2人で総悟君の家へ帰ると、ミツバさんが踏み台に乗って何かを取ろうとしていた。
…なんか…ぐらぐらしてるんですけど…
…ってあ―――――っ!!そんなお約束通りに落ちなくてもっ!!!!!
僕は最高スピードで駆け寄って、ミツバさんを受け止める。
どっせ――――い!!男を見せろ!!僕っっっっ!!!!!
…って…軽い………?何でこんなに軽いんだ………?いくらなんでもおかしくないか…?
「ありがとう、新八さん。助かったわ。」
ミツバさんの声がして、僕もハッ!?と我に返る。とりあえず文句言っとかなきゃっ!!
「ちょっ!ミツバさんっ!!危ないですよっ!!何スか?ドレ取るんスか?僕が取りますよっ!!」
「ええと、新八さんが暫らく居るなら、新八さん用の食器が要ると思って…確かここにお客様用のお茶碗とかが有ったと思って用意しようかと…」
ミツバさんが、棚の上の箱が積んである場所を指差す。
「それなら尚更ですっ!僕の食器なんですからね!高い所の物とか重い物なんて、僕に言ってくれれば僕が取りますからっ!!…僕じゃ頼りないかもしれませんけどっ…」
僕が一気にまくしたてると、少し赤い顔をしたしたミツバさんが僕の腕の中で振り向く。
…!?腕…の…中……!?ギャァ――――っ!!!!僕ってばなんて大胆な事をっ!!!!
初めて触れた女の人は、やわらかくって、何かイィニオイがする………
って、ハッ!!僕はミツバさんの体をばっ、と離して飛び退る。
「有難う、新八さん。今まではそーちゃんと2人だったから、そう言う事は私が何とかしていたものだから…そうね、暫らくは新八さんに頼っちゃいましょう。」
ミツバさんが、うふふ、と笑いながら頬を赤くする。
僕もえへへ、と笑いながら頭を掻く。そうか…総悟君と2人だったから、ミツバさんがしっかりしなくちゃいけなかったんだな…ウチと一緒だ…姉上も…大変だったんだな…
「どっ…どの箱を取れば良いですか?言ってくれれば僕取りますよ?」
「じゃあお願いします。右上の白い箱に確か…」
僕が慌てて踏み台に登って言われた箱を取って渡すと、その箱にはちょっと洒落た茶碗が入っていた。
「ああ、これです。有難う、新八さん。」
ミツバさんがにっこりと微笑んで台所へ向かう。
その笑顔で、僕はさっきの感触を思い出して、ぼっ!!と赤くなる。
女の人って…やわらかいんだなぁ………って、アレ?僕、彼女いるんじゃなかったっけ…?でも…僕が覚えてるのは、何かゴツゴツした感触とか、僕を包んでくれる頼りがいのある大きな手とか………
僕が赤くなりながらぼ―っとしてると、総悟君が足を蹴ってきた。
「いたっ…!?何するんだよ!!」
「姉上にはてをだすなっていっただろ!!何でかお赤くしてんだよっ!!!」
総悟君が、むぅ、と眉毛を寄せて、ふくれっつらで言う。
「なっ…僕は別に手を出そうとは思ってません―!今のは単なる事故です―!それに、総悟君だって大きくなったら分かるよ。男ってのはね、綺麗な女の人には頬を赤くしなきゃいけないんだよ?じゃないと失礼にあたるから!!男子の義務だからっ!!」(注・新八の言い逃れです。)
「へぇ、そうなのか!男ってたいへんなんだな!!」
総悟君が目をキラキラ輝かせながら僕を見る。
…ちょっと良心が痛むけど…でも、間違っちゃいないよね!!うん!!
「新八さんの食器も用意できたし、そろそろ晩御飯の用意をしましょうか?」
ミツバさんが台所から戻ってきて、卓袱台に僕の茶碗とお椀を置いて言う。そろそろそんな時間か…
台所に向かおうとしたミツバさんに、必死の形相をした総悟君がしがみつく。
「姉上っ!!ぼく、しんぱちのごはんが食べたいです!さっきしんぱちも言ってました、これからはお世話になるかわりにごはんはぜんぶぼくがつくるって!!」
「あらあら、そーちゃんったらすっかり新八さんに甘えちゃって。でもね、そーちゃん。そう言う訳にもいかないでしょう?我侭言っちゃいけませんよ?」
総悟君が、物凄く必死の形相で僕に何かを訴えかけてくる。なんだか分からないけど…話を会わせておこうかな?
