しんぱちひめ



むかしむかしある所に、とても可愛い王子様がおりました。
抜けるような白い肌に、漆黒の髪はサラサラで、大きな瞳は髪と同じく深く、吸い込まれそうな黒でした。
その姿があまりにも可愛らしいので、王さまとお妃様は王子様をお姫様として育ててしまいました。
新八姫として女の子の格好をさせられるのはちょっと嫌でしたが、それでも王子様はとても幸せに暮らしておりました。

ところがある日、お妃様は重い病気にかかってしまい、間も無く亡くなってしまいました。
悲しみに打ちひしがれていた王様に、悪い魔女キャサリンの魔の手が忍び寄ります。
優しい言葉で王様を騙して、魔女はちゃっかりと次のお妃様になってしまいました。

「バカナ王様ダヨ。チョット優シクサレタラコロット騙サレヤガッタ!」

初めのうちは優しかった魔女でしたが、新八姫が美しく成長する毎に、だんだん冷たく当たる様になってきました。
それと言うのも、魔女の持っている魔法の鏡が『世界で一番美しいのは新八姫だ』と言ってしまったからなのです。
今日も魔女は魔法の鏡に尋ねます。

「鏡ヨ鏡、世界デ一番美シイノハ誰?」

『それは、新八姫です。』

何度聞いても答えは同じ。
魔女は真っ赤になって怒り、新八姫を殺そうと考えました。
そして、姫を呼んで優しげな顔でこう言いました。

「シンパチ姫、アナタココノトコロズット城ニコモリキリデ退屈シテルデショ?優シイ狩人ガ、森ニピクニックニ連レテ行ッテクレルソウダカラ、行ッテラッシャイナ。」

「あ…有難う御座いますっ!」

久し振りに優しい魔女の姿にすっかり騙された新八姫は、大喜びで外出の支度を始めました。
沢山お弁当を作ってバスケットに詰めて、動きやすいドレスに着替えてもう一度魔女の元に戻りました。

魔女はお城に出入りしている狩人の土方に沢山の金貨を渡し、森に姫を連れて行って殺すように命令しました。
ですが、狩人は可哀想な姫を殺す事が出来ずに、森の奥に連れて行って迷子にさせて置き去りにしました。

ぐるぐると森を彷徨った新八姫は、もうすっかりくたくたです。
大きな木の下に座って少し休もうとした時に、小さな家を見付けました。

「あ…家だ…あそこの家で少し休ませてもらおう…で、お城までの道を聞こう!」

新八姫は、小さな家のドアを、コンコン、とノックしました。
しかし何時まで経っても返事はありません。
そっと扉を押してみるとそれは簡単に開いたので、新八姫は中に入ってみました。

「…すみませーん、誰か居ませんかー?」

声も掛けてみましたが、返事は有りません。
そろそろと進んでいくと、小さなテーブルと、椅子が7脚有りました。
そこまで行くと、新八姫のお腹が、ぐーっ、と鳴ったので、座らせてもらって持ってきたお弁当を食べました。
歩き通しで疲れていたのも手伝って、お弁当を食べながらも眠くなってしまった新八姫は、お弁当を広げたまま、どこかに眠れる場所は無いかとドアを開けました。
すると、隣の部屋にこれまた7枚小さな布団が敷いて有りました。

「眠い…ちょっとだけ…お布団借りても良いよね…?」

ばったりと倒れ込んだ新八姫は、そのまますぅすぅと眠ってしまいました。