僕は、姉上がどこからか調達してきた、三角帽子とマントをつけて、魔法使いの格好をさせられた。
まぁ、他に何かしたい仮装が有った訳じゃないから良いんだけどね…?
良いんだけど…
何で半ズボンなのかが気になる所だ。
高3なのに半ズボン、って…何か恥ずかしいよ…
でも、姉上のチョイスだから脱いだら酷い目に遭いそうだし…ガマンするか…

皆待ちきれないのか先に着替えて、それぞれの用意に散っていく。
男子は皆教室の飾り付けの筈なのに、僕は料理班に回された。
…まぁ、良いけどね…料理得意だし?
そんな僕の換わりに神楽ちゃんが飾り付け班に回ったのは…正しい選択だと思う…

ってか、着替えてた時にも総悟君の姿見かけなかったけど…どうしたんだろ…?
まさかあんまり乗り気じゃ無かったから…サボってる何て事は無いよね…?
総悟君が居なかったら…楽しさ半減なんだよ…?分かってるのかな…

そんな事を考えつつも、女子の皆とお料理を作ったりお菓子を作ったりする。

ってかさぁ、なんで皆僕にふりふりエプロン着けようとするのかなぁ…?
おかしくね?僕男なのに…女子の皆はシンプルなエプロン着けてんのにさ!何かおかしくね!?
まぁ…それしか無いし、誰も変えてくれないから仕方ないけどさぁ…

日持ちする焼き菓子は皆で手分けして作ってるんで、今日はチョコケーキを作った。
後はフライドチキンとかポテトとかパスタとか…軽くつまめるサンドゥイッチとかね!
クラスには何人か料理出来る娘が居て、いつもよりは全然楽だった。

…普通こうだよね…うん…

料理が全部出来上がった頃、姉上が九兵衛さんを引っ張って皆の所にやってくる。
そういえば、姉上は写真係だったっけ…

「見て見てー!九ちゃんが可愛いの!!」

姉上に手を引かれてやってきた九兵衛さんは、姉上とお揃いの黒いフリルとレースがいっぱい付いたゴスロリ(?)のワンピースで、髪を頭の上の方で二つに分けてリボンで結んでいた。
わ…似合ってて可愛い!

「たっ…妙ちゃん!僕がこんな格好変だよ…!」

「え?そんな事ないわよ?九ちゃんすっごく可愛いわよ!ね、新ちゃん?」

姉上が僕に話を振ってくるんで、僕はコクコクと頷く。

「九兵衛さんすっごく似合ってて可愛いですよ!」

「…そうかな…?」

真っ赤になって俯く九兵衛さんはホントに可愛いよ!
皆であはは、とほのぼのしてると、九兵衛さんの後ろに白い着物を着て頭に三角の布を着けた東條さんが現れる。
めっちゃ頷きながら、涙を流して親指を立ててる…ってかその衣装…

「若のこんな姿が見られるとは…妙さんには本当に感謝していますよー!」

「東條君…そのカッコ…何か間違えてるよ…」

「は?お化けの格好、と聞いたんですが…」

東條君はきょとん、と僕を見てるけど…
お化けはお化けでも、西洋のお化けだ、って教えた方が良いのかなぁ…

「うん…色々あっても良いよね…」

「そうですか?あぁ、そう言えば。こういった行事の時には良くないモノが紛れ込む事が有りますからね、新八君も気を付けなさい。貴方は色々なモノに好かれやすそうですから…」

「…はい、有難う御座います。」

僕がお礼を言うと、若ぁ〜!と叫んで九兵衛さんの方に走って行った。
何だろ…良くないモノ…?
僕がちょっと考え込んでると、ガラリとドアが開いて伊東君が顔を出す。

「教室の準備が出来たんですが…あぁ新八君、君は何を着ても可愛いね。」

ニコニコ笑ったスーツにマント姿の伊東君が僕の隣にやってくる。
これは…ドラキュラかな?
良いなぁ…僕もああいうカッコいいのが良かった…

「…有難う御座います…伊東君もカッコいいですよ…?」

「有難う。」

ニヤリ、と笑うと牙が覗く。
わぁ、本格的…

「可愛い新八君を襲ってしまいたいよ。」

僕の肩に手を掛けてすっと近付いてこられると、金縛りに有ったみたいに動けなくなる。
ちょっ…ちょっと…
たっ…助けて総悟君っ!!

「呼びやしたか?」

僕の心の声が聞こえたみたいなタイミングで、総悟君の声がする。
すぐ側まで来てた伊東君が、チッ、と舌打ちして離れてくれると、犬耳を着けた総悟君がシャツをラフに着こなして、だらりとネクタイをたらしてる…
狼男…?かな…?
そのまま僕をぎゅうと抱き締めて、伊東君を牽制すると、伊東君は皆の方に行って料理を運び始めます!と言った。
あ…僕も行かなきゃ…

「総悟君…僕らも料理運ばなきゃ…」

「新八ィ…エプロン可愛い…何の仮装でさァ?メイドさん?」

「違います!魔法使いです!!僕だって皆みたいにカッコいい仮装が良かったのに…!」

「新八はコレが良いんでさァ。イタズラしたくなりやすぜ?」

皆から背中で隠して、ほっぺたにちゅっちゅっ、とキスをくれる。
…もぅ…

「お菓子あげたらイタズラ止めますか?」

こっそり作ってあった、総悟君用のお菓子を差し出すと、パタパタとポケットを探ってチロルチョコをくれる。

「悪ィ…こんなんしかねェや…」

「チロル好きですよ?有難う御座います。」

くすくす笑って総悟君のほっぺたにもキスを贈ると、真っ赤になって離れてくれる。
あ、皆教室に行っちゃってる!
僕らも慌てて両手に料理を持って教室に向かうと、すれ違う女子の皆に遅〜い!と怒られてしまった…

教室は、暗幕で覆われて、電気もセロファンで覆われて雰囲気が凄く出てた!
そこかしこにアロマキャンドルとかも立ってて、良い匂いもする…なんだか…凄いや…

蝋燭に気をつけて料理を並べてると、河童の格好をした山崎君がやって来て手伝ってくれる。
…何で河童…?

「新八くーん!可愛いよ〜♪魔法使い?」

「うん、分かってくれる?山崎君は…何で河童…?」

「…沖田君がさ…皆の衣装用意してくれたんだけどさ…俺も何かカッコいいのが良かったんだけどさ…」

山崎君が、あははと乾いた笑いをこぼしてがっくりとうなだれる。
…僕…総悟君に頼まなくて良かった…

「おい、メガネ…」

あ、土方君。
神楽ちゃんの面倒ちゃんと見てくれてたのかな?
僕が振り向くと、包帯でぐるぐる巻きにされた人がぼーっと立っていた…

「うっ…うわぁ――――――っ!?」