その暖かさに恋をする。



気が向いたんでぶらぶらと市中見廻りをしていると、いつものスーパーで万事屋を見かけた。

銀髪の旦那とチャイナと、メガネ君と。

ギャーギャー騒ぎながら、皆で仲良く1個ずつ荷物を持って…
チャイナなんざ、メガネ君と手ェなんか繋いじまって…羨ましいじゃねェか、こんちくしょう。
アイツら、なんかっちゃぁ一緒に居やがって…俺が付け入る隙がねェじゃねェか。
なんとかあそこから連れ出せねェかねェ…とりあえず、ちょっとあの中に入ってみやしょうか…

待ってて下せェ、新八君。





今日も今日とて万事屋に仕事は無くて、僕は家事に追われています。
あぁもう!暇なんだからさっ!!銀さんも神楽ちゃんも家事手伝ってくれれば良いのに…テレビ見てゴロゴロゴロゴロしやがって…銀さんは仕事探しに行けよっ!!

「ちょっと銀さん!ゴロゴロしてジャンプ見てる暇があったら、仕事探しに行って下さいよっ!」

「えー?果報は寝て待て、って言うだろ?」

「寝てて仕事なんか転がってきませんよっ!足使って探してきて下さい!足っ!!」

「新八君〜、休める時にはちゃんと休んでおかないといけないよ〜?イザと言う時にきらめくには、普段は力蓄えとかないとね〜」

「アンタは蓄えすぎなんですよっ!」

憎らしい顔でそんな事言いつつ、ジャンプをめくる手は止めない。
………マダオめぇぇぇぇぇぇ………

「神楽ちゃんも!暇なら手伝ってよっ!女の子は、家事出来た方が良いって!」

「いらないネ。家事出来るダンナをもらうヨ。あ、新八ヨメにもらうからいいネ。」

僕が矛先を変えて神楽ちゃんに言うと、神楽ちゃんも話をはぐらかす。

「もうっ!僕は嫁になんか行かないよっ!」

腰に手を当ててちょっと怒ると、神楽ちゃんがぷぅ、と膨れる。

「じゃぁワタシがヨメにいくヨ!」

「神楽、それは無いだろ。だって新八はもう銀さんの嫁だから…」

「アンタの所にも嫁になんか来た記憶有りませんし。」

僕が冷たい目で見ても、銀さんはなんのその。
ニヤニヤ笑って全くとりあってくれない。
その上神楽ちゃんと2人で何だか盛り上がってるし…自分達に都合の良い風に僕の立場を決めようとしてやがるんだ!きっとそうに違いない!分かってるんだからな!ちゃんとっ!!

いつまでそんな事を言ってても仕方がないんで、僕がぷりぷり怒りながら洗濯物を干しに行こうとすると、居間の入口に黒い塊が有った…って、アノ服は真選組…それに、凄く綺麗な栗色は…

「沖田さん!?何でそんな所に座り込んでるんですか!?ビックリしたなぁ!」

僕が叫ぶとのっそりと顔を上げて、じーっと悲しそうな目で僕を見る…何だ…?

「新八君は、モテモテですねェ…」

「はぁ!?モテモテ!?もしかしてさっきの話ですか?嫁だのなんだのって…そんな訳無いでしょうが。僕に失礼ですから止めて下さい。」

僕がきっぱり言うと、銀さんと神楽ちゃんが、え〜!?と言う。
何がえ〜、なんだ。

「新八はモテモテヨー!ワタシのヨメになるネ!」

神楽ちゃんがそう言って僕の腕に掴まって、べーっ、と沖田さんに舌を出す。
あぁもう…またケンカになるからっ…!

