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結婚式が終わってすぐに、私達は皆で真選組の屯所に場所を移して披露宴と言う名の宴会を始めた。
ソコにはヌメール星の皆さんは居なかったから少しだけ安心出来たけど、お酌といってやってきた山崎さんに『ここにも監視カメラが付いてるから気をつけて』と言われて気を引き締めなきゃいけなかった。
教会から一緒に流れて来た銀さんや神楽ちゃんが、ここぞとばかりにご馳走を食べつくしたりお酒を呑みまくったりしてるのを見てると少しだけ緊張がほぐれてつい笑っちゃったけど、やっぱり見られて…ううん、観察されていると思うとどうにも落ち着かない。
それに…
なんだかさっきから沖田さんの機嫌が悪いような気がする。
教会から屯所に移動するまでに何かあったのかな?別々に移動してきたから分からないけど。
それとも銀さんと神楽ちゃんがはしゃぎ過ぎてるからかな…2人の方を睨んでる気がするんだよね…ちょっと注意した方が良いかな…?
そう思って私が2人の方に行こうとすると、いつの間にか隣に来ていた沖田さんが私の手を掴んで止める。
なっ…!?手っ…手ェェェ!?
せっかく結婚式の時のアレが落ち着いたのに、そんな事されたら又顔に血が上って来ちゃうよォォォ!!
心臓が…心臓がおかしくなる…
「パチ恵ちゃん、そろそろ俺らの家に帰りやすぜ。」
不機嫌そうな顔のまま、フイッと顔を背けて引っ張られる。
あ、そっか、時間なんだ。ここには顔を出すだけって言ってたし、ご馳走も頂いたしもう移動するんだ。
それじゃ私もちゃんとお嫁さんらしくしなくっちゃ。
照れてる場合じゃないよね!
「はい。歩いて行ける所なんですか?」
小走りで沖田さんの隣に並ぶと、掴んでいた手を恋人繋ぎに変えてくれる。
うわぁぁぁ!やっぱりドキドキするゥゥゥ!!
でも…意外と暖かいよね…沖田さんの手…それに稽古なんかして無いみたいな顔してるけど、生半可な事じゃ出来ないような剣ダコがあちこちに出来てる。
あの強さは努力もしてるからのものなんだと思うと、好感度上がっちゃうよ…この人はどれだけ私をドキドキさせるんだろ…
「…おう…大江戸ストアと屯所の真ん中あたりでィ。」
「あ、結構便利な所なんですね!」
「おう。」
楽しみになって、えへへ、と笑うと沖田さんが向こうを向いてしまう。
あれ…?私何かおかしな事したかな…?
それとも変に意識しちゃってるのが駄目だったかな…すでに面倒だとか思われてる!?
イヤでも新婚さんなんだから、ちょっとは仲良くしなきゃ駄目だよね…やっぱり沖田さんってよく分からないよ…
でも、それがなんだか悲しくて寂しくて…
ってわぁぁぁ!
依頼なんだから!おかしな事想っちゃ駄目駄目!!
◆
そのまま近藤さんと土方さんにご挨拶をして、沖田さんに連れられて行った場所は…本当に新婚さんが住みそうな、綺麗で可愛いマンションだった。
「わぁ…凄く可愛い…」
部屋の中も明るい色のふわっふわのソファとか、毛足の長い触り心地の良い絨毯とか、可愛いテーブルとか…いかにも新婚さんの家、って感じに飾られていた。
これって…沖田さんが用意した訳じゃないよね…?
「気に入って貰えやしたかィ?」
「はい!って…これ沖田さんが選んだんですか…?」
「まさか。俺にこんな趣味はありやせん。山崎でィ。」
沖田さんが生温かい目で見てるけど、機能的にも凄いよこの部屋!
サイクロン掃除機とか有るし、キッチンもIHだよ!お鍋とか食器も可愛い!!
私が感動しつつあちこちを見て回っていると、とことこと私の後をついて一緒に見て回っている沖田さんの顔が真剣なものになっていく。
「…約束と違うねィ…」
「え?どうかしたんですか?」
「何でもねェ。茶淹れてもらえやすかィ?パチ恵ちゃん。」
「はい。」
新しいキッチンにドキドキしながらお茶を淹れると、ちょっと慣れないけど凄く使いやすいかも!
沖田さんにお茶を持っていくと、いつの間にかパジャマに着替えてふかふかのソファにちょこんと座ってた。
…なんか可愛い…
「あの…えっと………総悟さん………お茶です………」
だってお嫁さんだし!
