赤ずきんちゃん
むか〜し、むかし、ある所にとても可愛らしい男の子がおりました。
綺麗な栗色の髪と深い碧の瞳は森中の憧れの的で、その姿を見た者は皆一様に、ホウ、と深い溜息を吐くのです。
が、
その男の子はちょっと性格に難有りで、誰もが遠くからその姿を眺めるだけで近付く者は誰1人としておりませんでした。
そんなある時、男の子のおばあさんが赤いビロードの布で、その子がかぶるアイマスクを作ってくれました。
その、目玉の付いたムカつくアイマスクが男の子にとても似合っていたので、皆は男の子の事を『赤ずきん』と呼ぶ様になって、1人又1人と喧嘩相手が現れるようになりました。
ある日の事、お姉さんが赤ずきんを呼んで言いました。
「そーちゃん、おばあさんが風邪をひいてしまったの。おばあさんはそーちゃんをとても可愛がってくれているのだからお見舞いに行ってらっしゃい。きっととても喜んでくれるわよ?」
「はい、お姉ちゃん!」
おばあさんを心配した赤ずきんはすぐにでも走って行ってしまいそうになりましたが、お姉さんは赤ずきんを止めます。
「待ってそーちゃん。お見舞いには何か持っていかなくっちゃ。今からお弁当を作るから、このお酒と一緒に…」
「いってきま〜す!」
にっこりと綺麗に笑うお姉さんからお酒の入ったカゴを引っ手繰り、赤ずきんは大慌てで家を飛び出しました。
お姉さんの好意を無にするようで心が痛みましたが、彼女の料理はどれも色鮮やかな赤が眩しい激辛料理です。
風邪をひいた大好きなおばあさんに食べさせるには刺激的過ぎます。
赤ずきんはお姉さんに呼び止められる前に、大急ぎで駆けだしました。
「あら、困ったわ。そーちゃんがこんなに早く家を出てしまったら、あの子間に合うかしら…」
あまり困ってはいない様子でお姉さんが呟いて、どこかに電話をかけました。
その頃、赤ずきんはおばあさんの家に向かって森の中をダラダラと歩いていました。
するとソコに、可愛らしくシッポを揺らして何処かに急いでいるオオカミが現れました。
「お、新八くんじゃねーですかィ。そんなに急いでドコ行くんですかィ?」
赤ずきんは嬉しくなってニコニコ笑いながらオオカミに話しかけました。
何故なら赤ずきんはこの可愛らしいオオカミの事を密かに想っていたからです。
「こっ…こここ…こんにちわ沖田さん!」
オオカミがちゃんと挨拶を返してくれたので、赤ずきんはもっと嬉しくなって話を続けます。
「今日はあのムカつくチャイナは一緒じゃ無いんで?んじゃぁ俺と一緒に…」
「えっと、神楽ちゃんはまだ万事屋で寝てる時間だと思います。えっと、沖田さんは何処かに出かける途中なんですか?」
ちょっと引きつってはいましたが、オオカミに可愛らしく微笑みかけられた赤ずきんはすっかり有頂天です。
いつもの綺麗な顔を可愛らしく微笑ませて、必要以上に体を寄せます。
オオカミは、間近で見せられたその姿に緊張でガチガチで逃げる事も出来ません。
「近藤さんが風邪ひいちまってよー、今から見舞いに行く所なんでィ。なー、新八くんも…」
そう言った赤ずきんがひょい、とカゴを持ち上げて見せると、オオカミは遠い目で赤ずきんを見ました。
「風邪のお見舞いに行くのにお酒だけ持っていくんですか…?せめてお花とか…あ!ソコの花畑でお花摘んで言ったらどうですか?綺麗だからきっと近藤さん大喜びしますよ?」
「んじゃぁ新八くんも一緒に摘んで下せェよ。」
もっとオオカミと話がしたくて赤ずきんはそう誘ってみますが、慌てたオオカミは大きく手と頭を振って赤ずきんから離れてしまいました。
「そうしたい所なんですが、今日はちょっと用事がありまして…又今度誘って下さいっ!それじゃ、僕はこれで!!あ!絶対お花摘んで来て下さいね!!」
逃げるように走って行ってしまったオオカミを黙って見送って、赤ずきんはがっくりと頭を垂れました。
何故なら彼はドSだったのです。
ドSはガラスのハートなのです。
しょんぼりとしながらも、赤ずきんはオオカミに言われたとおりに花畑の花を摘み始めました。
さて、赤ずきんと別れたオオカミは、そのまままっすぐおばあさんの家に行きました。
実はオオカミはおばあさんと約束をしていたのです。
「近藤さん、新八です!」
「おー、新八くん待ってたよ。総悟が早く家を出てしまったみたいだから早く用意しないと!」
「はいっ!途中で逢ってビックリしました。」
「もう来てるのか!?」
「あ、でも花畑でお花摘んでから来る筈です。」
「そうか。でも急がなくっちゃな。早速これに着替えて。」
「すみません、有難う御座います。」
すぐにオオカミはおばあさんのキモノを着て、おばあさんのずきんをかぶり、おばあさんのベッドに潜り込みました。
「…父上の匂いがする…」
「そうか?何だか照れるね…じゃぁ、俺は総悟の家に行っているから…ちゃんと友達になれると良いな。」
「はい!有難う御座います、頑張ります!!」
元気に家を出ていくおばあさんを見送って、オオカミは持ってきた鞄から何かを取りだしました。
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