あのコといっしょ
気持ちの良い朝の日差しが降り注ぐ今日8月12日は、僕、志村新八の誕生日です。
昨日からソワソワと落ち着きの無かった銀さんと神楽ちゃんは、きっと何か考えてくれているんだろうなぁ。
そう思うと、つい僕の顔も緩んでしまうんです。
サプライズで何かしようと考えてるんだろうから僕が気付いちゃダメなんだろうけど、あんなあからさまな態度じゃ気付いちゃうよね…
それでもあの2人が一生懸命考えてくれてるって事だけで凄く楽しみで、僕までソワソワしちゃって落ち着かない。
いつもより全然早いけど、もう万事屋に行っちゃおうかな…でも、2人にも用意があるだろうし…あんまり早くに着いちゃってもアレだよね…
そんな風に色々考えてたら結局いつも通りの時間になったんで、僕は慌てて家を出た。
すると、門の所に見慣れた黒服と綺麗な薄茶の髪…沖田さん…?
今日も朝から近藤さん来てたっけ…?
何にしても、誕生日に沖田さんに逢えるなんてラッキーだ!
もしかしたら、何かのはずみで沖田さんにも僕の誕生日を祝ってもらえるかもしれないもの…
沖田さんと僕はあんまり親しく話した事は無いけれど、仲良く出来たら良いのにってひそかに思ってる人なんだ。
だって沖田さんってドS王子なんて言われてるけど、僕はイジワルなんてされた事無いし、気を使ってくれたりとか実は優しい人だって知ってるし。
見た目は綺麗なのに気どった所も無いし、剣の腕だって真選組隋一なんて言われるほどだし…正直に言うと、憧れだったりするんだ。
それに今日は僕誕生日だし…そんなに酷い目に遭うほど運悪くないと思うんだ…
だから、僕はぼんやりと家の門の前に立っている沖田さんに、勇気を出して声をかけてみる事にした。
「おはようございます沖田さん。近藤さんですか?」
「イヤ、今日は近藤さんじゃなくて新八くんに用事でさァ。」
「僕…?」
ニヤリと笑った沖田さんが動いたと思った瞬間、僕の視界はぐるっと回って小脇に抱えられて何処かに連れ去られてしまったのだった…
◆
「…えっと…あの………」
沖田さんに連れ去られた僕は、なぜか今、静かで良い感じの喫茶店に沖田さんと向かい合わせに座ってメニューを持っていた。
「なんでィ、朝飯喰えるだろ?好きなの頼みなせェ。俺のオススメはトーストセットですがねィ…新八君が甘いの好きならフレンチトーストセットもオススメでさァ。」
いつもの飄々とした表情で僕に朝ご飯を勧めてくるけど何だコレ!?
「あの、沖田さん!僕は朝ご飯食べましたし、外食なんて余裕はありません。」
なんとか話を聞いてもらおうと少し大きな声で沖田さんを呼ぶと、きょとん、と僕を見た。
「え?育ち盛りなのに喰えねェの?金は心配すんねィ、俺がご馳走してやらァ。新八くん誕生日だろィ?」
「へっ…?イヤ、そうですけど…沖田さん、なんで知って…」
「昨日近藤さんが騒いでやした。」
…あー…例の局中法度…まだ有るんだアレ…
沖田さんは近藤さんの事大好きだからちゃんと守るんだよね…それなら、ご馳走になっても良いのかな…?
「それじゃ遠慮なく。えーっと…沖田さんのオススメはトーストセットですよね…わ!ベーコンとソーセージとキレイなスクランブルエッグ!美味しそう…フレンチトーストは…クリームと…フルーツがいっぱい!両方美味しそうで迷っちゃうなぁ…」
メニューを見ながら真剣に悩んでいると、正面にふと見えた沖田さんが、ものっすごく優しい目で僕を見守っていた。
え!?アレドS王子だよね!?
あっ…あんな顔するんだ…元がイケメンなんだから、そんな顔したら無敵じゃん!
