お約束は突然に
銀魂高校も、そろそろ学校祭の季節です。
学校祭も今年で最後だし、クラスでは何をやるのかな?何か大きい事どか〜んと出来ると良いよね!
それに仲が良い友達も増えた事だし、皆で出店とか見て回ったり出来ると楽しいよね!
なんて…ううん…本当は今年は総悟君と一緒に見て回れたら嬉しいなぁ、とか思っちゃってたりするんだ…
だって、こっ…恋人になって最初で最後の学校祭なんだし…何か…こう…想い出とかさ…欲しいな、なんて乙女な事考えちゃったりしたりなんかして…さ…
イヤあのアレ、去年も一昨年もずっと一緒だったんだけどさっ!
やっぱり何か違うじゃん…?友達と恋人じゃさぁ!
ちょっと…期待しちゃったりしてるんだよね…
僕がそんな事を考えてたその日のHRは、やっぱり学校祭のクラスの出し物を決めると言うもので。
全くやる気の無い担任がすぐに実行委員にバトンタッチして、教室の隅に椅子を置いて座り込んだ。
実行委員は…何時の間に決まっていたのか、やる気満々の姉上と近藤君だった…
あの…何か嫌な予感が…ひしひしと…
「それじゃ、クラスでやる出し物を決めたいと思います。メイド喫茶で良いかしら?」
「姉上ェェェェェェェェ!?皆の意見はァァァァァァァ!?」
僕がズバッと手を上げて意見すると、姉上がにっこりと笑う。
「あら、だらだら決まらないよりムカつかないじゃない?」
「イヤイヤイヤ!何そのジャイアニズムゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?」
「それに、新ちゃんのメイド姿可愛かったんだもの。安心して?今回は大正浪漫よ?」
「何処に安心するんだよっ!?」
「スカートが長いわ?ミニスカートは嫌なんでしょ?」
「長さじゃ無くて!スカート自体が嫌なんですよっ!!」
「…仕方無いわね…じゃぁ、袴にするわ。」
僕が息を切らしながら突っ込んでも、姉上はどこ吹く風でさらりさらりと流してしまう。
だっ…駄目だ…僕1人じゃ勝ち目なんか何処にもありゃぁしないよっ!!
なんとか味方を…!
そう思ってきょろきょろと辺りを見回してみる。
近藤君は…駄目だ…姉上の言う事に反対なんかしないよ…あの人は喜んで自ら女装する…
神楽ちゃん…は興味津々で衣装のカタログを眺めてる…駄目だ…
土方君や伊東君や山崎君や…男子の皆はなんかニヤニヤしながらコッチ見てるし…
オマエらだって笑い事じゃないんだからな!!姉上の恐ろしさ思い知れ!!
九兵衛さん…も駄目だ…姉上に丸め込まれてるぅぅぅぅぅぅ!
総悟君…は…駄目だよね…喜んで僕に女装させそうだよ…
今年は3年だから、剣道部の方でやっと女装しなくて良くなったってのに…これじゃぁ高校3年間ずっと学校祭で女装じゃないかよ…
無駄だとは思ったけど、悲しい目で総悟君の方に振り返ると、ガタリと椅子を立った総悟君がポン、と安心させるように僕の肩を叩く。
「新八がこんなに嫌がってんだ、ここは多数決をとろうじゃねェですか。」
既然とした声が、教室に響く。
え…?
総悟君…なんだかんだ言ってもイザとなったら僕の味方…してくれるんだ…
「…チッ…仕方ないわね…女装喫茶に反対の人。」
姉上が面倒くさそうに多数決をとってくれる。
きっと僕以外にも嫌な人居るよね?
「はいっ!」
僕が張り切って手を上げるけど、他は皆静まり返ってる…
あれ…?
そろりと振り返ると、僕の他には総悟君しか手を上げて無い…
皆…何で…?
でも…総悟君だけは僕の味方なんだ…!
