大江戸ストアで夕飯の買い物を済ませて2人で僕の自宅に戻ると、凄く綺麗な顔で微笑む姉上が出迎えてくれた。
…何だろ…後ろに般若が見える気が…

「新ちゃん?お友達は選びなさい、って言ってるわよね?私。」

「え…あの…沖田さんは友達じゃなくって…」

僕が般若に負けじと声を出すと、有無を言わせぬ笑顔で凝視される…こっ…怖いっ!
この僕が恐怖を感じるなんて、世界で姉上だけなんじゃないだろうか…?

ちょっと怯んで口を閉ざしてしまうと、沖田さんがスッと僕の前に立つ。
え…?何するつもり…?まさか姉上を傷付けたりなんか…

「姐さん、俺と新八くんは連れあいになったんでさァ、友達じゃありやせん。絶対ェ一生新八くんを1人になんてさせやせん。幸せにしやすから、新八くんを俺に下せェ。」

凄く真剣な表情と、いつもに無い真面目な態度に姉上が少し怯むけど、すぐに又般若が復活する。

「そんな事認める訳にはいきません。新ちゃんはウチの道場の跡取りなんです。可愛いお嫁さんを貰ってちゃんと跡取りを残してもらわないと困ります。」

…確かに…普通ならそれが当たり前なんだけど…でも…僕は…
話して分かってもらえなかったら…僕は…この人の暗示を解くしかない。
寂しいけれど…でも…僕はそれでも沖田さんが良い。

「姉上…それは諦めて下さい…僕は、本当に沖田さんが好きなんです。もう絶対離れないって決めたんです。」

無機物を取り外した目で姉上を見る。
姉上として過ごしてくれたこの人が…僕は凄く大事なんだ。
…でも…でも…
スッと目に力を入れると、ビクリと震えた姉上が目を逸らす。

…?姉上は、僕が『そう』だとは知らない筈…だよね…?

「…姉上…?」

僕が呼びかけると、ハッとした姉上が僕を見据える。
こんなに真っ直ぐな強い瞳…何かを決心した瞳だ…

「…新ちゃん…本気なの…?」

困った顔になった姉上が、僕を悲しげに見るけど…でも…
僕は決めたんだ!
大きく強く頷くと、姉上が俯いてしまった。

「姐さん、これが俺が新八を幸せに出来るって証でさァ。これを見ても首を縦に振っちゃくれやせんかィ?」

僕らを大人しく見ていた沖田さんが急に前に出る。
そして、沖田さんが差し出した何かを見つめた姉上が、一瞬驚いて、悪い顔で笑った。
…沖田さん…何見せたんだ…?

「…分かりました。2人の気持ちがそんなに固いというのなら、私はもう何も言いません。沖田さん…新ちゃんの事宜しくお願いしますね?」

「…姉上…?認めて…くれるんですか…?」

「仕方ないでしょ?ここまでの決意を見せつけられたら。」

うふふ、と笑って出掛けてしまった姉上を、呆然と見送るけど…沖田さんマジで何見せたのっ!?

「沖田さん…何見せたんですか…?」

「コレでさァ。」

ニヤリと笑って沖田さんが差し出したのは…ものっ凄い金額が書き込まれた預金通帳だった…
姉上…まさか…お金に目が眩んで…?

…まぁ…何にしても、認めてくれて良かった…
まだ少し…姉弟でいられるんだ…

「姐さん…スゲェ女ですねィ…尊敬しまさァ。」

はぁ、と沖田さんが溜息を吐いて、僕を抱きしめる。

「そうです。僕の姉上ですから。」

得意気に微笑むと、深く口付けられる。
あ…
もう…何も心配する事なんか無いから…いっぱいあいしあえる…

でも、僕が沖田さんの首に腕を回しても、沖田さんは離れてしまった…

「んじゃ、屯所に戻りやしょうか。」

「え…?」

「チャイナや旦那にも報告しなきゃいけやせんしね…土方にも…償って貰わなきゃいけやせん。」

ニヤリと悪戯っ子みたいに笑われると、ちょっとがっかりするけど、その企みに乗ってみたくなる。

「そうですね…近藤さんにもちょっとイジワルしちゃいましょうか。」

にっこりと笑って言うと、沖田さんがあわあわと慌て始める。
…近藤さんには、随分優しいじゃないか…
なんだかちょっとムッとして、僕は沖田さんの手を引いて屯所に向かった。