クマのレストランで昼飯を喰って、又手を繋いで散歩する。
意外と絶叫マシーンが好きらしいパチ恵は、それでも俺を気遣って、もう、そういうのには乗らねェでくれるようだ。
パチ恵の好きな乗り物に乗せてやれねェのは悪ィけど、アレは…駄目でィ…トラウマになってんでさァ…
代わりに何かねェかと辺りを見回してっと、パチ恵が一心に何処かを見てる。
…なんか…菓子なのか…?
喰いてェのかな…?
そういやぁ、パチ恵は甘いモン好きだっけ。
「八恵ー、アレ喰わねェ?」
「え…?でも…ご飯食べたし…総悟君半分食べてくれる…?」
俺を伺うように覗き込まれっと、そのままフラフラとちゅうしちまいそうになる。
そっと顔を近付けると、後ろからおっそろしい殺気が俺に叩きつけられる。
おっと、危ない危ない。
殺気なんざ怖かねェけど、本物の保護者に邪魔されんのはちょっと厄介だ。
それに何よりパチ恵が恥ずかしがるから。
折角の良い雰囲気、壊したくないしねェ。
でも、ちょっとだけ…
耳に近付いて、そっと囁いてみる。
「あのクマみてェな食いしん坊だな、八恵は…俺の好みに合わせやした…?」
「にゃっ…!にゃにが…」
耳を押さえて俺から離れようとするけど、離してなんかやらねェ。
「なぁ?そうだって言えよ…」
「意地悪っ…好みになんて…合わせたもん…」
真っ赤な顔で、涙目で。
はにかむように微笑まれたら…
あー!もー!
何回俺を惚れさせるつもりなんでィ、コイツは!!
店に向かうふりをして、ぐるりと後ろを向いて赤くなった顔を隠す。
菓子を受け取ってすぐにバクリと喰って、パチ恵に差し出す。
「…全部喰えよ…」
「有難う!大好き!」
!?
それは…俺…?
ってか俺の手からそのまま喰ってんじゃねェか!!
これは…あの…
「美味しいね、このドーナツ?大好き!」
…あぁ…菓子の事か…
嬉しそうな笑顔が眩しいや…
ちょっとだけ…ちょっとだけ期待したけど…パチ恵がんな事言う訳…
「…総悟君の事も…だいすき…だよ…?」
「…総悟…殺る…」
「あら、皆帰って来たの?」
「とっつあんの娘さんが帰ったもんでね。総悟はちゃんと仲良くやれてますか?」
「えぇ、今の所。勲さんみたいにテンパったりしてませんよ?」
「あー!総一郎君羨ましい…次のテストで赤点付けてやろうか…」
「銀八?君それ教育者としてどうなんだろう?私はそんな風に君を育てた覚えは…」
「ククク…銀八よぅ…松陽センセーの説教は…長いぜ…?」
「いやぁー!ミツバさん綺麗じゃのー!麗しいのー!!ワシは結構甲斐性有るが、どうじゃ?」
「…あの…」
「辰馬ァァァァァァ!何やっちょるがかー!?」
大人しめの乗り物しか乗らなくなった2人が次に向かったのは、よりにもよってお化け屋敷で…
イヤ、別にビビってなんかいねぇし?
ここのはなんか暗いだけだし?
夢の国のお化けなんざ、可愛らしいモンだし?
大体ココ、次の車両に乗らねぇと見えなくね?
だから…
「「や、俺は外で待ってるし。出てきた所を確認するわ。」」
…なんか銀八とカブったのは頂けないが、1人じゃ無かった事に少しだけ安堵する。
「…十四郎…怖ェのか…?」
晋助のニヤケ面がムカつくが、こんな所で挑発に乗って堪るか。
「そんなんじゃねぇだろ!ココは暗いからすぐ後ろの乗り物じゃ無いと前の様子は伺えないだろ。こんな大人数で入る事ぁねぇだろ。」
「そうそう!それで見失ったら困るからね。俺が出口で見張ってよう、って事だよ!」
非常に不本意だが、銀八と一緒に論破するしかねぇ!
意外とまともな事言うみてぇだし…
「暗いから…暗闇に紛れて…エロい事するだろ…」
晋助余計な事言うなァァァァァァ!
総悟はそんな奴じゃ無いって俺は信じてる!!
「そーちゃん…どうかしら…どさくさに紛れて…」
ミツバァァァァァァァ!余計な不安を煽るなァァァァァァァァァァ!!!
「もう!ウダウダ言ってないでさっさと行くわよ!今更バレて無い訳ないじゃない。私達が尾けてるの、もうとっくに知ってるわよあの男の子。パチ恵ちゃんは…気付いて無いけど…」
ふん、と鼻で笑った音女さんに引かれて、俺達は全員お化け屋敷に入れられた。
唯一の救いは、2人乗りの相手が同じニオイのする銀八っあんだった事か…
「…多串君…」
「…銀八っつあん…」
「「手ぇ繋いで行こうか…」」
「「ぎぃーゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」
「…凄い悲鳴だね…怖いかな…?ここ…」
「怖かねェだろ。土方さんばりに怖がりな奴居んじゃね…プッ…」
「え?十四郎お兄ちゃんってお化け怖いの?」
「おう。祭のお化け屋敷でチビったぐれェでィ。」
「えー?そうなんだ…意外ー!」
「苛められたら脅かしてやんなせェ。」
「えへへ…うん!」
そろそろ日も傾いて来て、ここの遊園地の人気イベントが始まる頃…
楽しそうに手を繋ぐ沖田とパチ恵は、パレードの列に並ばねェで、観覧車に向かった…
「ちょ!ヤバい!ヤバいって!!観覧車ってオメー総一郎君チューする気満々じゃねーかよ!!」
「何ぃ!?行くぞ!!」
お化け屋敷以来、銀八と十四郎妙に仲良くなってんじゃねェか…
息ピッタリだろ…
「ワシらも乗りませんか?美しい人…」
「えっ!?あの…」
「ええ加減にせい!すまんのぅ、ミツバちゃん…」
まだ諦めてねェのか親父…
音女さんの攻撃が、ハンパねェぜ…
「勲さん、私達も乗りませんか…?」
「えっ!?妙さん…勿論です!乗りましょう!!」
ゴリラ夫妻が手を取り合って観覧車に向かう…
尾行は…もう良いのか…?
音女さんの、親父への攻撃が激しくなった…
「晋助はどうするんだい?邪魔しに行くのかな?」
松陽センセーが、にこにこ笑いながら俺を見ている…
邪魔しに行く、って言ったら…説教されんのか…?
「邪魔…してェけど…」
「けど?」
「パチ恵…泣かせたく…ねェ…」
「うん、偉い偉い。」
センセーの手が、又俺の頭を撫でる…
ガキみてェで恥ずかしい…けど…暖かくて…嬉しい…
「上から見たら、パレードきっと綺麗だろうね。先生と乗るかい?」
「…乗っても…良い…」
「じゃぁ、乗ろう。」
凄く嬉しそうな、松陽センセーの笑顔を見てっと…おかしな気分になる。
胸が、暖かい、というのはこういうのなんだろうか…?
観覧車の上から、センセーと一緒に見たパレードは…スゲェ綺麗だった…
「わー!凄い綺麗だね!」
「…八恵も綺麗だ…」
「う…総悟君も綺麗だよ…?」
「…来いよ…」
「…パレード…見えなくなっちゃうよ…」
「うん。」
「…隣から…見えちゃうよ…」
「うん。」
「…いじわる…」
「うん。」
「…でも、だいすき…」
「うん、俺も。」
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