雨降り後は…



ここ数週間、僕は沖田さんに逢っていない。
そうなるキッカケは、ほんの些細な出来事だったんだ。



町で偶然、寺小屋時代にちょっとだけ仲の良かったさやかちゃんに会った。
すっごい久し振りだったんで、無性に懐かしくなって暫く立ち話をした…それだけだったのに、それを見廻り途中の沖田さんが見ていたんだ。
さやかちゃんと別れてすぐに、僕は路地裏に引っ張り込まれた。
どこの暴漢!?と、慌てる僕の背中からぎゅうと抱きついてくるその感覚は…すっかり慣れた感覚で…
僕は安心して、ふっと笑って肩越しに柔らかでさらさらな頭を撫でた。

「沖田さん…いきなりどうしたんですか…?ビックリしちゃいましたよ…」

「新八ィ…何へらへら笑ってんでィ…浮気は許さねェでさァ…」

沖田さんの腕が、僕の首に移動して、きゅっと締め上げる…
くっ…くるし…っ…

「…うっ…わきなんてぇっ…してないでしょうがっ!!」

きゅうきゅう締まっていく腕をなんとか緩めようと、沖田さんの手を掴むと更に締め付けてくる…

う…っ…意識が…遠くなる…

僕がぐったりし始めると、やっと手を離してくれる。
そのまま崩れ落ちて、地面に座り込んだ僕を、立ったまま、高い所から見下ろす…

「な…にするんですかっ…!?」

ごほごほと咳き込んで、涙を流しながら沖田さんを見上げると、酷く蔑んだ目で僕を見ている…

「新八ィ…俺の目の前で堂々と浮気するなんざ…良い度胸してんじゃねェか…」

「浮気なんてしてないって言ってんでしょうがっ!いつ誰としてたって言うんですかっ!!」

「さっき、どこかのアバズレと仲良さそうに話してたじゃねぇか…ベタベタ触られて鼻の下伸ばしやがって…」

「はぁ!?何言ってんですかアンタ!?あの娘は寺小屋時代の知り合いで…」

「はんっ、言い訳ですかィ…新八はやっぱり女の方が好きなんだろィ…」

「そんな…僕は沖田さんが…すっ…すっ…すまない、って言うまで知りませんからっ!!」

あ…っ…違う…ホントは好きって言いたかったのに…っ…
恥ずかしくて…言えないよっ…

「…俺が悪ィのかィ…判りやした…俺だって新八が改心するまでアンタの前には現れやせん…」

沖田さんはそのまま踵を返して行ってしまった…
それから数週間、本当に僕の前には現れなかった…



あんな事ぐらいであんなに怒るなんて思いもしなかったよ…
そりゃぁさ…僕も素直に好き、って言えなくて…はずみとはいえあんな事言っちゃったけどさ…
でも、沖田さんだって悪いじゃん…何だよっ…こんなに長く逢えないなんて…寂しいよ…

そんな中、今日は久し振りのお休みで家の掃除や洗濯を終わらせて、お茶を淹れて縁側でぼんやりと考える。
僕から謝った方が、良いのかな…?
でもでも、浮気なんかしてないし…僕が好きなのは…大好きなのは沖田さんだけだし…
でも…このまま逢えないなんて、もう限界…っ!
ちゃんと話せば分かってくれるよね…?
うん、まず話をしよう!!

そう思い立って、縁側から飛び出そうとすると、ひらりと塀を飛び越えて沖田さんが庭に着地する…

「…沖田さん…?」

「…新八ィ…?」

暫く見つめ合って、久し振りに見る沖田さんを堪能する。
光に透けた栗色の髪がキラキラ光って…カッコいい…

って、はっ!?僕は…最悪だ…普段着だし…割烹着に三角巾まで着ちゃってるよっ…!
こんな…僕は…

「新八可愛いでさァ…割烹着がこんなに似合うヤツなんざ、いねぇよチクショウ…」

「…それは…褒められてるんですか…?それとも馬鹿にされてるんですか…?」

「さぁね。どっちだと思う?」

沖田さんが不敵に笑う。
何…?喧嘩…しにきたの…?
逢いたい、って思ってたのは、僕だけなの…?