いつまでも『沖田さん』じゃ怪しまれたら困るし!!
「…おー………」
なんでそこで照れるの!?
沖田さんでも照れる事あるの!?
そんな顔されたらドキドキするんですけどォォォ!
私の内心も知らずにさっさとお茶を飲み干した沖田さんが、何かを決心したような顔でいきなり立ち上がる。
何!?
「寝やすぜ。」
「あ、はい。おやすみなさい。」
…そんな張り切って宣言しなくても…沖田さんも少しは緊張してくれてるのかな…?
私だけじゃなかったのが嬉しくて、思わず笑顔で手を振ってしまった。おかしかったかな?
さて、それじゃ私はお茶を片付けて明日の朝ご飯の用意をして…と考えていると、ふっと身体が浮き上がる…えぇぇっ!?
「なっ…何ですかっ!?」
「お姫様抱っこでィ。」
そう、私は何故か沖田さんに抱き上げられていた。
「でィ、じゃないです!何で私が持ち上げられてるんですかっ!?」
「…抱き上げられてるって言いなせェ…んなもん決まってんじゃねェか、寝るんでィ。新婚初夜に旦那ほったらかしで何するつもりなんでィ。」
「へぇぇぇぇっ!?あの…明日の朝ご飯とかっ!お茶も片付けてないし!!」
ちょ!なんかどんどん歩いて行っちゃってるんですけど!!
私、結構な勢いでバタバタしてるのにブレないって流石真選組…ってそうじゃなくて!!
「朝飯は大丈夫でィ。流石の土方さんも空気読んで俺ァ明日は非番でィ。」
「でもっ!」
ばふん、とベッドに落とされてすぐに上に乗ってきた沖田さんがカンペのようなものを私に見せてくる。
【寝室にも盗聴器が仕掛けられてやした。カメラは無いんで疑われないように声だけ演技して下せェ。】
えっ…!?演技って…!?
そんなの私どうやったら…
「…あ…」
どうしよう…こんな事なら銀さんにえっちなDVD観せてもらっておけば良かったよぅ…
あん、とか言えば良いのかな…
困りきって沖田さんを見上げると、沖田さんも困った顔で私を見下ろしてる。
…呆れられちゃたかな…仕事なのにちゃんとできなくて…このまま嘘がばれちゃったら地球が飲み込まれる…?
それとも沖田さんがヌメール星のお姫様と結婚しなくちゃいけなくなっちゃう…?
そう思ったら凄く嫌だ。
なんだか凄く嫌だ。
【演技出来無さそうですねィ】
音もたてないでスルスルと新しいカンペを書いた沖田さんが、はぁ、と溜息を吐く。
どうしよう…
どうしたら…
「…そうごさぁん………」
もうどうしていいのか分からない。
でもきっと沖田さんなら何か良い案を考えてくれる。
だって姉上に護る、って約束してくれたもの!
ジッと見つめたまま沖田さんの次の動きを待っていると、微動だにしないまま色々考えていてくれた沖田さんが倒れ込んでくる。
え…?どうしたのかな…?
「…優しくシやすから…ちゃんと啼いて下せェよ。」
聞こえるか聞こえないかの声で耳元で囁かれて、悲鳴をあげる間もなく口を塞がれる。
うっ…嘘でしょ!?演技が出来ないからってホントにするの!?………出来ないから…しょうがないのかな………イヤイヤイヤそんな事無いから!きっと何か良い案が…良い案が………思いつかない!!
ぽろぽろと涙が零れてしまうと沖田さんの動きが止まってそっと離れていく。
その表情は不安そうに歪んでいて…まるで捨てられた子犬みたいで…私が凄く悪い事してるみたいで…
それに…そんな顔されたら逃げられないよ…
「…絶対ですよ…?調教しようとしたら鼻フックですからね…?」
そう言ってそっと沖田さんの背中に手を回すと、一瞬ビックリして、すぐに安心したような幸せそうな笑顔を見せてくれた。
その笑顔を見た瞬間、私の心臓はトクンと脈を打って何かがピタリと嵌ってしまった。
きっと、その時私は恋に落ちてしまった。
…ううん、本当はもっと早くに落ちてしまっていたのかもしれない。自分でも気付いてなかっただけで…
じゃなかったら、こんな依頼受けないで逃げてた、きっと…
沖田さんにとってはただの任務なのに…
私にとってもただの依頼なのに…
好きになっちゃいけないのに…
それでも、私は沖田さんの事が好きになってしまった。
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