そのまま時は流れ、新八姫と小人は森の家で楽しく暮らしておりました。
新八姫はお城に帰ろうとしてはいたのですが、皆が新八姫の料理を美味しいと言ってくれたり、楽しく遊んだりしていると帰り辛くなり、ズルズルと長居してしまったのです。
そんなある日、お妃様が久し振りに魔法の鏡に質問をすると、鏡は相変わらず新八姫と答えました。
「ナンダト!?アノアママダ生キテタノカヨ!チッ、使エネェ狩人ダナ!」
激怒したお妃様は、鏡で新八姫の居所を調べて、今度は自分で新八姫を殺そうと、毒りんごを持って小人の家へと向かいました。
魔法で老婆の姿に変身したお妃様は、森で迷った事にして新八姫の居る家の扉をノックします。
「コンニチワ、ドナタカオリマセンカ?道ニマヨッテシマイマシタ少シ休マセテハモラエマセンカ?」
ぴょこりと顔をのぞかせた新八姫は、おばあさんの姿を確認すると、慌てて扉を開き招き入れました。
「どうぞ、中に入って休んで下さいっ!」
おばあさんを椅子に座らせてお茶をごちそうすると、感激したおばあさんがバスケットからリンゴを取り出しました。
「アリガトウ優シイ娘サン、トリタテノ新鮮ナリンゴヲ召シ上ガレ。」
とても美味しそうなリンゴを手に取ると、新八姫のお腹がぐぅ、と鳴りました。
ピンクの髪の小人がとても良くご飯を食べるので、ここの所新八姫はあんまりご飯を食べていませんでした。
「あの…僕男なんですが…でも、有難う御座います!凄く嬉しいです!」
早速ぱくりとリンゴを食べると、新八姫はそのままばったりと倒れてしまいました。
「ウマクイッタヨ。コンナ所サッサトオサラバスルサ。」
お妃様は高笑いしながらお城へ帰って行きました。
暫くして小人達が森から帰ってくると、いつもは笑顔で迎えてくれるはずの新八姫が出てきません。
不思議に思いつつ皆が家に入ると、新八姫が床に倒れておりました。
慌てて駆け寄って、揺すったり叩いたりしてみても新八姫は起きません。
長髪の小人が姫の首に手を当てて、ハッと目を見開いた後、ゆるゆると首を横に振りました。
「…亡くなっている…」
「ウソネ!新八が死ぬワケないネ!!」
ピンクの髪の小人がおいおいと泣き出すと、皆ぽろりと涙を流し、そのまま皆でおいおいと泣き続けました。
一晩経っても、新八姫は温かいままで今にも起きてきそうですが、呼吸も止まったままで心臓も動き出しません。
銀髪の小人がどこからか持ってきたガラスの棺に花を敷きつめて、皆で姫をそこに横たえると、まるで眠っているような気がして、又悲しくなっておいおいと泣いてしまいました。
するとそこに、小人達の声を聞きつけて、白い馬に乗った王子様がやってきました。
「近藤さん、何泣いてんでィ。」
「おぉ!総悟!!皆の大好きな新八姫が…死んでしまったんだ…」
馬を降りて、ヒョイと王子が棺を覗き込むと、そこには可愛らしい女の子が横たわっておりました。
その女の子がどストライクだった王子は、一目で恋に落ちてしまいました。
「…なんでィ…寝てるだけなんじゃねェんですかィ…?」
うっすらと頬を染めた王子が新八姫の胸に耳を当てると、心臓の音は何も聞こえてきません。
そして、微妙な表情で顔を上げた王子が、ボソリと呟きました。
「…姫って…コイツ男じゃねぇかィ…」
それを聞いた小人達はパニックです。
素直な(?)小人達は、新八姫を女の子と信じて疑いもしていなかったのです。
小人達がバタバタと慌てて駆け回る中、王子はじっと姫を見つめておりました。
「…男でも良いか。お姫さんは王子のキスで目を覚ますって相場が決まってらァ。」
ニヤリと笑った王子様は、ぐんっ、と屈みこんで、そのまま新八姫に深く口付けてしまいました。
その光景をみた小人達が全員フリーズする中、存分に姫を堪能した王子が顔を上げると、姫の口から何かがポロリと落ちました。
すると、新八姫はすうっと目を開けます。
姫の目の前に広がるのは、深い青。
「…きれい…」
「アンタは可愛いでさァ…」
「…へっ…!?」
慌ててがばりと起き上がった姫を王子が支えて助け起こすと、姫の無事を確認して、小人達が大喜びしました。
周りの状況が分からない新八姫はおろおろと辺りを見回しますが、喜ぶ小人達と、目の前には栗色の髪をなびかせる、綺麗な顔の青年…その深い青でじっと見つめられると、吸い込まれそうです。
「新八姫、君は死んでしまっていたんだよ…そこを、通りがかった総悟が助けてくれたんだ!」
ゴリラ似の小人が説明すると、王子様がにこりと笑います。
「王子として、美しい姫を助けるのは当然でさァ。」
「あっ…あのっ…有難う御座いましたっ…」
真っ赤になった姫と王子は、手を握り合い、そのまま小1時間見つめ合っておりました。
「…あ〜…コレ、何かヤバくね…?」
「仕方無いネ。王子と姫は結ばれるウンメーアルヨ…S星の王子アルが…」
銀髪の小人とピンクの髪の小人がこそこそと話すと、その声で王子と姫は、我に帰りました。
「新八姫、俺ァどうもアンタに惚れちまったみたいでさァ。」
「…僕もです、王子様っ!でも…僕、こんな格好してるけど…本当は男なんです…」
悲しくなった新八姫がドレスの裾をぎゅっと掴んで俯くと、王子はぎゅうと姫を抱き締めました。
その顔は、今までの王子を知っている人は見た事も無いような、とても優しげな表情でした。
「そんな事ァ気にすんねィ。俺ァ国継がなくて良いんで、アンタが男だろうと何の問題も有りやせん。俺と結婚して下せェ。」
「…はい…」
2人はそのまま熱いキスを交わし、頬笑みあって、呆然とする小人達を置いて、白馬に乗って何処かへ行ってしまいました。
◆ 分岐
「…わーい、めでたいめでたい…」
長髪の小人が棒読みでセリフを言うと、固まっていた小人達の呪縛が解けます。
「…ま…良いんじゃ無い?これでめでたしめでたしなんだろ…?」
サングラスの小人がすぅっと煙草の煙を吐いて言うと、銀髪の小人と包帯を巻いた小人と地味な小人が2人を追って走り出します。
「良い訳有るか!新八が男でもアリってんなら銀さんでも良くね?」
「…イヤ、俺だ…」
「アノ人はドSだから!新八姫苛められるよ!」
口々に叫んでいますが、残りの小人と大きい犬に止められて進めません。
「イヤイヤイヤ、このままめでたしめでたしでいこうよ。」
「「「いーやーだぁぁぁぁー!!!」」」
叫びも虚しく、ズルズルと引きずられて、小人達は家に帰って行きました。
そして沖田王子と新八姫は、王子の国でいつまでも、人も羨むばかっぷるのまま、らぶらぶで幸せに暮らしました。
めでたしめでたし
END
礼
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