※ 沖田と新八がモンスターです。
血の表現とかグロテスクな表現が普通に出てきます。
苦手な方はバックプリーズ全て自己責任でお願いします。
MONSTER
夜の闇を駆け抜けていたのは遥か昔の事。
今は、ヒトと同じように朝起きて、夜には眠る。
でも…
今日みたいな真っ赤な満月の日には、そんな僕の血も騒ぐ。
「…お疲れ様です…」
「お〜、お疲れ〜」
「襲われないように気を付けるヨロシ〜」
「…誰に言ってるんですか…?」
ギラリ、と色の変わってしまった瞳を向けると、怖い怖いと視線を逸らされる。
この2人は…本当なら僕に絶対服従の筈なのに…
でも、そんな彼らに僕は随分と救われている。
煌々と照る月の光を全身に浴びて、いつもは無機物で隠している赤く変色した瞳もさらけ出す。
そっと建物の陰に潜り込み、月の光輝く夜空に向かって飛び上がる…
近くなった月が、更に僕の血を騒がせる。
ヒトを餌にしなくなって、もう随分経つ。
…それでも稀に…ごく稀に…こんな月夜の晩には、あの甘さを…あの温か味を感じたくなる。
でも、そんな事はしない。
もう、これ以上はあの2人みたいな存在を増やさない。
ひたすら月の光を浴びて、束の間の自由を体中で感じる。
あぁ…気持ちいい…
久し振りの赤い満月を満喫して、家に帰ろうかと空中で方向を変えると、真っ暗な路地の中にぽかりと明るい色が浮かんでいた。
アレは…あの色は…かつて憧れて止まなかった、太陽の色…
ソレに注意を向けると、僕の眼は正確にソレが何かを見極める。
アレは、真選組の…
見廻りの途中なのか、暗い路地をぶらぶらと歩いている。
へぇ、真面目に働く事も有るんだ、アノ人が…
そんな失礼な事を考えていると、悪戯に吹いた風が、僕の鼻に芳しい香りを運ぶ。
…温かい…血の匂い…
誰かを斬ってきたのか…誰かに斬られてきたのか。
どちらにしても、コノ匂いはアノ人から香ってきている。
…少しぐらいなら…良いよね…?
アノ人なら…血の気多そうだし…
分からないようにそっと高度を落として地面に降り立つ。
いつものように、無機物で瞳を隠して、何食わぬ顔でふわりと彼の前に立つ。
「…おや…?お前さん万事屋の…」
「あ…今晩和、見廻りですか?ご苦労様です。」
偶然を装ってふわりと笑うと、あちらもニヤリと笑う。
近付いたせいか、さっきの芳しい香りが強くなる。
見た所、怪我はしていない。返り血も浴びては居ない。
と、言う事は、コレはコノ人の香り…そこらの処女より堪らない…
少しだけ…少しだけなら…
微笑んだまま、眼鏡を外してその瞳を見つめると、彼ががくりと僕の方に倒れ込んでくる。
そっと支えてぺろりと首筋を舐めてみる。
思った以上に甘いソレが、僕の理性を吹き飛ばしそうになる。
少しだけ…少しだけ…
唇から覗くキバを、柔らかい首筋にめり込ませる…
ふわりと拡がる芳香が、僕の全てを奮い立たせる…
「新八くん、積極的ですねィ。俺に惚れてるんですかィ?」
「えっ…!?」
そんな馬鹿な!
僕の催眠はこんな短時間で覚める筈が無い!
慌てて離れようとしたのに、ぎゅうと抱え込まれて離れる事が出来ない。
すぐにガバリと上げられた彼の顔はニヤリと笑っていて…有り得ない場所に犬の耳が生えていた…
なっ…まさかっ…!?
「沖田さん…アンタまさか…」
「おや、見られちまいやしたねェ…仕方ねェや、俺に喰われなせェ。」
にやぁりと笑う口端からは、僕のモノより逞しい牙…
コノ人は…まさか…
いや、僕が存在しているんだから、まさかなんて言え無いか。
頭の上に生える耳も、逞しい牙も、吸い込まれそうな深い緑の瞳も。
アレはかつて共に存在した、人狼のもの…そう言えば、かつて僕に仕えていたアノ一族はどうなったんだろう…
ふと懐かしくなって想いを馳せていると、ぺろりと顔が舐められる。
「残さず喰らってやりやすから安心しなせェ…お前さん…スゲェ美味ェよ…」
「へっ…」
ちゅっ、と音を立ててキスされて、すぐに喉笛を噛みきられる。
うわっ!ちょっ…着物が血塗れになるじゃんかっ!!
「おすわりっ!」
いつもは隠している『気』を全開にして、ビシッ、と僕の前を指差す。
人狼は、コレで僕に平伏す…筈なんだけど…アレッ…?
「おすわり…ですよ…?沖田さん…あれっ…?」
「何がでィ。」
「イエ、あの…あれ…?」
おかしい…僕の恫喝が利かない…?
きょとん、と僕を見る顔が、耳のせいも有るのかやたらと可愛く見えてしまう…
なっ…何なんだ…このドキドキ…
色々な事が重なって混乱している僕をよそに、沖田さんがペロペロと僕の首を舐めてくる。
くすぐったいだけじゃなくて…変な気持ちが湧いてくる…
えっ…ちょっ…!?
いくら綺麗な顔してたって、コノ人男だからっ!
…でも…この香…本当は女の子とか…?
「へぇ…もう塞がってんのかィ?それとも喰ったと思ったのは幻覚でも見せられてたんですかィ?」
さっき喰い千切られた辺りを執拗に舐められると、だんだん変な気分になってくる…
「…もう塞がってんですよ…今日は満月ですからね…」
力の限り綺麗な顔を押しやると、素直に僕から顔を離す。
「へぇ、じゃぁお前さんなら喰い放題じゃぁねぇですか…」
ニヤリと笑うと同時に今度は頬を持っていかれる。
何だこのスピード…今は油断なんかしていなかった…
警戒を込めて、沖田さんから距離を取って睨みつける間にも、僕の肉は再生を始めて元通りになる。
「美味ェ…お前さん、そこいらの処女より断然美味ェよ…同族は喰えたもんじゃねェって聞いてたんですがねェ。」
「そんなの嘘ですよ。本当は同族の方が100倍美味しいんです。でも、ヒトに比べて絶対数が少ないですからね、狩り合わないようにそう決めたんです。」
「へぇー…っつっ…!」
話をして気を逸らして、不意をついて沖田さんに噛みついた。
こんな事、そうそう皆が知って良い話じゃ無い。
悪いけど、実力行使させて貰う。
もうしない、って誓っていたけれど…僕の下僕にするしかない…
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