「ごめんね新八君…魔法をかけたのは俺だけど、妖精が上から重ねがけしたからもう俺にも魔法を解く事は出来なかったんだ…キミがあんまり良い子だから…俺までキミを好きになっちゃったから…本当はこんな事したくなかったのに…せめて真の恋人は強くて優しくてイケメンでキミの事を大好きな…」
「ドS王子。」
「って誰だおかしな事付けたしたのォォォ!?」
山崎が裏手で突っ込みを入れた瞬間、キラキラとした光が新八様の中に入ってしまいました。
「あぁぁぁぁ!とんでもない相手になっちゃったよ!!」
「えー?でも新八様には私達みたいな方が良いと思うんです。」
「新八はどえむ。」
「強くて優しいイケメンならきっと新八も幸せになるアル…」
激しく余計な事を付けたしたのは、三人の妖精でした。
ドS三人娘と呼ばれる妖精達は魔女の気配を察知してこの部屋にやってきたのですが、先程の独り言を聞いて、つい血が騒いでしまったのです。
その一言で、山崎も新八様も苛める事が出来る上、もしかしたら自分達が真の恋人になれるかも、と思ってしまったのです。
「イヤ、あんたら王子じゃないでしょうが!」
「心意気は王子アル。」
「男装すれば王子っぽい。」
「王子って改名しようかな…」
三人の妖精は新八様を狙う気満々です。
「アンタら真っ先に真の恋人に挑んだけど、誰もなれなかったでしょうが!俺もだけど…言っときますけどね、真の恋人以外に目覚めの口付けされたら死んじゃうかもしれないからね、新八君。呪いと魔法がごちゃまぜになってるから、手順を間違えたらどうなるか…俺にも解らないんだよ!」
魔女がそう叫ぶと、妖精達はビクリと跳ねておおわらわです。
万が一をおこしそうな白髪天パとマヨラーがいるので、すぐに城全体に魔法をかけて、そこに居た全員を眠りにつかせました。
魔女は城の周りに魔法のイバラを張り巡らせて、生半可な強さでは城に入り込めないようにしました。
「…とりあえず、これで安心アルナ…」
「後は真の恋人を探すだけ」
「私達妖精はそう遠くには行けないから…」
「「「頼んだ、ジミー」」」
「お前らいい加減にしろォォォ!」
◆
それから百年の時が経ちました。
素晴らしかった王様や、眠りについてしまった新八様の話はもう城下には伝わっておらず、今やお城は生い茂るイバラのせいもあって悪魔の住む城と噂されておりました。
その噂は千里を超え、世界中からあらゆる猛者達がその城に挑むのですが、魔女のイバラはただ一人を迎えるために誰も通す事はありませんでした。
そして今日も又、遠い国から武者修行のために、若者が一人この国を訪れました。
その淡い色の髪は、サラサラと風になびき光を放つようでした。
その髪の色が引き立つような真白い肌も、きめ細かく滑らかでした。
そして輝く蒼い瞳は、見つめるもの全てを虜にするような深さも備えていました。
腰に差す剣は、細く長いこの辺りではあまり見かけない『ニホントウ』でした。
その身に纏う黒衣も城の近衛兵長のものに似ていましたが、今となっては誰も知るものではありません。
ジッと城を眺める真剣な瞳は、町娘達に深いため息を吐かせるような凛々しさです。
が、その青年は大きくあくびをした後に、町の酒場へと入ってしまい、ずっと地酒を楽しんで動く気配は有りません。
「アレが噂の悪魔の城ですかィ…期待はずれもいいトコですぜ…」
はぁーあ、と大きな溜息を吐く青年は、その城を見ただけですでに攻略法を見付けていたのです。
「本当に悪魔でも居りゃ、少しは楽しめるんですけどねィ…」
「あら、居るわよ?悪魔より怖い番人が。」
そう声をかけ、スマートに青年の隣に座ったのは、真っ赤なボディコンシャスのミニドレスに身を包んだ、真っ赤なモヒカンの女(?)でした。
うふふ、と笑いかける女をポカンと見た青年が、無表情のままそっと刀の柄に手をかけました。
「わー、早速バケモンがでやしたー退治して良いんですよねィ?」
恐ろしい速さでモヒカンに刀を突き付けた青年は、そのまま刀を返して残った毛をも刈ろうとしますが、スルリと身を翻したモヒカンは、コウモリに姿を変えてその刀を避けました。
「ちょ!折角良い事教えようとしてるのに何すんだアンタ!」
「チッ…残り少ない希望も刈り取ってやったら面白いってェのに…」
「ドSだァァァ!ドSが来たァァァ!!…ハッ!…コイツなの!?こんなのがなの!?………仕方ない………新八君の幸せの為だ………」
パタパタと青年の手の届かない所を飛んでいたコウモリが、クルリと回転して再びモヒカンに変わりました。
「あの城には悪魔なんて居ませんよ。悪い魔女に呪いをかけられた美しいお姫様が眠っているんです。そのお姫様の元に辿りつけた王子様は、くっ…口付けで目覚めさせる事が出来るんですよ…」
「へー」
青年は全く興味が無さそうに、適当な返事を返しました。
「イヤ、へーって…」
「別に俺ァ雌豚には不自由してねェし。」
「すっっっっごく可愛いですよ?良い子だし!」
「なんか重いのは面倒くせェ…」
モヒカンが言い募っても青年の興味は少しも湧きません。
「…その子を護ってる近衛副隊長二人がバカ強いんですよね…目に入れても痛くない位に可愛がってるから…手を出したら、誰にも見せた事無いぐらいの本気で襲ってくるだろうなー…」
