次の日は朝から大変で、中々起きようとしない沖田さんをちゃんと起こしてご飯を食べさせて仕事に送り出すだけでどっと疲れた。
どんだけ寝汚いの沖田さん…
それに、ちょっと隙を見せたら襲ってくるし…一般的にそういうものなのかな…?新婚さんって…

大仕事を終えて取り敢えずお嫁さんらしく掃除をして洗濯をして、大江戸ストアのタイムセールへと出掛けた。
そこで会った山崎さんがいつも以上に挙動不審な気がするけど、まぁきっと仕事の時の山崎さんはそういう人なんだろう。

「あの、山崎さん…ここまでは上手くいってるんですよね?私おかしな事してないですよね?」

「あ!?あっ…うんうん全然大丈夫!ヌメール星人にはショックだったみたいで、もしかしたら一ヶ月かからないで納得して貰えるかもしれないよ!」

「え…?」

早く終わっちゃったら…もう沖田さんと一緒には居られないのに…
思わず私ががっかりと肩を落とすと、何か誤解した山崎さんが慌ててフォローしてくれる。

「依頼料はもちろん全額支払うよ!イヤ、むしろ沖田隊長と近藤局長の貯金全額差し上げます!払わせて下さい!!」

「あ、いえ依頼料の心配はしてな…」

っと!
沖田さんと離れるのがイヤなんて絶対言えない!
そんな事知られたらきっと嫌われちゃうよ…

「あれ以上貰ったら後で面倒な事になりそうなんでやめて下さい。」

依頼料増やすから2度と沖田さんに近寄るな、なんて言われたら…立ち直れないもの…
そういうのじゃなくても、今迄みたいに偶然逢うぐらいは出来ないときっと笑えない…

「イヤ!もうさせないから!沖田隊長はちゃんと止めるから!!!」

必死で言い募る山崎さんの目が物凄く泳いでる。
なんで沖田さん…?…まさか…沖田さんに私の気持ちがバレてもうアイツと一緒に居るのは嫌だとか言われてたり…するの…?
沖田さんは勘が良いから…どうしよう…涙が…止められない…

「あばばばばばば!とっ…とにかく俺も何か考えるからもう心配しなくても良いから!!」

「え…?」

「…パチ恵ちゃん自分を大切にして!今更遅いかもしれないけど、君は十分過ぎるほど仕事をしてくれたからね!姐さんに知れたら沖田隊長を斬って局長も副長も腹を斬る覚悟を決めた位の事はしてくれたからね!!あんな傷付けられて…それでも逃げないでくれて君はなんて…!!」

「え…?何が…?」

沖田さんに私の気持ちがバレた訳ではなさそうだけど…山崎さんは何を言ってるのかな?
あ、結婚式の時のヌメール星人の攻撃とか?でもアレは沖田さんがちゃんと護ってくれたし…怪我なんかして無いのに。

「とにかく!定期連絡で逐一状況は知らせるから!あ、どこかに出掛ける時はちゃんと隊士が尾行してるから安心して出掛けてね。家に居る時も外は交代でガードしてるから!もう君に傷は付けないから!!」

「はい、分かりました宜しくお願いします。でも、沖田さんがちゃんと護ってくれてますよ?」

「なっ!?その隊長が君を…イヤ、そこまで演技してくれてるんだね。監察に欲しいくらいだよパチ恵ちゃん…」

何故か涙を流しながら敬礼をした山崎さんが、それじゃ!と言って走り去って行った。
…結局なんだかよく分からなかったけど、この依頼は上手くいっているらしい。
良かった…沖田さんに嫌われたんじゃなくって…

安心してふと思ったけど、折角買い物に来たんだから山崎さんに沖田さんの好物聞けば良かった!
いっぱいお仕事して帰ってくるんだから、せめて美味しいご飯を作ってお出迎えしたかったのに…
ううん、やっぱりそれはいいや。好物は直接沖田さんに聞けばいいんだから。
沖田さんが家に帰って来たら早速聞いてみよう!
そう思うとそれが楽しみで仕方無くて、早く夜になれば良いなんて想ってしまった。





そろそろ勤務時間が終わる頃かな?と思った時間に玄関のチャイムが鳴る。ここに訪ねてくる人なんか居ない筈なのに…
ちょっと警戒しつつ覗き窓から覗くとそこには…

「総悟さん!?」

「ただいま帰りやしたー」

ドアを開けた瞬間抱き付いてくるのは止めて欲しい!
心臓が…止まりそう…

「はっ…早くないですかっ!?屯所からここまで…」

「愛のなせる技でさァ。」

にっこり笑って脱いだ上着を差し出されても誤魔化されない!
きっといつもみたいにサボってたんだ!

「総悟さん、サボリは良くないです!ちゃんとお仕事して下さい。」

私がそう言うと、恐い顔になった沖田さんがふわりと上着を投げてくる。
あ…余計な事だったかな…本当のお嫁さんでもないのに…

「…サボリじゃねェよ…ちゃんと仕事して走って帰ってきたんでィ…俺がちゃんとしてねェとパチ恵が悪く言われんだろ…?」

フイッと顔を背けてスタスタとお風呂場に歩いて行ってしまうけど…怒ったんじゃ無くて…もしかして…スネて…?
うっ…うわっどうしよう…可愛い…

暫くしゃがみ込んで悶えてから、お風呂場に着替えとタオルを置いて大急ぎで晩ご飯の支度を始めた。

ご飯を食べて、ソファでテレビを見ている沖田さんにお茶を持っていくと、まだちょっとご機嫌斜めでフイッと横を向いてしまう。
1か月しか一緒に居られないのに、せっかくの時間を無駄になんかしたくないよね…

「総悟さん、お仕事お疲れさまでした。無事に帰って来てくれて有難う御座います。」

お茶を差し出しながら大きく頭を下げると、大きく溜息を吐いた沖田さんがぎゅうと抱き付いてくる。
なっ…なになになにっ!?

