いつの間にか、季節も巡ってもう冬になっちまった。
俺は、何も行動できないままもうこんな季節だ。
まぁ…他の奴らもどうにも出来てねぇみたいだが…油断は出来ねぇよな…
しっかしパチ恵はニブイな…おっそろしいくらい、色事にはニブイ。
アレ、誰の気持ちも気付いて無いぞ?絶対。
勿論、俺の気持ちも…
まぁ、気付かれたら警戒されるだろうし…今はまだ気付かれなくて良い…
やっと良い兄貴の座を獲得したからな。
おやすみのキスとかもしてくれるようになったし(頬だけど)、ぎゅーと抱きついてくるようにもなった。
いつまでも、って訳じゃねぇが、もう暫くこのままでも良いかな…?とか思っちまうぐらい、今の立ち位置は心地良い。
でもいつか必ず…俺のモノにする…
とりあえず今日は部活も休みなんで、久し振りにパチ恵の手伝いでもしようかと大江戸ストアに向かう。
クラスに行ったらもう帰った後だって言うし…今日は買い物が有るから帰りにはスーパーに寄る、って言ってたしな。
たまには荷物持ちぐらいしなきゃ、ぷりぷり怒るからな、アイツ。ま、それも可愛いんだけど…
どうせなら有難う、なんて笑って欲しい。
パチ恵の笑顔を想い浮かべながら、俺はスーパーに急いだ。
大江戸ストアに着くと、スグにパチ恵は見付かった。
…けど…隣に総悟が居やがる!?
なっ…なんでアイツが一緒に楽しげに買い物してやがんだ!?
なんで旦那顔してカートなんざ押してんだ!?
俺が早足で2人に近付いて行くと、俺に気付いた総悟が舌打ちをする。
「総悟テメェ…何パチ恵と一緒に買い物なんざしてんだ?あ?坂本家の買い物の手伝いでもしてくれてんのか?そりゃぁご苦労だったな。俺が来たからもう良いぞ?あんがとよ。」
俺が言ってカートを奪おうとすると、総悟じゃなくてパチ恵が邪魔をする。
なっ…なんでだ…!?
「違うよお兄ちゃん!沖田君もお家のお買い物有るからって、一緒にお買い物来たんだよ?」
「そうですぜ、姉ちゃんに買い物頼まれたんでさァ。マヨも頼まれてっからアンタが来るのかと思ってやした。」
ばっ…!パチ恵の前で何言いやがる…
「え?十四郎お兄ちゃん沖田君のお家に行くの?」
「いっ…行かねぇよ…」
「ふぅーん…でも、なんでマヨでお兄ちゃんなの?」
「あれ?近藤知らねェの?坂本さんはウチの姉ちゃんと付き合ってるんですぜ?」
「ばっ…何言いやがるっ!!」
きょとん、としていたパチ恵が嬉しそうににっこり笑う。
あぁ、畜生可愛いな!
それにしても、隣の総悟のニヤニヤ笑いがムカつく…
「そうなんだ!全然知らなかった!えー?どんな人なの?綺麗?可愛い?」
「姉ちゃん見やすか?」
総悟が携帯を開いて写メを見せる。
…アイツもシスコンだからな…
「わー!綺麗ー!!こんな綺麗な彼女が居るのに…十四郎お兄ちゃん恥ずかしがり屋さんだからなぁ…」
「…昔の話だ…」
「坂本さんはシャイでさァ。」
きゃっきゃっとはしゃいでやがるが…
今は…違う…
「…今は違う…だろ…?」
今は俺にはパチ恵が…
「そうでしたねェ、すいやせん。そういやぁ坂本さん、姉ちゃんにこっぴどく振られたんでしたっけ…」
ワザとなのかそうでないのか、ものっ凄い同情したツラで総悟が俺を見る。
ワザとらしい顔がムカつく…
「別にそんな…」
「ごめんね、十四郎お兄ちゃん…辛い事…想い出させちゃって…」
それにつられたのか、パチ恵までが俯いて俺に謝ってくる。
え?ちょ、何その雰囲気?
まるで俺がまだ引きずってるみたいじゃねぇか!
「おい、勘違いするなよ?確かに俺は振られたけどな…」
俺が言い募ると、パチ恵が俺の腕にぎゅっと抱きついてくる。
おっ…おいおい!こんな所で…総悟が睨んでんじゃねぇか…
俺はちょっと優越感に浸っているけど、パチ恵の勘違いは続行中で…
「お兄ちゃん、強がんなくても良いんだよ?男の人だって辛い時は我慢しなくて良いんだよ?」
自分の方が泣きそうなツラして見上げてくんじゃねぇよ…!
つい…ぎゅっと抱きしめてしまう。
パチ恵もぎゅっと俺に抱きついてきて、背中をポンポンと叩く…慰めてるつもりなのか…?
思いっきり勘違いしてるけど…抱き締めた身体が気持ち良いんで…訂正はしない。
暫くそうしていると、俺からスッと離れたパチ恵が珍しく大人しくしていた総悟にペコリと頭を下げる。
「沖田君ごめんね…今日は十四郎お兄ちゃんとお買い物して帰るから…一緒に帰れなくなっちゃった…」
「あー…そうですねェ…」
「うん。あのね…?」
パチ恵が総悟の耳に手をあてて、何かこそこそと話をしている…!!
なっ…何してんだパチ恵ぇぇぇぇぇ!!!!!
顔が近い!顔が近い!!!
「…だから…」
「判りやした。近藤は優しいねェ。」
「そっ…そんな事ないよ…!」
「そんな事有りやす。んじゃ俺はもう行きまさァ。又今度な。」
「うん、絶対ね?」
「おう、約束。」
総悟がポンポンとパチ恵の頭を撫でると、パチ恵の方から小指を絡めて指切りなんかしてやがる!!
「パチ恵、家の買い物は終わったのか?んじゃ俺らも帰るぞ?晋助が待ってんぞ。」
「あっ、うん!じゃぁね…沖田君、又明日!」
「おう、又明日。」
手を振り合って笑い合う2人の姿が初々しいカップルに見えちまって…俺はテメェの脳内をぶん殴りたくなっちまった。
「…行くぞ、パチ恵。」
「うん。十四郎お兄ちゃん今日何食べたい?今日はお兄ちゃんの食べたいご飯、作るよ?」
…変に気を使われてる感満載だ…
でもこんな事めったにねぇし、理由はどうあれ今はパチ恵は俺だけを見ている…
これにのらねぇ手はねぇだろ…
「そうだな…お、鰤が旨そうだな…」
「鰤かぁ…お兄ちゃん達ってお魚好きだよね。たまにはお肉も食べなきゃだめだよ?でも…じゃぁ今日は鰤にするね!」
照り焼きかなぁ…鰤大根かなぁ…と小首を傾げる姿はまるで嫁さんみてぇだ…
マジで…そうなりゃぁいいのに…
必要な買い物を終えて、家に帰る。
本当なら荷物は全部持ってやりてぇのに、可愛く
「私も持つ!」
なんて言われると持たせてやりたくなっちまう…
俺もコイツには甘ぇな…
一緒に同じ家に帰って、手料理を食って、おやすみのチューなんかして…
あれ?コレ良く考えたら彼女にやって欲しい事全部やれてね?
なんかもう、付き合ってるみたいなもんじゃね?
嫁じゃね?もうコレ。
…悪い虫も動き出してるみてぇだし…
俺もそろそろはっきりさせておかねぇとな…
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