お月様が見てる



「新八ィー、居るかィ?」

いつもの如く、呼び鈴なんか無視して沖田さんがズカズカと家に入ってくる。
もう慣れたけどね?慣れたけど…

「もうっ!いつも言ってるでしょうが!!遊びに来る時は事前に連絡しろって!今日ヒマ?って言われたって、いつもいつもヒマじゃないんですからね?僕だってっ!!」

僕が怒ると、沖田さんがちろり、と半眼で僕を見る。

「…いつも暇じゃねェか…」

うっ…確かにそうだけど、くやしいじゃないかよぅ…

「そっ…それにっ!家に来たら呼び鈴鳴らせって何遍言ったら…」

「じゃぁ鍵閉めとけィ。」

…涼しい顔でいけしゃーしゃーと言いやがって…

「…だって…カギ閉めてたらアンタ帰るじゃん…」

以前カギを閉めてたら、家の前まで来たのに、コノ人は何も言わずに帰ってしまったんだ…
変なトコで気を使うからさぁ…

「そうでしたかねィ…?そんな事より、どうでィ、一杯。」

沖田さんが嬉しそうにニコッと笑って、一升瓶をどんっとちゃぶ台に置く。

「お酒…って、僕ら未成年でしょうがっ!」

「いやぁー、今夜は良い月が出てるし、美味い酒が手に入ったし、新八だし。」

「僕の意味分かんないよっ!どんな理由だっ!!」

「イヤイヤ、本当に美味いんですって。」

ニコニコ笑ったまま、既にお酒の封を切って、ソコに有った湯のみにお酒を並々と注いでいる…
あーあ…こうなったら止められないや…嬉しそうな顔しやがって…

「…つまみ、そんなに無いですよ…?」

「おっ、作ってくれるんで?」

期待に満ちた顔されても…ホントにそんなに無いのにさ…
冷蔵庫の中に有ったもので、適当に何品かおつまみを作って茶の間に持っていくと、縁側が開け放たれて綺麗な月が見えていた。
ちゃっかり僕の分の湯のみもお酒を並々と注いで置いてあるし…

「これだけしか出来ませんよ?」

「上等上等。」

ニコニコと笑いながら、沖田さんが僕に湯のみを渡してくる。
あーもー、しょうがないなぁ…
しっかり受け取って、ちびり、と中身を飲んでみる。
…わ…甘くて美味しい…

「…ホント…美味しいですね…」

「だろィ。」

得意気な顔がむかつくなぁ!
でも、お酒は甘くて美味しいし、お月様は綺麗だし、沖田さんは機嫌良いし、何だか楽しくなってきた。

気が付くと、僕はお酒をおかわりしていて、作って来たつまみもほとんど無くなっていた。

「…沖田しゃん、つまみがもうないれす。」

「あー、新八が作るモンは何でも美味いから…でもホラ、1個ずつ残して有りやすぜ?」

沖田さんが僕を窺うように、下から僕をじっと見る。
あはっ、可愛い…

「全部食べてもいいんれすよ?お腹空いてるんれしゅか?僕、ご飯つくりまちょうか?」

僕が台所に行こうと立ち上がると、足がふらふらして転びそうになる。
あれー?おかしいな、地面が回ってる…

「おっと危ねェ。」

沖田さんが転びそうになった僕を支えてくれて、僕は転ばなくて済んだ。

「腹は減ってやせん。飯は屯所で喰ってきやしたから。だから、座ってなせェ…水要りやすか?」

僕を座らせて、ぽんぽんと頭を撫でてくれる。
そのままスタスタと台所に行って、コップに水を汲んで来てくれた。
わ…ちゃんと氷まで入ってる…!
僕にしっかりコップを持たせて、そのまま元居た場所に戻って月を見ながらお酒を呑み始める。