キミと一緒に



久し振りに万事屋に舞い込んだ仕事は、この時期結構荷物の量が増えるからと長谷川さん経由で僕らの所にも依頼がきた宅配便の配達業務。
後一歩で洒落にならない位ヤバかった僕らは、もちろん喜んでこの依頼を受けました。


出来るだけ沢山の荷物を配達してお金を稼ごうと3人バラバラに配達する事にしたんだけど…銀さんも神楽ちゃんもちゃんとサボらないで仕事してくれるのかなぁ…心配だよ…
そんな風にちょっと不安だったんだけど、順番に荷物を配達していくうちに僕はだんだん笑顔になっていった。
だって、僕は頼まれた荷物を配達しているだけだっていうのに、その荷物を受け取った人達はとても嬉しそうな笑顔を見せて僕にお礼を言ってくれるんだから…僕まで嬉しくなってしまうじゃないか!
うん、今日の仕事は凄く良い仕事だったのかも!!


そうして配達しているうちに、僕が配達する分の荷物は残り1個になった。
これを配達し終わったら僕の分の仕事は終了だ。終わった順にそれぞれで帰るって事に決めてたからもうそのまま家に帰っちゃって良いんだけど…大江戸ストアに寄って買い物して帰ろうかな?
そんな計画を立てつつ最後の荷物の宛名を見ると、そこには『沖田総悟様』の文字。

………えーっと………コレってアノ沖田さん…だよね…?

差出人は『沖田ミツバ様』
…田舎の母上様からの贈り物かな…?なんか、意外…
しかし、コレ神楽ちゃんの担当にならなくて良かったよ…もしなってたら、きっとダダじゃ済まなかったよ、この荷物。


真選組の屯所まで行くと、丁度門をくぐって沖田さんが外に出てきた所だった。ラッキー!

「沖田さーん!沖田総悟さーん!沖田ミツバ様からお荷物届いてまーす!!」

僕がそう叫びながら近付くと、無表情なままの沖田さんも僕に近付いてきてくれる。
でも、なんだか…その表情が、少し綻んだ気がする。

「サインお願いします!」

僕が伝票を差し出すと、サラサラと署名してくれる。
あ、ボケないんだ。こういうのは普通なのかな?それとも銀さんや神楽ちゃんが居ないからかな?

伝票を受け取ってから荷物をお渡しすると、その顔はやっぱり少し嬉しそうに見える。

「田舎の母上様からの贈り物ですか?」

つい僕がそう聞いてしまうと、驚いたように僕を見た沖田さんがニヤリと笑った。
何…?

「姉上でさァ。どっかの雌ゴリラと違ってしとやかで優しくて美人な。」

…あからさまにウチの姉上をディスってるよね、コレ…

「へぇー、サディスティック星の女王様ですか。さぞかしボンテージの似合う美女なんでしょうねー」

僕も負けじと言い返すと、沖田さんの顔がピクリと動いた。
ヤバい!ドS王子を怒らせちゃったの僕ゥゥゥ!?

「ウチの星の女王様は姐さんじゃありやせんでしたっけ?あぁ違うか。毎日ゴリラをギリ殺しまでいたぶるような腕力を持ったお方だ。アマゾネスクイーンでしたっけ?」

顔を引き攣らせながら言い返してくる沖田さんはいつもの余裕な感じじゃなくて…アレ…?

「は?ウチの姉上は才色兼備な大和撫子ですけど?普段はしとやかでも、身にかかる火の粉を払える強さは併せ持っているんですよね。」

「そりゃぁスゲェや。ウチの姉上じゃ可憐で儚げでか弱いからとてもそんな事は出来やせん。まぁ、だから並居る色男達が護りたくなっちまうんでしょうけど。」

「それは大変ですねーウチの姉上はなんせ美人ですから。ゴリラストーカー以前にもおかしな虫どもにたかられまくっちゃって困りましたよ。そんな虫どもを叩きつぶすのに、仕方なく、つけた力ですからねー」

もうほぼ子供のケンカになってない?コレ…
でもなんか…この言い合いが、ちょっと楽しい…

「そりゃ大変でしたねィ…ま、ウチの姉上に集る虫はどこぞのゴリラと違ってスマートな虫ばっかですからねィ。やっぱ華の種類が違うと集る虫も違ってくるんですかね?」

「は?ウチの華に寄って来るのもスマートですけど?中にはおかしなのもいるって話ですよ。それだけ多いって事なんですけど?アイドルみたいなもんですからね、ウチの姉上は。」

「あぁ、アイドル止まりだからですかィ。ウチの姉上はそんなモン飛び越えた女神的存在ですから。」

「ウチの姉上もある意味女神ですよ。卵焼きで宇宙滅ぼせますからね。」

「ウチの姉上の卵焼きだって喰った奴は火ィ吹けやすからね。エコでさァ。」

そこまで言い合って、何かに気付いた僕らはお互いの肩を叩き合った。
料理は…触れないでおこう…
火を吹く卵焼きって…この人良くここまで無事に成長してきたなぁ………僕もだけど………

「…えーっと…田舎の特産品とか送ってくれるんですか?」

僕が誤魔化し笑いしながら聞くと、沖田さんもうっすらと笑った。
わ…普通に笑えるんだ、沖田さんって…って当たり前だけど!でも、今迄ニヤリとかしか見た事なかったし!!

「いんや、誕生日なんでィ。毎年欠かさず贈り物送ってくれるんでさァ…もう子供じゃないのにねィ…」

そう言って照れたように笑った顔は、年相応の爽やかなもので…僕はつい見惚れてしまった。

「おっ…沖田さん誕生日なんですか?」

「7月8日…明日でィ。」

「それはおめでとうございます!お祝いしなくちゃ…っていっても僕高価なプレゼントは買えませんけど…」

何だかテンパって僕が妙に張り切ってしまうと、目の前の沖田さんがぼんやりと僕を見つめた。
あぁぁぁぁ!そんなに親しい訳でもないのに何言ってんだ僕ゥゥゥ!!

「…眼鏡くん、祝ってくれるんで…?」

「僕、志村新八って言うんですけど…」

「新八くん、俺の誕生日祝ってくれるんで?」

呆然としていた沖田さんの表情が、ふわりとした笑顔に変わる。
引いてた訳じゃなかったんだ…良かったー…!

「はい、折角知ったんですから!万事屋では誕生日パーティーをするんですよ?」

「パーティー…あ、今晩から俺の誕生日飲み会やるんでした。ついでに新八くんも混ざんなせェ。」

「え!?僕なんかが混ざっても良いんですか…?」

さすがに真選組の中に一般人が入ったらマズイんじゃ…?

「お前さんなら地味だし、混ざってても解んねェよ。」

「失礼な事言うなやァァァ!」

「褒めてんですけどねィ…」

僕が盛大に突っ込んでも沖田さんはどこ吹く風でおかしな事言ってるし…
本気っぽい表情が怖いよ!

「あ、プレゼントも忘れないで下せェよ?」

「はい。しつこいようですけど、僕にはそんな高価なものは買えませんよ…?」

僕が恐る恐る言うと、沖田さんがニヤリと笑う。
なっ…何企んでるんだ…?

「そう高いモンじゃありやせん。新八くん卵焼きは作れやすか?」

「え?はい、黒くないヤツですけど。」

「んじゃ、赤いヤツ作ってきて下せェ。」

そして聞いた『赤い卵焼き』の作り方は恐るべきモノで…
でも、せっかくのリクエストだから。
僕は夕飯のついでにソレを作って、教えられた時間に真選組の屯所まで戻った。