25・眼鏡とコンタクト



神楽ちゃんとケンカした。
だってさ、いっつも食事当番僕に押し付けるんだもん。
だから言ってやったんだ、今日の晩御飯作ってよ、って。
そうしたら神楽ちゃんは、新八のクセにナマイキヨ!って言った。
ムッとしたんで、そんな事言う神楽ちゃんにはもうご飯作ってあげない、って言ったら神楽ちゃんが僕に掴みかかってきた。
負けるもんかって僕も掴みかかったら、お互い引けなくなってぐいぐいと押し合い引き合いが始まった。

…勢いで僕の眼鏡が引っ掛かって、フレームが曲った…

僕が黙って眼鏡をはずすと、神楽ちゃんが、あっ、って顔をした。
もじもじと謝ろうとする空気は感じたけど、今日は笑って許してあげられる気になれない…
眼鏡を外したままじろり、と睨んで、そのまま万事屋を後にした。
もう知らない。
僕だって怒る時は怒るんだからなっ!!

もうすっかり夕焼けに染まった道を、家に向かってズンズン歩く。
明日眼鏡直してこなくちゃなんないから、電車になんか乗れないし!
それもこれもみんな神楽ちゃんのせいだ!
神楽ちゃんなんか!神楽ちゃんなんか…!

…ちゃんと謝ろうとしてくれてたよな…僕が無視して帰って来ちゃった…
銀さん…ちゃんと帰ってくるかな…帰ってこなかったら神楽ちゃんご飯食べられるのかな…

いやいやいやっ!
たまには良いんだ!神楽ちゃんだって、僕の有難味を分かれば良いんだよっ!

僕がぷりぷりしたまま歩いていると、遠くに明るい茶色と黒い塊が見えた。
あ!沖田さん…
偶然見かける事が出来た幸せに、傍に駆け寄ろうと思ったけど…
今日は駄目だ…きっと神楽ちゃんの悪口しか出てこない…大好きな人に、嫌な奴だって思われたくないよ…
僕が俯いて逃げようと思った時には、目の前に沖田さんが居た。

なっ…早っ…!?

「よぉ、万事屋の新八君じゃぁねぇか。」

「あれ?今日は『眼鏡』って言わないんですね。」

「おぅ、メガネじゃねぇし。どうしたんでィ?」

うわっ…嬉しい…僕の名前知っててくれたんだ…っ!

「ちょっと有りまして…眼鏡のフレーム曲ったんで…」

「へぇ。見えるんですかィ?」

「はい、ぼんやりと。」

「へー…」

沖田さんが、無表情でじろじろと僕を眺めまわす。
なっ…なんだろ…

「何ですか?眼鏡が無いと個性まで無くなった、とか目が3になってる、とか言いたいんですかっ!?」

「イヤ、意外と可愛い顔してんだなぁってね。でも…」

えぇーっ!?うそーっ!?うそーっ!?うそーぉぉぉぉぉぉっ!?
かっ…可愛いって!沖田さんが可愛いって言った!!!
ぼっ…僕の事だよねっ!?かっ…可愛いって…うわ…っ…嬉しい…

「ぼっ…僕は男ですからっ!そんな事言われてもっ…明日眼鏡直してくるしっ!」

「そうなんですかィ?」

「そうですっ!」

あぁぁぁぁ…やっちゃった…
ここで頬でも染めて俯いたら…って、男の僕がやっても可愛くないよね…でもでも、褒めてくれたんだから、お礼ぐらいいった方が良かったよな………

…ぷっ…

なっ…何…?
僕が顔を上げて沖田さんを見ると、くすくすと笑ってる…
わ…綺麗な笑顔…

「何真っ赤になって百面相してんでィ。んな可愛いと襲っちまうぜ?」

僕がぼーっと見とれてると、ぽんぽん、と僕の頭を撫でる。

「おっ…襲う、ってなんですかっ!沖田さんってそういう人だったんですかっ!?」

「さぁねぇ。じゃーな、早くメガネ直せよ?」

「言われなくても明日には直しますっ!!」

沖田さんがひらひらと手を振りながら、去っていく。
なっ…んだよ…からかわれたのかな…
でも…可愛いか…どうしようかな…眼鏡やめて、コンタクトにしようかな…