嬉しくなってにこりと微笑みかけると、総悟君も綺麗に笑ってくれる。
「これで納得した?では、今年の3年Z組の出し物は、女装喫茶とします。」
姉上が纏めると、パチパチと拍手が起きる。
…こんなに皆が賛成なら…僕も諦めるしかないよね…?
それに、総悟君は味方なんだから…最悪の事態は避けられるよね…?
「ドSオマエ新八の女装姿見たくないネ?」
神楽ちゃんが怪訝な顔で総悟君に話しかけると、総悟君の顔がニヤリと歪む。
「俺1人ぐらい反対したって決まるだろィ。ここは新八に味方しといた方が得だろ。」
「ナルホド!頭良いな、オマエ…」
わっるい顔で2人がニヤリと笑い合う…え…?総悟君…?
「えっと…あれ?総悟君、僕の味方じゃ…?」
「おう、俺ァいつだって新八だけの味方ですぜィ?」
キメ顔で肩を抱かれるけど、誤魔化されないからな…?
僕の鼻フックデストロイヤーが総悟君に決まった事は、言うまでも無いだろう。
イザと言う時の3Zの団結力は凄いもので、学校祭までの準備は誰1人サボる事無く着々と進んだ。
僕も女装は嫌だったけど、やっぱり学校祭って雰囲気はテンションが上がるし、準備も楽しかったんで進んで参加してしまった。
総悟君も…珍しくサボらないで真面目に準備に参加してた。
僕は…やっぱり真っ黒な企みが許せなくって、あの日からずっと口をきいて無い。
…最後の学校祭なのに…
楽しい想い出にしたかったのに…
僕が意地になったから、総悟君も意地になって僕に話しかけて来てくれない…
せめて当日は…僕から謝って一緒に…
そんな風に思っている内に、学校祭当日はやってきた。
準備は抜かり無く、Z組は綺麗に飾り付けられ、すっかり喫茶店…と言うか、ミルクホールへと姿を変えていた。
そして男子は皆、女子に女給さんの格好に着替えさせられていた。
確かにミニスカートのメイド服よりはマシだけど…着物に袴でブーツを履いて、フリフリのエプロンまで着けてしまうと、やっぱりその姿は女の子で…僕はガッカリしてしまった…三つ編み付いてるしさ…ヘッドドレスまで付いちゃってるし…
「行くわよ退子!トシ子!私達の美貌で男子のハートを鷲掴むわヨ!」
「負けなくってよ!勲子!!さぁ!鴨子も早く!」
…張り切った近藤君と桂君が、ホホホホホ…と笑いながら駆けて行ってしまう…
残された山崎君と土方君と伊東君が、覚悟を決めてそれに続く…
…僕も…行こうかな…
はぁ、と大きく溜息を吐いて歩き出そうとすると、目の前に誰かが立つ。
エプロン姿じゃないから…神楽ちゃんか姉上…?
諦めて顔を上げるとそれは総悟君で…何故か1人だけギャルソンの格好をしていた。
「新八かーわいいでさァ!」
「って!何で総悟君だけギャルソンなんだよ!?」
「…えー…?何ででしょうねェ?」
にこり、と悪そうに微笑むって事は…何かしたな!?
この人何かしたな!?
僕がジロリと睨んでも、涼しい顔でにっこり笑顔は崩さない…
いつもと違う服だからってなぁ…カッコ良いからって怯まないからな!僕は!!
ぎゅっと拳を握って睨み続けても、総悟君はじっと僕を見たまま動かない。
な…んだよ…
「…やっぱり新八似合いまさァ…可愛い…他の奴に…見せたくねェなァ…」
妙に真面目な顔でそんな事言われたって…ドキドキなんか…しないからな…っ…!
少し赤くなった頬を押さえて俯いていると、突然腕を引かれて総悟君が走り出す。
なっ…!?
「ちょっ…!ドコに…」
「黙って着いてきなせェ。」
無表情になった総悟君がちょっと怖い…
でも、握られた手が暖かいから…僕もぎゅっと手を握り返した。
ちゃんと仲直りして今日は楽しい想い出作りたいから…総悟君が何処に行くのでも僕は着いていくよ。
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