「…ったぁ………」
「ってェ………」
少しの間気を失っていたのか、私は始業のチャイムで気が付いた。
あー…おべんと食べられなかった…の割にはお腹空いて無いな…さっきまではペコペコだったのに…
それよりも体中が痛い…どれぐらい落ちたんだろ…?
ふるふると頭を振って周りを見回すと、一段分ぐらいしか落ちて無いみたいだった。
体も痛いしおべんとも食べてないし、ぶつかった相手に謝って屋上に上って、悪い事だけど5時間目はお休みさせてもらおう。
「あの………」
…あれ…?
今声出したの私だよね…?
「ぶつかってごめんなさい………って………何これっ!?」
いつもとは全然違う低い声。
慌てて立ち上がると全然高い目線。
そして、私の目の前で自分の胸を持ち上げてる私………私ィィィ!?
「えっ!?ちょ…えぇぇぇぇっ!?」
「俺…ですねィ…」
目を細めてジッと私を見つめてくる私の手と落ちてたおべんとを引っ掴んで、階段を駆け上がって屋上に出た私はとりあえず叫んだ。
「嘘でしょォォォ!?」
「おいパチ恵、俺の姿でオカマ言葉止めなせェ。」
どっかりと胡坐をかいて、いつの間にかモグモグとおべんとを食べていた私の姿をした男が冷静に突っ込む。
なっ…何落ち着いてんのこいつゥゥゥ!?
「パチ恵って何だ!?私は八恵です!!って何落ち着いておべんと食べてんですか!?どうすんですかコレェェェ!入れ替わっちゃってるじゃないですかコレェェェ!!」
「そうだねィ。げふぅ。」
すごい速さでおべんとをたいらげた私が、げっぷをしながら立ち上がる。
そして私の前に歩いて来てぎゅっと手を握ると、ぶんぶんと上下に手を振った。
…握手…?
「さっきも言いやしたがアンタ覚えて無いみたいなんでもっかい言いまさァ。俺ァ沖田総悟。近藤さんと土方とあと山崎で同じ道場で剣術やってんでさァ。志村先生には交流試合とかで世話になりやした。惜しい人を亡くしやした…」
しんみりとそう言われると、さっきまでの毒気は抜かれてしまう。
そっか…この人も父様の事慕ってくれてたんだ…そんな人に酷い事言っちゃったかも…
「私は…志村八恵です。生前は父様を慕って下さって有難う御座います。あと…さっきは叩いちゃってごめんなさい…」
「気にしてやせん。俺もふざけちまってすいやせんでした。」
お互いお詫びしてにこりと笑い合うと、わだかまりはすっかり消えた気がする。
「んじゃ、行きやすか。」
「へ…?」
「へ?じゃねェや。いつまでもこのまんまでいてェのか?パチ恵は。」
「そんな訳無いじゃないですか!でもこんなドラマみたいなのどうやって…」
私が問いただすと、目の前の私がニヤリと笑う。
…なんか変な感じ…
「ドラマや小説で使い古されてんだろィ、こういうの。大体は一緒にどっかから落ちれば元に戻りまさァ。」
「あ…!階段!」
「そうそう。さっきと同じように階段落ちすりゃァ戻りまさァ。」
ニヤリと笑う私カッコいいィィィ!
早速階段に移動して深呼吸するけど…イザとなると恐いよ…
その上、何故か私が手を広げてにこにこ笑ってるけど何…?
「どうしたの?沖田君?」
「ほれ、さっさと抱きしめなせェ。」
「…へぇっ!?」
「さっきと同じにしねェと。俺ァ庇ってやったんですぜ?この身体全然痛かねェけどそっちは痛ェだろ?」
「うん…有難う、優しいんだね、沖田君…じゃぁ今度は私が庇うよ!はい、こっち抱きしめて?」
私が小さくなると、私の顔が呆れたようになる。何…?
「ばーか。恩師の娘にそんな事させられっかよ。大人しく抱き付けパチ恵。」
はんっ、と馬鹿にしたような顔をするけど、きっと気を使ってくれてるんだろうな…
だから大人しく私にぎゅうっと抱き付くと、すぐに沖田君が床を蹴って私達は又階段を転げ落ちた…
「…いたた…」
「………あり………?」
次に目覚めた私達は、予想に反して入れ替わったままだった…
◆
とてもじゃないけど授業なんか受けていられない私達は、こっそり早退して沖田君の家に向かった。
沖田君のお宅はご両親を早くに亡くして今はお姉さんと2人暮らしなんだそうだ。
だから今の時間は彼の家には誰も居ないし、暫くそこで生活しなくてはいけない私が彼の家を知らないから案内も兼ねてそう決めた。
少し緊張しつつお邪魔すると、沖田君の家は古いけど綺麗に片付けられていて、とても居心地のいい場所だった。
「おう、茶淹れやしたぜー」
沖田君がお茶とお茶菓子を用意してくれるけど…
「私の姿でそういうの止めて下さいっ!足で扉開けるなんて…家でそんな事したら姉様に殺されますよ!!」
「…気を付けまさァ…ってパチ恵もその口調止めなせェ。姉ちゃんが気絶しまさァ。」
私達はお互い暫くは入れ替わったまま過ごさなければいけない覚悟を決めて、話し合いをすることにした。
言葉遣いや物腰は、出来るだけ似せるようにと時間の許す限り注意しあった。
それでもそんな付け焼刃でなんとかなるものなんかじゃ無くて…だって、私達初対面同士なんだよ…?
「ほんとなら、出来るだけ一緒に居た方が無難なんですがねィ…」
「そんな事出来る訳無いじゃないですかァ!私が沖田君のお家に泊まるなんて絶対出来ないしィ、沖田君がお弟子さんになって泊まったとしても逆に一緒に居れませんからァ!」
「いっそバラしちまって家族に協力して貰ったらどうでィ?」
「そんな事ォ信じて貰える訳無いじゃないですかァ!」
「お前さんとこの塾頭なら信じそうですけどねィ…」
「一兄様が分かってくれても姉様が!沖田君動けなくされて監禁されますよ絶対。それぐらい過保護なんです!」
私が言うと、目の前の私が引きつり笑いを浮かべた。
「ま、なんとか上手くやりまさァ。ウチの姉ちゃんはぼんやりしてっから大丈夫だろィ。私もガンバるネ☆」
「ほんとに頼みますねェェェ?おっ…俺もバレないように気を付けまさァ。」
門限までに家に着くように沖田君を送りだして、改めて家の中を探検する。
大体の間取りを把握して、お姉さんが帰って来るまでに晩ご飯の用意でもしようと台所に立つと、身体がふるりと震える。
あ、トイレ行ってこよ………
………トイレ………
嫌ァァァ!
そうだった、今私沖田君だった!!
でも…このまま戻るまでずっとトイレ行かないって訳にいかないし…でも嫌ァァァ!!
ぐるぐる歩き回ってもどうなるものでもなくて…
私は覚悟を決めて、トイレへと向かったのだった…
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