そいつは、母さんの葬式が終わるまで、ずっと一緒に居た。
なんだかんだの手続きをすいすいとこなして、にかりと笑う。
ぼさっとしてる風に見えるけど…案外やり手なのか…?
全部終わってアパートも引き払って、そいつの家に行く、って時点で俺は大事な事に気付いた。
「…おい…俺…アンタの名前も知らねぇ…」
「…母さんは、ワシの事全然話さなかったがか…?」
「おう…親父なんて生き物…居ねぇと思ってた…」
「そうか…ワシは、坂本辰馬じゃ。それじゃぁ、家に着くまでに、少し話とこうかのぅ…ワシとアイツの話を…」
そいつがそう言いつつ乗り込んだ車は見た事も無い位デカくて…運転手が居て…中にシャンデリアが付いてて…
コイツ…何者…?
俺がちょっとビビって立ち止まってると、柔らかい笑顔を浮かべたタキシード姿の爺がぐいぐいと俺を車に押し込む。
なっ…何だ…?良い人っぽいのになんて強引な爺だ…!
抵抗するのも馬鹿らしいんで、大人しく乗り込むと、もじゃが車内でコーヒーなんか飲んでやがる…それも、あれ、インスタントじゃねぇんじゃねぇか…?
「晋助も飲むがか〜?」
とか呑気に言ってんじゃねぇよ!
そんな生活してねぇんだよ、こっちは!!
「お…」
俺が返事をする間もなく、さっきの爺が人当たりの良い笑顔で、俺にコーヒーを差し出す。
いっ…いつの間に…
ビビった自分が何か悔しいんで、何事も無かったように受け取ってくっと一口飲むと、甘さも温度も丁度良い…
何者だ、コイツら…
「落ち着いたがか〜?んじゃ、そろそろワシと母さんのラブストーリーを聞かせるぜよ〜」
「…恥ずかしい言い方だな…」
俺の精一杯の嫌みなんざ聞こえない感じで、もじゃが語った内容は、俺にとっては衝撃の事実だった。
クソみたいな脚色を全部とっぱらうとこうだ。
もじゃこと坂本辰馬は、坂本カンパニーの社長で…その会社名、俺でも知ってるぞ…
母さんはそこの社員だった。
で、母さんに手を出したバカ社長にはちゃんと奥さんが居て…
俺を身ごもった母さんは、その奥さんに遠慮して姿を消した。
そりゃもう徹底的に。
もじゃが必死で探しても見付からない位完璧に。
で、近所の人が気を利かせて新聞にのっけてくれた母さんの死亡記事を見て、やっと俺達を見付けた…と…
「…本当にすまんかったのぅ…もっと早くに逢いたかったぜよ…寂しい思いをさせてしもうたのぅ…アイツにも…生きてる内に…逢いたかったぜよ…」
もじゃが、またぼろぼろと涙をこぼす。
…コイツが…もっと嫌な奴なら良かったのに…
「今の話を聞いてっと…俺がアンタの家に行くのは…まずいんじゃないのか…?嫁さんが…嫌な思いするんじゃ…」
「晋助は優しいのぅ〜!」
もじゃが、更に泣く…おっさんなのに…子供みてぇな奴だな…
泣いちまって何も話せなくなったもじゃの代わりに、執事長だと言うさっきの爺が説明する。
「残念ながら、奥様は一昨年亡くなりました。なので、晋助様が心配する必要は御座いません。」
「…へぇ…」
その人も…大変だったんじゃねぇのか…?
まぁ、今更俺がどうこう言う事じゃねぇけどな…
そんな話を聞きながら、俺が連れて行かれた所は…
庭だけでどんだけあんだ!?と言うような豪邸で…
「…何だ、コレ…」
「今日から晋助が暮らす家じゃ。あ、家には今姉ちゃんが居るきに挨拶はちゃんとせいよ?姉ちゃんは厳しい人じゃからのぅ。」
「…はぁ…」
暫く車が走ってやっと着いた玄関には、執事やらメイドやらがゾロリと並んで俺達を迎えた…
こんなの現実で有るのかよ…
着いてすぐに俺が連れて行かれたのは、その姉ちゃんと言う人の所だった。
「君が晋助君?こんにちわ、私は坂本音女(おとめ)。そのモジャモジャの姉よ。そいつが迷惑かけたわね。」
「…はぁ…高杉…晋助です…」
その女は…背が高くてスタイルも凄い、美人で…
「元気無いなぁ!男の子がそんな事じゃ駄目だぞ?あ、お腹空いてるのか…よし!すぐに作ってくるから!」
…なんとも豪快な女で…
ズバン!と俺の背中を叩いて部屋を出て行きやがった…
「…何なんだ…?」
「姉ちゃんはああいう人じゃから…そのうち慣れるじゃろ…」
もじゃが、ハハハ…と乾いた笑いをこぼす。
慣れる…のか…?
暫くして俺達が呼ばれた食堂は、何人で食べるんだ!?ってぐらいデカくて…
その上そこに乗りきらない位料理が並んでて…
「あ、来たね晋助君!どんどん食べてね!!」
「…はぁ…」
執事の人とメイドの人に促されて座った席の両隣りに、もじゃと姐さんが座る。
「…あの…広いんだけど…何でこんな…近いッスよ…」
「ここが良いんじゃ。」
「私もここ以外嫌。」
2人にぎゅうぎゅう挟まれて、食べても食べてもわんこそばみてぇに皿に盛られて…初対面でも流石にはいはい言ってられねぇ!
「もう無理ッスから!そんな喰えねぇよ!!」
「黙り!育ち盛りの男ん子が、こんぐらい喰えん訳無か!」
「いや、無理っつってんだろ!ってか姐さん言葉遣い…」
「やかましか!ウチの子になったからにはこんぐらい喰い!それから、姐さんは止めるぜよ!音女さんじゃ!!」
「…音女さん…俺、今までこんな量の飯喰った事無いから…マジで無理…」
「晋助…」
「晋助君…苦労したんじゃのぅ…」
今度は両側からぎゅうぎゅう抱き締められる…
うっとおしい…と思う反面くすぐったい…
なんとなく…なんとなくだけど…この人達となら…上手くやっていけそうだ…そんな気がする…
「晋助君…いや、晋助!明日からはおんしも料理の手伝いするんじゃよ?」
「…は…?こんなデッカイ家なのに料理人とか居ねぇのかよ!?」
「はぁ?今時そんぐらい自分で出来るようにならんと、婿の貰い手も無いぜよ?」
「はぁぁぁぁ!?」
音女さんがにっこり笑ってウインクする…
もじゃは苦笑いして「諦めぇ」とか言ってやがるし…
前言撤回だ。
ものっ凄く面倒そうだ…
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