なんだかドキドキする…顔赤くなっちゃってるよきっと…
凄く恥ずかしくなって真剣に選ぶフリをしてメニューでしっかりと顔を隠すと、フッと笑った沖田さんがマスターを呼んでトーストセットとフレンチトーストセットの両方を注文した。
「新八くん決められらんねェみたいだから半分こしやしょう?あ、コーヒーは飲めやすよね?ココのコーヒーは絶品なんでさァ!」
ふわりと笑ってメニューを取り上げられたら赤い顔が隠せないじゃん!
でも、いつもにないその笑顔のせいなのか、全然嫌な気分じゃない。
そんな笑顔、いままで見た事無いから…なんで今見せてくれてるんだろ…?もしかしたら沖田さんも僕と仲良くしたいって思ってくれてるのかな…?そうだったら嬉しいのに…
沖田さんのお勧めの通り、トーストセットもフレンチトーストセットも凄く美味しくて大満足の僕は、本当に沖田さんにご馳走して貰って大きく頭を下げた。
「両方ともすっごく美味しかったです!あ、コーヒーも!!今日は僕の誕生日を祝って下さってありがとうございました。」
「気にすんねィ。」
始終笑顔の沖田さんとも沢山お話出来たし、今日は最高の日だったな!
さて、少し遅くなっちゃったけど万事屋に出勤しよう。2人とも待ってるよね。
あ、でも銀さんや神楽ちゃんにこの事がバレたら煩いから、この事は黙ったままなんとか誤魔化して…なんて2人への言い訳を考えつつ、もう1度沖田さんに会釈して万事屋に向かって歩き出そうとしたら、僕の手がガッシリと掴まれて反対方向に引かれた…え…?
「誕生日はこれからでィ。さ、次は何処行きやしょう…やっぱCD屋ですかィ?」
「え!?沖田さん!?」
「俺が飯奢って済ませる程度の男だと思いやすか?甘ェよ新八くん。」
再びにっこりと笑った沖田さんに引き摺られて、僕は又何処かに連れ去られたのだった…
◆
結局僕をCDショップに連れていった沖田さんは、最新のお通ちゃんのBDを買って、リボンをかけて僕に手渡ししてくれた。
「本当にコレだけで良いんですかィ?」
とか気前の良い事言ってくれるけど、ご飯を奢ってもらっただけでも十分なのに、どうせプレーヤーを持ってないからって諦めていた『おつコン2013今日もLOVE色咲かせちゃ横隔膜!!特別限定版』までプレゼントして貰えるなんて夢のような出来事なんだよ!!
「もう十分ですよ!そりゃ沖田さんみたいな高給取りにしたら何でもない事なのかもしれませんけど、僕にとっては沖田さんにこんなにプレゼント貰えるなんて夢みたいな出来事なんですよ!?このツアーも当然生で見ましたけど、映像は又違うんです!すぐにでもネット茶屋で観たいくらいですからね!!」
つい、僕のお通ちゃん愛が噴きだしてしまったけど、沖田さんはバカにするでもなく神妙な顔で僕の話を聞いてくれていた。
絶対バカにされると思って思ってたのに…意外…
「確か土方がブルーレイ持ってやしたね…んじゃ屯所来なせェ。ソレ一緒に観やしょうぜ。」
そういって手を引かれたら、今度は僕の足も素直に前に進んだ。
…イヤ、お通ちゃんにつられた訳じゃねーしゅから。
なんでか沖田さんも楽しそうだったから…今日は誕生日だし、ちょっと甘えても良いのかなぁ、って思っただけですから!
◆
真選組屯所の沖田さんの自室に通された僕は、座布団に座らされて暫く放置されていた。
手持無沙汰で部屋の中を見回すけど、そこは殺風景というより何も無い部屋で…
やっぱり真選組の隊長ともなると、余計な物は不必要とかストイックな生活をしているんだろうか…?
僕とはやっぱり違うんだな…
少し寂しい気持ちになっていると、ドタドタという足音が聞こえてテレビとプレーヤーを抱えた沖田さんが帰って来た。
「お待たせしやした!あー、これ台が要りやすね…押入れの中の………あ!やっぱ良い…!!」
押入れ、と言われてすぐに僕が立ち上がってソコを開けると、中から色んな物が雪崩れ落ちてきた…
えーと…この折りたたんである机で良いのかな…?
