
…コレ…有名なお菓子屋さんの包み紙…だよな…?
あ!お返し…かな…?

「有難う御座います!やっぱり土方さんは常識人だったんですね、僕安心しました!!」

「おう。」

ニコリと笑ってくれた土方さんの頬が薄っすら染まっていたのは僕の気のせいだ。うん。


…そう言えば、真選組の皆さんにはほとんど会ったのに、沖田さん居なかったなぁ…
イヤ、あの人がお返しなんかくれる訳ないか。ドS王子だしな。
でも、チョコあげた時は凄く嬉しそうで、『お返し期待しときなせぇ!』とか言ってたのに…
あの勢いなら、朝イチで来そうだったのになぁ…

何故か悲しい気持ちになりながら、その後は誰に会う事も無く万事屋に着くと、階段の下に袋を抱えた長谷川さんが居た。

「よお新八君!これ、この間のお返し。なんかさぁ、あのチョコもらってから運が向いてきたみたいでちょくちょくパチンコで勝つんだよねー!景品で悪いんだけど神楽ちゃんと食べてよ。」

そう言って、両手に1個ずつ抱えた紙袋一杯のお菓子をくれた。

「有難う御座います!」

凄い!
真選組の皆さんに頂いたお菓子も有るし、持ちきれない位のお菓子なんて初めてだよ!!

「いーよいーよ。そのかわり又あのチョコくれない?」

「…余裕ある時なら…」

「よろしくねー!マジよろしくねー!!」

拝みつつ長谷川さんが帰って行ってしまった。
…又チョコを食べたからって、運がつくかは分かりませんけどねー…


皆さんに頂いたお菓子を持って万事屋に入っていくと、大喜びの神楽ちゃんが僕を迎えてくれた。
こっそり買っておいた、可愛い包み紙に包まれたキャンディをお返しと言って渡すと、ふんわりと笑った神楽ちゃんが恥ずかしそうにこっそりと耳打ちしてくる。

「あのネ、バレンタインにワタシもチョコもらったから、新八にお返しあるヨ…」

そう言って神楽ちゃんがこっそりくれたクッキーは、勿体無いんでしばらく部屋に飾っておこうと思いました。



その後はいつも通りに家事をして、3時には皆さんに頂いたお菓子を2人で食べて、買い物に行って2人で夕飯も食べた。
それでも銀さんは帰って来なかった。

…姉上…殺っちゃったのかな………

「新八、もう帰る時間アル。」

「うん、そうなんだけど銀さん帰って来ないよね…僕、泊っていこうかな…」

「ホワイトデーだから『僕がプレゼント』とでも言うつもりアルカ?キモイアル。帰れヨ。」

「言わねーよ!物騒だと思っただけだよ!!」

物凄い軽蔑の眼差しで僕を見る神楽ちゃんがずりずりと後ずさる。
そっ…そんな事思ってねーしゅ!!!

「じゃぁ僕帰るよ!」

「おつかれヨー」

逃げるように万事屋を出てきちゃったけど…まぁ定春も居るし…大丈夫だよね…?