「パチ恵に嫌われたのかと思いやした…」

「そんな事ある訳ないじゃないですか!嫌いになんてなりません!でも…私総悟さんの事知らな過ぎるんです…走るのが早いのも、私の事を考えてちゃんと仕事してくれている事も、好物も…だから、たくさん教えて下さいね…?」

そうお願いすると、嬉しそうに笑った沖田さんがほっぺたにキスをしてくれる!
ひゃぁぁぁぁ!

「勿論でィ!パチ恵の事もたっくさん教えて下せェよ?お、そういやァ…」

ぐるりと私を後ろ向きにして足の間に抱え込んだ沖田さんがひそひそ話で教えてくれたのは昼間に山崎さんが言ってた事で、それは私にとって、もう恥ずかしくてどこかに逃げたくなるようなものでした…
そう、この部屋の監視カメラと盗聴器は、不正の無いようにヌメール星の方と真選組の方が一緒に確認するものだそうで…
初日はお姫様と外交官の方と、近藤さんと土方さんが確認していたそうで………
…全部…聞かれていたそうで………
だから2人は腹を斬る覚悟を決めたんだそうです…

山崎さんも知ってたから…だからあの時山崎さんあんな挙動不審だったんだ…
もう恥ずかしくて恥ずかしくて消えたくなってしまったけど、それに関しては昼間の言葉通りに山崎さんが対策を考えてくれていた。

「これ、山崎に預かったんでさァ。」

そういって渡された包みを開けてみると、中身は…DVD…?
一緒に入っていたメモには
『この娘パチ恵ちゃんに似てるからこれで誤魔化せると思うよ!』

…何が…?

怪訝な顔のまま沖田さんを見上げると、ニヤリと笑ってペロリと耳を舐められた…ひゃぁぁぁ!!

「AVでィ。コレかけとけば誤魔化せんだろ?声。それとも後学の為に見とくかィ?」

凄く近くでニヤニヤ笑う顔は思いっきり私をからかってるけど、でも私を安心させるように腕を撫でてくれていた。


その日から私達は少し気まずい音を聞きながら寝るようになった。
それはそれで恥ずかしいけど、でも自分の声が聞かれるよりはまだましだと思う事にした。
好きな人と触れ合えないのはちょっぴり残念な気もするけど、でもそんな事はしない方がきっと良いんだ。
触れる事に慣れてしまったら、離れるのが辛いから。
それなのに、沖田さんは私を抱き枕にして寝るのを習慣にしてしまった。
そんな事されたら離れられなくなるよ…でも、それは気持ち良すぎて拒否するなんて出来なくて…

…この依頼が終わったら、私は近藤さんみたいになっちゃうんじゃないかって思ってしまった…





ヌメール星の皆さんが中々納得してくれなかったらしく、依頼はもうすぐ1か月が経とうとしていた。

始めの約束も1か月だったからそれは全く問題ないんだけど、私はもっとずっと沖田さんと一緒に居たくなってしまっている。
このままじゃ…この依頼が終わってもちゃんと諦められるか自信が無いよ…
勿論長く一緒に居たいからっていい加減にやってる訳では無くて、私達は上手く演技が出来ているようなんだけど、お姫様がそう簡単に諦められるならこんなに面倒な事にはなっていないのだろう、と中々終了はしない。
私は嬉しいんだけど、沖田さんは嫌じゃないのかな…?って少し心配になってしまう。
表面的には新婚生活は順調で、私は毎日が幸せで楽しくて沖田さんも幸せそうに笑ってくれている。
でも…
始めから沖田さんは演技が上手かったから…本当は嫌なんじゃないかって思ってしまう。
らぶらぶで優しい沖田さんは演技だって分かってても…もう私の恋心は留まる事を知らない。

だってあんな人は他には居ないから!
こんなに好きになれる人は、もうきっと現れないから!
少しでも長く一緒に居たい。
でもそう想う気持ちはきっとお姫様も一緒なんだ。
だから最近は早くこの生活が終わればいいとも思ってしまう。


そんなある日、定期連絡で会った山崎さんが、笑顔でこの依頼の終わりを告げた。

「パチ恵ちゃんご苦労様!お姫様達やっと納得してくれたらしくって明日ヌメール星に帰るって!本当にお疲れ様だったねー!もう今日一日だけ頑張ったら終わりだからね!」

「え…?今日で終わり…なんですか…」

「そうだよ!もう沖田隊長には伝えてあるから今日はお疲れ様会でもしてあげてね?ちょっと寂しそうだったからさ。」

じゃーねー!と大きく手を振りつつ山崎さんが走っていってしまう。
そんな…こんな急に終わっちゃうなんて思ってなかった…
今日で最後…なんだ…もう一緒には暮らせないんだ…
そんなの始めっから分かってたけど…でも…こんな急だなんて思ってなかった…
心はついていかないけど…でも仕方ない事だから…

だから私は山崎さんが言う通りにお疲れ様会を開く為に色々な食材を買って帰った。

…あれ…?でも今日まではまだお姫様達が監視してるんじゃないのかな…?