こいのうた



「新八、俺と付き合わねぇか?俺はお前に惚れてる。」

買い物の途中に偶然会って、お茶を奢ってもらうようになってから何回目かのある日、突然土方さんがそう言った。
なんとなくちょっと憧れてた人にそんな事言われたから、僕はすぐにこくりと頷いてしまった…
銀さんよりはお兄さんに近くて、でも僕よりずっと大人の男の人な土方さんは、一緒に居ると色々勉強になる。
よく、剣の稽古も付けてくれるし、美味しいご飯も御馳走してくれる。
なにより、怖い見た目とはうらはらに僕には凄く優しくて、一緒に居ると安心する。
あー、これが幸せなのかな…って思ったりもするんです。

でも…土方さんと一緒に居ると、自然と真選組の皆さんとお会いする事が多くなって…僕の友人は、随分と多種多様になりました。
その中でも山崎さんとは良くお喋りして、僕の知らない頃の土方さんのお話を沢山聞かせて頂いたりしています。
こんな事まで言っちゃって良いのっ!?って思う事まで、山崎さんは教えてくれて…後で怒られないのかなぁ…?って心配です。
僕は、可愛かったりする土方さんのお話が聞けて、新しい一面が発見できて嬉しいんですが…
すっごく良いお兄さんが出来た気分です!

もう1人、沖田さんとも良くお話をするようになりました。
今までは、ドS王子だったり神楽ちゃんと喧嘩してる所しか見た事無かったんで、新しい発見で一杯です。
年が近いせいか、お話してみると意外と話が合って…
沖田さんもお姉さんが居るらしくって、この間は姉自慢大会になったりもして!

土方さんの目を盗んで見廻りをサボって一緒にお団子を食べに行ったり、土方さんの目を盗んで屯所待機をサボって一緒に土手に散歩に行ったり!
見付かったらきっと、すっごく怒られるんだろうけど、逆にそれが楽しかったり…

土方さんがウチの道場に稽古を付けに来てくださる時に、ふらりと一緒にやってきて、沖田さんも稽古をつけてくれる事も有る。
沖田さんの剣は、凄く綺麗な剣筋で…つい、見惚れてしまうんだ。
僕が、キレイな剣ですね、って言ったら照れて赤くなるクセに、それを誤魔化そうとして、ぷぅ、と膨れて急に真面目になったり…
そのくせ、僕にはちゃんと手加減してくれるんだ…ほんと、優しくて可愛いヒト…

それからそれから…

…それから…僕が、凄く沖田さんを好きになってしまった事に気付きました…
今更…駄目だよね…
僕はもう、土方さんとお付き合いしてるんだもの…あんな良い人を裏切れないよ…
でも…沖田さんと一緒に居るとドキドキが止まらなくって…ぎゅっ、って抱きしめて欲しい…キス…したい…そんな事まで考えてしまう。
土方さんとはキスなんて考えた事も無いのに…

でも、でも、沖田さんに僕がそんな事考えてるなんてバレたら…気持ち悪がられるよね…
沖田さんは、僕が土方さんの恋人だから、遊んでくれてたんだよね…そうじゃ無かったら…僕になんて話しかけてくれなかった。
いつも、銀さんか神楽ちゃんばっかりで…僕になんて、話しかけてくれた事ないもん…
あれ…?僕…そんな前から沖田さんを見てたの…?本当は、前から…

「新八ィー!昼飯作って下せぇー!卵買ってきやした!卵焼きー!赤くも黒くも無い普通の卵焼き、作って下せぇー!」

「あ、沖田さんっ…又、仕事サボって…」

今、一番逢いたくて、一番逢いたくない人…
でも嬉しくて…体中が喜んでる…

「土方には内緒ですぜ?新八にも逢いたかったし、一石二鳥でィ。」

どくん、と大きく心臓が跳ねる。
違う…違うよ…沖田さんはそんなつもりで言ったんじゃない…

「もー、僕は家政婦さんじゃないんですよ?ま、食材持ってきてくれるから有り難いですけど。」

卵焼きを作るのに、卵2パックなんていらないよ…
ウチの食費の足しにしてくれてるんだろうな…さりげなく優しい…大好き…心の中で想うくらい…良いよね…?

「沖田さんの卵は有りがたいですよー、土方さんなんかマヨですよ、マヨ。そんなにいらない、っての!」

僕が軽口を叩いてあはは、と笑いながら、卵焼きを焼いて、朝の残りのお味噌汁を温めて、ご飯をよそって漬け物を添える。
全部をお盆に乗せて居間に持っていくと、勝手にお茶を入れて飲んでいた沖田さんの目が輝く。

「おー!美味そー!いただきます!」

ぱん、と手を合わせて食べ始める。
お盆の上の食事はあっという間に無くなって、すぐにぱんっ、と音がする。

「御馳走様でした!いやぁ、新八の飯は、何時喰っても美味ぇや。これならすぐに嫁に行けるねぇ。」

沖田さんがニヤリと笑って僕を見る。

「なっ…よっ…嫁になんて行きませんっ!僕、男ですよっ!?」

「なんでィ、土方は嫁に貰うつもりですぜ?」

「へっ…?」

嫁…って…イヤイヤイヤ、無理無理無理っ!

「や、無理ですからっ!お付き合いは出来ますけど、結婚は法律上無理ですからっ!!」

「別に…書類なんざ無くても、ずっと一緒に居る、って約束すれば結婚なんじゃねぇんですかィ?」

沖田さんが、急に真面目な顔になる。

「え…?」

「好き合ってる者同士、ずっと一緒に居る事を結婚、って言うんじゃぁねぇんですかィ?」

「…それは…ちょっと違うような…」

僕が驚いて、沖田さんの顔を見ながらぼそぼそと言うと、沖田さんがずいっと近付いてきて、僕の両腕を掴む。

「アンタには、その覚悟はねぇんですかィ?土方と、ずっと一緒に居る覚悟は!?」

「えっ…?」

沖田さん、凄く真剣な顔…
普段は喧嘩ばっかりだけど…本当は凄く土方さんの事、思ってるんだ…なら、ちゃんと言わなくっちゃ…

「僕…そこまでちゃんと将来を考えた事無いです…すみません…それに、男同士で結婚なんて出来ると思って無かったし…あはっ、何かいい加減になっちゃいますね…ちゃんと考えます。」

僕が誤魔化し笑いをしつつ、申し訳無い顔で沖田さんを見る。
…怒られちゃうかなぁ…