するするサラサラ
「新ちゃん、あなたどうしていつも三つ編みなの?」
久し振りの休日。
ちょっとゆっくりめにご飯を食べて居間で身支度を整えていた私に、突然姉上が問いかける。
「えっ…?イエ、私不器用だし…それにこの髪形動きやすいんですよ?」
三つ編みを結びながら、私がえへへ、と笑うと姉上の機嫌が急降下する。
えっ!?
私何か変な事言ったかな…?
「勿体無いわ、新ちゃん可愛いのに!彼氏ができればもうちょっとオシャレするかと思ってたのに全然変わらないんだもの…」
むぅっと膨れた姉上が、何かを思いついたように、ぽん、と手を叩く。
「そうだわ、今日は私が髪を結ってあげるわ!私とお揃いにしましょ?」
にっこりと微笑んで良い事を思いついた、と言う感じでいそいそと私の背後に回った姉上が、三つ編みを結んでいた私の手をバシッと叩き落として三つ編みをほどく…痛ぁっ…
「痛っ!何すんですかっ!?」
「新ちゃん動かないで?」
振り向こうとした私を笑顔で威嚇して、スッと櫛を構える…
「…はい…」
…こんな事滅多に無いし…今日は姉上の好きにしてもらおう…
特に予定も無いしね。
おろした髪をサラサラと櫛で梳かれると、なんだかくすぐったくて気持ち良い。
姉上とこんな風にゆっくりしたのも久し振りだなぁ…ほんの気紛れだろうけど、こんな時間も嬉しいな…
コトリと卓袱台に櫛が置かれて、優しくて暖かい手がするりと私の髪を纏めて頭のてっぺんで纏めて結わえられる。
ポニーテールか…私がやると、なかなか纏まってくれないんだ…
「はい、出来た。ほら可愛い!」
姉上が手鏡を渡してくれるんでそっと覗いてみると、普段とは違う私が鏡に映る。
「なんだか、自分じゃないみたいです…」
ちょっと照れながら言うと、姉上がにっこりと笑ってくれる。
気分を変えて、今日はこのままで居よう!
自分ではこんなに綺麗に結えないもんね。
「有難う御座います、姉上!」
嬉しくなって笑いかけると、姉上も笑ってくれる。
2人でほっこりしていると、ガラガラと玄関が開く音がする。
誰だろ…?
「ごめんください。」
あ!この声は…
「ミツバお姉様よ!今日いらっしゃるって約束していたの!」
はしゃいだ姉上が、小走りで玄関に走る。
私が沖田さんと付き合うようになってすぐに、沖田さんのお姉さんが家に挨拶にみえて…
凄く綺麗で、凄く優しくて。
私と姉上はすぐにミツバお姉さんが大好きになった。
それまで沖田さんと付き合う事にあまり賛成してくれて無かった姉上も、それからは黙認してくれている。
「ミツバお姉様丁度良い所にいらっしゃったわ!今、新ちゃんが可愛いんです!」
「あら、楽しみ。」
うふふ、という笑い声と一緒に2人が廊下から現れる。
その後ろには何故か私服姿の沖田さんも居た…あれ…?
「ミツバさん、沖田さんいらっしゃい。あの、沖田さん今日は…」
「あら、新ちゃんったらまだそーちゃんの事『沖田さん』なんて呼んでいるの?」
「そうなんですよ。沖田さん可哀想。」
あらあらまぁまぁと姉上達が頬に手を当てて私を非難するけど…
だって…タイミングとか…心の準備とか…
「あの…だって…」
「恋人同士なのに…そーちゃんだって新ちゃんに名前で呼んで欲しいと思ってるわよね?」
ミツバさんが、こくりと首を傾げて沖田さんに尋ねると、凄く優しい笑顔で沖田さんが首を振る。
…そんな顔…私見た事無い…
「イエ、僕は別に…新八のタイミングでその内呼んでくれれば…」
「遠慮しなくて良いのよ、沖田さん。さ、新ちゃん?」
にっこり笑った姉上が私を促す。
「こんなのは勢いよ?『そーちゃん』って、ハイ!」
にっこり笑ったミツバさんが、いきなりハードル上げてくるっ!?
そんなっ!そっ…そーちゃんなんて…呼べないしっ…!
でも…にっこりにこにこと迫ってくる2人から逃げる術は私には無いよっ…
沖田さんに助けを求めようかと目をやると、なんだか期待に満ちた目でこっち見てるぅぅぅぅぅぅぅっ!!
何!?これ言わなきゃ駄目な雰囲気ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?
「あっ…あのっ…そっ…そっ…」
3人にじーっと見つめられるとより一層呼び辛いよっ!!
「新ちゃん、ほら。」
「あっ…あうっ…そっ…総悟…さん…」
「へい。」
私が呼ぶと、満面の笑顔で沖田さんが返事をしてくれる。
…やっぱり名前で呼んで欲しかったのかな…?
さっきよりも…綺麗で可愛い笑顔…だよ…
「そっ…総悟さん…今日は仕事はどうしたんですか…?」
非番だなんて聞いて無いよ…?
「朝突然非番にされたんでさァ。なんでデートのお誘いに来やした。新八休みだって言ってただろィ?」
ちょっと照れたように微笑まれたら、心臓が煩く騒ぎ出す。
デート…なんて…行かない訳無い…
「はい!嬉しいです…」
今日は姉上が髪を結ってくれたし、着物だけ着替えれば…
私が着替えてこようと立ち上がると、沖田さんが頬を染めてにっこりと笑う。
「その髪型も可愛いでさァ…リボン、買いに行きやしょう。」
「はい…」
うわ…まさかそんな事言ってくれるなんて思ってもいなかった…
ものっすごく照れるよっ…
赤くなって俯いていると、ガシッと両側から腕を掴まれる。
あ…?ミツバさん…?姉上…?
「あの…?」
「じゃぁ、着替えましょうか、新ちゃん。」
「うんと可愛くしてあげる。そーちゃん待っててね?」
呆然と立ちすくむ沖田さんを残して、私は姉上の部屋に引き摺られていった…
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