ともだち以上・・・
良く晴れたとある日、いつもの如く忙しくバタバタと万事屋を動き回る駄眼鏡こと、志村新八の機嫌はすこぶる良かった。
いつも、調子っぱずれな鼻歌を歌ってはいるのだが、今日はその中でもお気に入りの、何か良い事がある時には必ず歌っている、お通の楽曲の中では珍しいラブソングを歌っている。その上、何かを想い出してはにへら、と笑い頬を染めている。
そう、それはまるで恋する少年で…
でも、女っ気など皆無な筈の新八のリアクションとしては、今まで見たことも無く、見る事を想像すら出来ないものだった。
そんな中、ゴロゴロとソファに寝転ぶ銀時と神楽は何食わぬ顔をしていたが、新八が物干しに洗濯物を干しに行ったタイミングを見計らって、素早く頭を寄せる。
「銀ちゃん…新八の様子が変ネ…」
「やっぱおめ〜もそう思った?今日もお通のライブだったっけ…?」
「違うネ。ライブはおとといヨ。」
ぼそぼそと小声で話し合う2人はお互い記憶を探ってみるが、新八がそんなに機嫌が良くなる理由が全く思い当たらない。
いつもにない真面目な顔で話し合う銀時と神楽。
なんだかんだ言って、2人とも新八の事を気に入っていた。
イヤ、本当は気に入るどころじゃない。
「アノ歌はよっぽどご機嫌な時だろ〜?新八がお通のライブ以外でそんなにご機嫌になる事なんて有るか…?」
「きっと女が出来たネ…アノ浮かれようは、女が出来たに違いないネ!さっきからだらしなくにへーっとか笑ってるヨ、新八。ワタシというものがありながら、ヨソに女作るとは良い度胸アル!」
不機嫌な顔でむくりと起き上がった神楽を、慌てた銀時が押さえる。
「や、待て待て!新八も微妙なお年頃だから!いきなりバレた、とか分かったら恥ずかしがって誤魔化すって絶対!も〜少し証拠を固めてから…」
「その場で押さえて別れさせるネ!」
「…何か違うけど…まぁ、そんなとこか。」
何かを納得したのか、大人しく神楽がソファに座る。
それをホッと見守り、銀時が神楽から目を逸らす。
(全く、冗談じゃねぇ。新八に彼女?そんなの本当だったら俺の心が折れるって!親しげな女なんか居たら、その場でぶっ壊してやんよ。新八が認める前になぁ!)
そんな銀時達の心も知らず、洗濯ものを干し終わった新八が居間に戻ってきて、今度は掃除を始める。
「もう、銀さんも神楽ちゃんも!ゴロゴロしてるんなら掃除手伝って下さいよっ!!」
聞きなれたいつものセリフだが、今日は何か違った。
「…新八今日は優しいアル…」
「そんな事無いよ、僕は怒ってるんだよ?」
そう言いつつも新八の顔も口調も優しく、にひゃりと笑っていた。
そんな、幸せそうな顔をさせているのが自分ではない事に、神楽は腹を立てていた。
「…やっぱりキモいアル…笑うなヨ、新八。」
「えっ…?僕…笑ったら変かな…?」
「変ヨ!ニヤニヤしてて…キモいネ!!」
ほとんど八つ当たりのような神楽の一言で、新八の顔が曇ってしゅんとしてしまう。
その表情を見て神楽は慌てるが、誰かを想って笑っている新八が、自分の言葉で顔を歪めるのに少しだけ優越感を感じていた。
「新ちゃ〜ん、銀さんはそんな事思わないよ〜?新八の笑顔は可愛いって。」
にやりとほくそ笑みながら銀時が新八を抱き寄せると、新八はするりとその腕をすり抜ける。
「…お……さんも…キモいって思ってたらどうしよう…」
「おっさん…?」
「なっ…何でもないですっ!」
不思議そうに眉を顰める神楽と銀時が新八を凝視すると、それに気付いた新八が頬を染めて、ぱたぱたと掃除を始める。
そのままさっさと掃除を終わらせて、台所に駆け込んで料理を始める。
2人のお昼用にと、おにぎりと卵焼き、ウインナーを居間のテーブルに乗せた新八が、台所に戻ってゴソゴソと何かをやっている。
もぐもぐとテーブルに乗せられた料理を食べながら2人が聞き耳を立てるが、新八が何をやっているのか分からない。
少しして、大きなバスケットを持った新八が台所から出て来て、2人の方を見て眉を寄せる。
なんとか笑わない様に、顔を歪めている。
「すみません銀さん、僕ちょっと出かけてきますね。」
「新八…」
新八のそんな表情を見て、泣きそうになった神楽が新八に声を掛ける。
「ごめんね、神楽ちゃん。今ちょっと急いでるから…帰って来てからお話聞くね?」
振り返って、又顔を歪める新八を見て、神楽は本当に泣きたくなった。
ばたばたと、それでも鏡で身だしなみを整えてから出ていく新八を見送って、目に一杯涙を溜めた神楽が振り返る。
「銀ちゃんどうしよう…新八笑わなくなったアル…」
「そりゃぁ帰って来てから謝れ。そんな事より、見たか神楽…新八が鏡で身だしなみ整えてたぞ…」
「…見たヨ…それに、アレ…お弁当アル…鶏のから揚げまで入れてたヨ!ワタシタチには無かったネ!!」
「…デート…か…?」
「デート…アル…」
「行くぞ。」
グイッと涙を拭いた神楽の頭を銀時がぽんぽんと撫でて、2人も万事屋を駆け出した。
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