無言で机を出して、お菓子やらおもちゃやら雑誌をそっと戻して引き戸を閉める。
…ストイックとか思っちゃったよ僕…
振り向くと、テレビとプレーヤーを抱えたまま顔を少しだけ赤くした沖田さん。
その顔は、年相応…というより年下みたいに見えて、凄く可愛らしい。
そう思った瞬間、堪えきれなくて僕は吹き出してしまった。
「…ぶふっ…」
「もっ…もしかしたら新八くん来るかもって思って片付けたんでィ…笑うならちゃんと笑えィ…」
お言葉に甘えて僕が思いっきり笑うと、沖田さんは僕の頭にゲンコを落としやがった。
なんだ、同じじゃん。
真選組の隊長っていったって、普段は同年代の、ただの悪ガキじゃん。
その後は、2人でテレビとプレーヤーをセットして、一緒におつコンBDを観た。
「お、隊長映ってやすぜ?…すげェオタ芸…」
「僕らの愛の応援行動ですから。一体感が凄く高まるんですからね!あ、沖田さんもやってみましょうよ、僕教えますから!きっとお通ちゃん愛が高まりますよ!!」
僕が立ち上がって沖田さんの腕を引っ張るけど、ダラダラと座ったままの沖田さんは立とうとしない。
「えー…俺寺門さんに愛なんて無ェ…」
「お通ちゃんへの愛は隠す事じゃないですよ!だって可愛いんですもん仕方ないですよ!!」
「…新八くん俺の話聞いて無いですよね…」
僕が沖田さんを無理矢理立たせて曲に合わせて踊りだすと、沖田さんも見様見真似で一緒に踊ってくれる。
うんうん、やっぱりお通ちゃんの愛らしさは誰をも虜にするんだよね!
そのままBDの最後まで2人で歌って踊って、僕は最高に楽しい時間を過ごした。
沖田さんも楽しいって思ってくれたかな…?
「沖田さん!すっごく楽しかったですね!!」
「おー、目の保養になりやした。」
そう言って、沖田さんは今日何度目かのキレイな笑顔を見せてくれた。
そうしたら、僕の心臓は又トクリと鳴った。
やっぱりキレイな顔だなぁ、沖田さん…いつも今日みたいに笑ってたら、きっと女の子達が黙っていないよね…残念な人だ。
まぁ、僕ならどんな沖田さんでも…
ん…?
どんな沖田さんでも何だ…?
BDが止まったんで大事にケースにしまうと、コンセントを外した沖田さんがテレビとプレーヤーを抱えた。
「…あー…又観たくなったら俺に声かけなせェ。何回でも一緒に観てやらァ。」
「はっ…はい!楽しみにしてます!!」
僕がそう答えると、沖田さんはご機嫌なままどこかへ行ってしまった。
けど…本当にそんなに甘えちゃっていいのかな…?
沖田さんも楽しかったから、っていうなら嬉しいんだけど…
今度こそ万事屋に出勤しようと僕が荷物を纏めていると、戻ってきた沖田さんが僕の荷物を押入れに投げ込んだ。
「えっ!?ちょ…お通ちゃんを乱暴に扱うなやァァァ!!」
「布団の上に投げたから大丈夫大丈夫。さ、昼飯の時間ですぜー」
もうそんな時間だったのか。
この口ぶり…まさか昼ご飯もご馳走してくれるの!?さすがにそんなにご馳走になる訳にはいかないよ!!
「沖田さん!僕そろそろ万事屋に…」
「屯所の食堂だから安心しなせェ。局中法度四十六条がある限り、新八くんが喰ってたって誰も怒りゃしねェよ。」
「イヤイヤイヤ、ダメでしょう!?」
「やさしくしないと切腹ですからねィ。それに皆今日が新八くんの誕生日だって知ってるからプレゼントだって言いまさァ。」
そうして又ふわりと笑いかけられたら、それ以上断るなんて出来なくなってしまった…
大人しく握られたままの手を握り返すと、ビクリと震えた沖田さんの手を握る力が強くなった。
ソレがなんだか安心してしまって、僕は大人しく食堂のご飯をご馳走になる事にした。
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