「もう、神楽ちゃん!そんな訳無いでしょうが…僕は男だよ?お嫁さんにはなりません。まったく、人の事こき使う言い訳ばっかり覚えて…銀さんのマネばっかりするんだから!そうだなぁ、僕にとって2人はさしずめ駄目親父と手のかかる妹みたいなもんですから。変な事言いふらさないの!」

僕がこつん、と神楽ちゃんの頭を叩くと、神楽ちゃんがえへへ、と笑う。

「新八やっぱりマミーみたいネ!家族のダンランにドSはジャマネ、とっとと出ていくヨロシ。」

「いやいや、お客さんだから。あ、沖田さん座って下さい?今お茶淹れてきますね。」

僕が笑顔で台所に向かうと、沖田さんは銀さんが寝転がってる向かいのソファに座り込む。
もしかしたら依頼持って来てくれたかも知れない人を、みすみす帰せるかよっ!
とりあえず洗濯物は置いといて、さくさくお茶を淹れて居間に持っていくと、沖田さんと銀さんが2人でこそこそ何かしゃべってた。
やっぱり何か依頼だったのかな?

「で?どんな依頼なんですか?迷子の猫探しとかですか?それとも屯所の修理とかですか?」

僕がわくわくしながら聞いてみると、頂きやす、と言ってお茶を飲んだ沖田さんがぷるぷると首を振る。
あれ…?
危険な仕事なのかな…?

「依頼なんかじゃねぇです。ココには新八君の顔を見に寄っただけでさァ。」

隣に座った僕の手を取って、じっと僕の目を見る。
なっ…何だ…?僕の顔…?
近藤さんに何か頼まれたのかな…?そう言えば暫く近藤さん見てない気も…

「近藤さんに頼まれたんですか?僕も姉上も元気ですが…」

「イヤ、そうじゃなくて…惚れた相手の顔は、1日1回は見てェだろ?最低。」

「あぁ、そうですね…って何がっ!?」

ほっ…ほっ…ほっ…惚れたって…えっ!?だって今僕の事話してたよね!?
だって僕男だし!

「ありゃ、真っ赤だねィ。なんだ、新八君もそう満更でもなかったんですかィ。もっと早くに言っときゃ良かったねェ。」

いつも無表情なハズの沖田さんが、嬉しそうにふわっと笑う。
なっ…そんな顔…見た事無いよっ…

「えっ…なっ…じょっ…冗談ですよね…?だって僕は男だし…沖田さんも男だし…」

「マジですぜ?俺ァそこら辺あんまりこだわらないタイプだったみたいでさァ。」

「こだわって!ソコこだわってぇぇぇぇぇぇっ!!!」

僕がわたわたしていると、ぐいっと手を引っ張られて、沖田さんの方に倒れ込む。

「…思ったとおり、抱き心地サイコーでさァ。」

「へぇっ!?」

「チャイナが抱きついてんの、羨ましかったんでさァ。」

ばたばた暴れてなんとか少し離れると、見上げた先にはひどく幸せそうな沖田さんの表情…
そんな表情されたら…離れたくなくなるじゃん…
僕がすっかり流されて、意外と広い胸にぽふっと頭を預けると、後ろからグイッと引っ張られてしがみつかれる。

「新八離すアル!コレは万事屋のネ!オマエなんかにはやらないアル!」

「そーそー、新ちゃんは俺のだから。悪いねー、沖田君。」

いつの間にか後ろに来てた銀さんが、僕に抱きついた神楽ちゃんごと僕らを抱き締める。
うっ…何か銀さんは嫌なんだけどっ!おっさん臭するし、何だか手つきがいやらしい気がする…

「ちょっ…離して下さいよっ!僕は僕のですっ!」

じたばた暴れてなんとか2人の手から逃れると、今度は反対側から伸びてきた沖田さんの手に捕まる。
あー、もーっ!
でも…なんでだろ…この感じは、嫌じゃない…むしろ、気持ち良い…
暖かくて…うっとりしてしまう。

「ほら、新八君俺には抵抗しねェじゃねぇか。俺のでィ。」

はっ!思わず大人しくしてたよっ!!
じたばた暴れてなんとか抜け出ると、沖田さんがおやおや、って顔をする。

「素直じゃないねィ、新八くんは。ほら、ぎゅってしてやるから。」

沖田さんが両手を広げて胡散臭い笑顔で小首を傾げてるけど…おかしいよね?その流れ、おかしいよね!?