ちいさな手錠
今日、おかしなモノを見た。
沖田さんが、宝石店で指輪を買っている処だ。
一瞬僕に!?って思ってしまったけど、店員さんの言っていたサイズは、僕には到底入るような大きさではなかった。
それに、そこに並んでいる指輪はみんな可愛いものばかりで…
僕になんて、似合う筈も無い。
じっと自分の手を眺めてみるけど…流石にあんなサイズは入らない。
皆から見れば弱いかもしれないけれど、僕だって日々鍛錬してるんだ。綺麗な手なんて…してないもん…
アレはきっと、女の人へのプレゼントなんだ…
付き合ってる、って思ってたのは、僕だけだったのかなぁ…
本当は、お嫁さんになる人がちゃんと居たのかもしれない…僕は…男だし…子供なんて産めないし…
そうだよね、ミツバさんに子供の顔、見せてあげたいよね…きっと…
それは、ぼくじゃ、出来ない…
どう頑張っても、無理…
きっと沖田さんにとって僕は都合の良い遊び相手だったんだ…
それなのに僕は…1人で本気になって…
次の日、いつものように買い物を終えて公園の前を通る。
昨日眠れなかったからかなぁ…なんだか疲れた…
ちょっと一休みしていこう…
僕がいつものベンチにやってくると、いつものように沖田さんがアイマスクを着けて寝ていた。
…沖田さん…僕はどうしたら良いですか…?
荷物を持ったまま呆然とそこに立ちすくんでいると、むくり、と起き上がった沖田さんがアイマスクをずり上げる。
「新八ィ、どうしたんでィ?いつもなら鬼の形相で俺を起こすクセに。」
ニヤリと笑う顔はいつもの沖田さんで…昨日見た光景は嘘のようだ…
僕がそれでも何も言わないまま、ただ立っていると、隣を開けてぱしぱしとベンチを叩く。
つい習慣で隣に座ると、ごろんと僕の太ももの上に頭を乗せる。
…こんな事…彼女にしてもらえば良いのに…
「沖田さん…頭どけて下さい…」
僕が太ももの上の頭を除けると、びっくりした顔で沖田さんが起き上がる。
「なんでィ新八機嫌悪ィなァ…」
…なんでそんなにいつも通りなのっ…?
僕が何も知らないと思ってるんだ、コノ人…
「…こんな事…彼女にしてもらえば良いじゃないですかっ…何で僕…?僕は…貴方の玩具じゃ無いっ!!」
僕がそう叫んで立ち上がると、沖田さんの目が大きく開かれる。
「何…言ってんでィ…新八が俺の恋人だろうが。俺ァオメェ以外に膝枕なんか、して欲しくねェよ。」
真面目な顔で言うけど…
嘘ばっかりっ!なんでこんな平然と嘘つけるの…っ!?
「嘘言わないで下さいっ…」
「…何が嘘なんでィ…?」
「僕、見ちゃったんです!昨日沖田さんが指輪買ってるの…っ!」
僕が叫ぶと、沖田さんがしまった、って顔をする。
やっぱり…
「店員さんの声も聞こえてたんです!僕じゃ到底入らないサイズの指輪でしたよね?誰にあげるんですか!?彼女なんじゃないんですかっ!?」
そこまで聞いて、沖田さんがはぁ、と溜息をつく。
…あ…僕…今凄く鬱陶しいヤツになってる…でも…でもっ…
「新八ィ、ありゃぁオメェの姐ちゃんに…」
そこまで聞いて、僕は走り出した。
姉上…確かに顔がそっくりだ、ってよく言われるけど…
よりによって沖田さんの彼女が姉上だったなんて…酷い…酷いよっ…
僕が家に帰り着くと、姉上が茶の間で指輪を見ていた。
…あっ…!アレは…
「あら、新ちゃんお帰りなさい。」
「姉上…ソレ…」
僕が泣きそうになりながらソレを指さすと、姉上がはぁと溜息をつく。
「又あのゴリラからよ。今回はちょっとセンス良いけど、私には似合わないのよね…」
…えっ…!?近藤さんからって…だってソレは沖田さんが…
「でもソレ…沖田さんが昨日買って…」
「あら、今度は沖田君が選んだの?」
姉上が納得いったという表情で頷く。
「どおりで。これ、新ちゃんに似合うもの。」
うふふと笑ってソレを僕に差し出す。
「じゃぁこれは新ちゃんが貰いなさいな。私はいらないから。」
「…そんな…」
僕が俯くと、姉上が僕にソレを持たせる。
「私は、どんな不格好なものだって、アノ人が選んだものじゃなきゃお断りなの。大体、沖田君が新ちゃんに選んだ指輪なんてつけられないわ。」
姉上はうふふ、と笑うけど、今何か凄い事聞いたような…
「姉上…近藤さんの事嫌いなんじゃ…」
「えぇ、嫌いよ?」
や、マジ、うふふふふ、と笑ってるけど…
…あれ…?ちょっと怒ってる…?
えっ?姉上…?
「近藤さんが、姉上の為に選んだものなら受け取る…」
「新ちゃん?煩いわよ…?」
「…はい…」
もしかして姉上…近藤さんの事、好きなんて…事は…
許しませんっ!僕は許しませんからねっ!!
でも、そんな事言えるはずもなく…
般若を纏いそうな姉上に押し付けられた指輪を持って、怒られないうちに自室に帰る。
あ、買い物してきたものは冷蔵庫にちゃんと入れましたが。
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