「いえ、ミツバさん!僕ご厄介になるんですから、それぐらいやらせて下さい!!」
「でも…」
ミツバさんが少し困った顔で小首をかしげる。
「じゃあ、お手伝いさせて下さい!!」
「…そう…?じゃあお手伝いお願いします。」
総悟君がひどく安心して、は―――っ、と溜息をつく。ちょこちょこと僕に近付いてきて、手招きする。
僕が屈むと、こそっと耳打ちしてきた。
「姉上のりょーりはおいしいんだけど、ものすごくからいんだ…なんとかとめてくれよ!」
僕の脳内に、お昼の真っ赤なお蕎麦が浮かんだ。
…早く止めなきゃ!!!!
僕が総悟君にぐっ!と親指を立てて台所に急ぐと、ミツバさんは既に下ごしらえを始めていて、そこには真っ赤に染まった魚の切り身らしきものが用意されていた………
「ミツバさんっっっっっ!!何スかそれっ!!!赤い!!赤いですよぉぉぉぉぉ!!!!」
「あら、新八さん。食べ物を美味しく食べるための隠し味よ?」
ミツバさんが可愛らしくウィンクを決めてくるけど、今はそんなんどうでも良いわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!
「隠してねぇよっ!真っ赤だよっ!!七味か!?一味か!!??唐辛子なのかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「あら、新八さん分かってしまった?」
「分かるわぁぁぁぁぁ!!何ですか!?ソレを総悟君にも食べさせるつもりですかっ!?」
「あら、そーちゃんは美味しいって…」
「あんな小さい子に刺激物はダメですっ!!喜んでても食べさせちゃダメですっ!!味覚バカになりますよっ!!あぁもぅ貸して下さい!!僕が味付けします!!!!」
僕がテキパキと唐辛子まみれの切り身を洗って塩を振っていると、ミツバさんがうふふ、と笑った。
「なんだか新鮮だわ。こんな風に叱られたのは久し振り…」
本当に嬉しそうに微笑みながら、僕の横に立って昼に使った野菜の残りを切り始める。
「あっ…すいません…僕、つい………」
「あら、良いのよ?新八さんと居ると何だか楽しいの。そーちゃんがあんなに懐くのも近藤さん以来だし。仲良くしてあげて下さいね?…私とも…」
ミツバさんがちょっと頬を染めて、可愛らしく微笑む。なっ…僕も赤くなっちゃうよ…
「はい!僕の方こそお世話になります!!…すみません…」
「あら、又謝って…」
「あっ…すみませ…って、また言っちゃいました…」
あはは…と笑い合って、和やかに料理を再開する。
僕がミツバさんの一味を振る手をなんとか止めつつ、ギリギリ赤くなる事もなくなんとか無事な晩ご飯が出来た。魚の塩焼きと野菜たっぷり味噌汁と漬物とご飯。
総悟君は辛くないご飯に大喜びで、3杯もおかわりしてくれた。
嬉しそうにいっぱいご飯を食べてくれるのは本当に嬉しい。可愛いなぁ!弟がいたら、こんな感じなのかなぁ…〜さんもこんな風に食べてくれたッけ…総悟君、そっくりだな…!?〜さんって誰だ!?ちょっと思い出しかけた…ミツバさんに似てる…僕の彼女…?
…そのうち思い出せるよね…
今の状況に幸せを感じながら、ミツバさんと2人で後片付けをする。総悟君も何かお手伝いしたいらしく、2人の周りをちょろちょろとしていたので、拭き終わった食器を卓袱台まで運んでもらった。ちょっと不安だったけど、ちゃんと無事に運んでくれて、全部運び終わった後には満足そうににっこり笑っていた。
まだ少し不安は残るけど、僕はここでなんとかやっていけそうな気がする………
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