青年の肩が、ピクリと動きます。
「それに、王様とお妃様もゴリラ並みに強いんだよね…大事な一粒種に手を出されたら………」
「…へー…」
ニヤリと笑った青年は、クピリと酒をあおり、もうモヒカンには気も止めずにゆっくりと城を目指して歩き始めました。
◆
城下町グルメをこれでもかと堪能した青年が城に着いたのは、太陽が天辺からだいぶ傾いて空が赤く染まる頃でした。
イバラの森の前には、すっかり待ちくたびれて座りこんだ妖精が三人と、ボロ雑巾のようにされた魔女が倒れ伏しておりました。
「…なんでィお前ら。」
「おっそいアル!」
「ドーナツ食べたな…」
「待ちくたびれてしまいました。」
ブーブーと文句を言う三人の妖精を耳を塞いでやりすごそうとした青年は、文句と共にすさまじい攻撃を繰り出してくる神楽と信女との戦いに目を輝かせましたが、城に更なる強者がいた事を思い出し、二人の攻撃をかわしながら刀を抜き放ち、イバラを切り倒しにかかりました。
しかし、イバラの蔓は切ってもすぐに伸びてきて元に戻ってしまい、青年の行く手を阻みました。
「んー…どうすっかねィ…」
立ち止まって可愛らしく小首を傾げて何事かを考える青年に、それでも妖精神楽と信女は心の底からバカにした顔で言い放ちます。
「やっぱり今まで通りオマエもダメアルな。」
「ポンデリング買ってきたら助けてやる。」
「あ!ズルイ!!酢コンブ5…イヤ10箱買ってきたら助けてやるヨ!!」
もうすっかり待ちくたびれた妖精達は、そろそろ新八様を起こして欲しかったのです。
様子見に出ていた魔女に候補者が現れたと聞いて待ちかまえていましたが、もうすっかり待ちくたびれていたのです。
「あの、そろそろ新八さんを眠りから覚まして欲しいんですけど…すっごく可愛いコと口付け出来るんですよ?なんなら口付けする前なら何しても起きないんで、どんな事しても判りませんよ?」
一見上品で大人しそうな妖精・そよが一番の天然ドSでした。
「残念ながら俺ァ雌豚には不自由してやせん。それより強いヤツがゴロゴロしてんだろィ?あの城。」
「「「えぇー!?」」」
甘酸っぱい恋バナを期待していた妖精達はひどく不満気です。
しかし、青年は全く興味がなさそうでした。
「…もちろん、あの城の近衛兵の強さは遠い国にまで響き渡る程のものでしたよ。でも、あの子が起きない限り全員眠り続けるから…闘えませんよね。」
なんとか起き上がってそう話を振ったのは、魔女の山崎です。
「マジかよモヒカン女…メンドくせェ…」
「えっ!?なんでアレが俺だって解って…」
「ツラも体格も同じなのに、なんでバレねェと思ったんでィ、逆に。」
呆れ返った目で山崎を見る青年に、妖精達も魔女も驚きました。
魔女の魔法は、そう簡単に見破れるものではないのです。
「…性格はドSだよな…あの、貴方どこかの国の王子なんて事は…」
「あ?ちっさい国ですけどねィ、一応王子ですぜ?」
四人は顔を見合わせて頷きあい、この人物こそ間違いなく新八様を目覚めさせてくれる真の恋人だと確信しました。
「…仕方ないアル…イバラ抜けるの手伝ってやんヨ。」
「別に。面倒くせェけど行けねェ訳じゃねェし。」
嫌々ながら神楽が申し出ましたが、王子はそれを良しとしませんでした。
「アレは人間の技じゃ無理。」
「そうですよ!最高レベルの猛者でも入れないようにしてあるんです!!」
信女とそよも言い募りますが、軽く飛び跳ねて準備運動する王子は聞く耳を持ちませんでした。
「んじゃ、行ってきやーす。」
軽く手を振った王子は、目にも止まらぬ剣さばきでイバラを斬り抜け、あっと言う間に城に入って行きました。
驚いた妖精達と魔女がイバラを消して王子を追うと、彼は迷うことなく城の最上階、新八様の眠る部屋へと向かっていきました。
すぐに眠る新八様を見付けた王子は、スウスウと可愛らしく眠り続けるその寝顔を眺めておりました。
「…本当に寝てんねィ…おーい起きなせェ、王子が来やしたぜー」
とりあえず声をかけてみましたが、一向に起きる気配は有りません。
「起きやがれメガネー襲いやすぜー」
少し脅しつつ柔らかそうな頬をつついてみると、ソレは驚くほど柔らかいものでした。
そっと触ってみると、あまりの手触りのよさについ優しく撫でてしまいます。
が、自分らしくないそんな行為に勝手に照れた王子は、新八様の両頬を掴んで、思いっきり引っ張って伸ばしました。
すると、新八様のお顔は痛そうに苦しそうに歪み、目尻からはポロリと涙がこぼれました。
その表情を見た瞬間、王子のドS心に火が点きました。
新八様の苦しそうな表情と泣き顔は、王子の心にドストライクだったのです。
心臓はドキドキと騒ぎ、全身を血液が駆け巡ります。
その不思議な感覚のまま王子はそっと姫に顔を近付け、吸い寄せられるようにその可憐な唇に口付けました。
すると、すぐにふるりと身を震わせた新八様の、黒い大きな瞳が開きます。
すぐ目の前には、淡い色のサラサラの髪をなびかせた碧眼のイケメンが、その美しい頬を染めて優しく微笑んでおりました。
目覚めてすぐにソレを見てしまった新八様は、ドキドキと胸を高鳴らせ頬を赤く染めました。
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