コスプレ姫とＢＬ王子



今日は学校、大変だったなぁ…
いつも大変だけど、今日は特に大変だった。沖田君って、どうしてあぁなんだろ…
でも、私の名前知らなかったのか…ちょっとショック…
パチ恵なんて名前、本名の訳無いじゃん。そんな名前だったら、グレてるよ、私。

家に帰って、晩ご飯の支度をしていると、ここ数日自室にこもりっきりの姉上が、ふらふらと出てくる。

「はっちゃん、いつも御苦労様。ごめんなさいね？手伝えなくて…」

「あ、姉上。今回も大変そうですね…」

「まあね。でも、好きでやってる事だから…」

「頑張って下さいね！」

「有難う、八恵ちゃん。」

がっつりクマが出来た姉上が、うっすらと微笑む。
姉上は、同人誌、っていう本を作るのが趣味みたいで、イベントっていうのが有る前はいっつも一生懸命小説を書いている。
又徹夜したのかなぁ…？好きな事って言ったって、無理はしないで欲しいな…

「あのね？はっちゃんお願いがあるの…」

姉上が、顔の前で両手を合わせて片目をつぶる。
…姉上がこういう頼み方する時は、何か有るんだよな…

「…何ですか…？」

「あのね、今回も売り子さんが足りなくて…はっちゃん手伝って貰えないかしら…？」

…あそこか…１回お手伝いで行った事有るけど…結構凄いトコだったよなぁ…
でも…人数居ないと大変だよね…

「…分かりました。良いですよ？」

私は本を売るだけだよね？そのお手伝いぐらいなら…

「良かった！あと、もうひとつ…沖田君も連れて来て貰えないかしら…」

「えっ！？あそこに…沖田君をですかっ！？」

「そう。近藤君にもお願いしたんだけど…男の子１人じゃ心細いと思わない？」

「…まぁ…そうですよね…でも…お願いしても行ってくれるかなぁ…？」

だって、アソコだし…あの、沖田君だし…

「大丈夫よ！近藤君にもお願いしてるし、それに可愛い彼女の頼みだもの、きいてくれるわ。」

姉上がうふふ、と笑うけど…あの顔…何か悪い事考えてる顔だ…
何させるつもりなんだろ…

「姉上…何させるつもりなんですか…？」

「何って、搬入のお手伝いしてもらうだけよ？力仕事には男の子が居てくれると助かるんだもの。」

うふふふふふふふふふ…って笑顔が何か…怖い…
邪なんですけど…
でも、ずっと一緒に居れるのは嬉しいよね…聞くだけ聞いてみよう。



次の日早速沖田君に話をしてみると、予想外にあっさり良いよ、って言ってくれた。

「パチ恵からのお誘いなんて初めてだろィ。それだけでおっけーでさァ。」

耳元でそんな事言われたら、赤くなるじゃん…
一気に月末が楽しみになってきたよ！
でも…
本当に男の子をアソコに連れて行って良いのかな…？ちょっと不安だよ…
だって…前に姉上の書いてるお話を見せてもらったら、男の子同士が…えっちな事してるお話で…
お客さんも、売り子の皆も女の子ばっかりなんだもん…



そんな不安なままイベントの日になって、皆で待ち合わせして、会場へと向かった。
姉上の荷物が異様に多いのが気になるけど…差し入れとか言うやつなのかな…？

会場に着いてすぐに、男の子２人が沢山の段ボールから本を机に運ばされる。
確かに…男手が欲しいよね…うん…
姉上のサークル（お店の事をそう言うらしい）は大手っていう所らしくって、すっごく沢山本が売れるんです。
だから、持ってくる本の数も多いので、運ぶだけで大変なんです。

「はぁー、凄いですね、妙さん！これは妙さんが書いた本なんですか？」

興味津々で、近藤君が運んだ本を手に取る。

「えぇ。表紙は別の子に描いてもらったんだけど。」

「ほぉーっ！読んでみても良いですか？」

「えぇ…」

「こっ…近藤君っ！止めといた方がぁっ！！」

姉上が、にっこり微笑んで肯定しそうになるんで、私が慌てて止める。
こっ…近藤君がそんなの読んだらショック死しちゃうよっ！！

「どうしたんだ？パチ恵ちゃん？まぁ…そんなに止めるんなら止めておくか…妙さんも目の前で読まれると恥ずかしいでしょうしね！妙さんは奥ゆかしいからなぁ！」

…近藤君…何か誤解してるけど…まぁ、良いか…
私がホッとしてると、沖田君が本を１冊持ってそっと私の横に来る。

「パチ恵…こりゃぁ…じゃんぷでやってる『銀角』じゃぁねェんですかィ…？」

はっ！そう言えば沖田君いつもじゃんぷ読んでる…
ばっ…バレたのかなっ…

「えっ…えーと…」

「こりゃぁ…噂に聞く同人誌、ってヤツですかィ…？」

「…うん…姉上同人作家さんなんだって…」

「へぇ、意外ですぜ…じゃぁやっぱりアレですかィ？男同士でえっちしたりしてるんで？」

「…そうみたい…」

そんなハッキリ…私の方が照れるよっ…
かぁっ、と顔に血がのぼって、真っ赤になっちゃったよ…

「へぇ〜…近田さんと沖藤がいちゃいちゃしてんだ…あぁ、だから俺らか…」

「へっ？」

ばっと顔を上げると、沖田君がパラパラと本を開いて読んでいる…
ニヤリ、と笑って挿し絵の所を開いて私に見せる…ってぇーっ！！！！！

「なっ…ごっ…ごめんなさいぃ〜っ！男の子をココに連れて来たから怒ってるの！？」

「いんや、別に。こういうの見とくのも面白ェや。」

珍しくにっこりと笑ってくれる…
沖田君は嫌がると思ってた…

「…ありがと…」

私がえへへ、と笑うとぽんぽん、と頭を撫でてくれる。
何か優しい…どうしたんだろ…？

「じゃぁ２人とも、コレに着替えてくれる？」

いきなり姉上が、おっそろしいくらいの笑顔で近藤君と沖田君に紙袋を渡す。
受け取った近藤君が、不思議そうな顔でソレを見る。

「何ですか？」

「ウチの制服みたいなものよ？近藤君にすっごく似合うと思うの！」

「…あっ…姉上…？」

まさか…２人に…？
何も疑って無い近藤君は、にっこり笑って着替えに行こうとするけど…

「まって下せェ、近藤さん。姐さん…まさかこれ、こすぷ…」

「沖田君ちょっと。」

近藤君を止めて核心に迫ろうとした沖田君を、姉上が隅の方に連れて行って何かボソボソ喋ってる…
暫くボソボソ喋ってて、２人がニヤリ、と笑って帰ってくる。


２


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