そこからの未来
新八くんが山崎に女にされてから1週間。
日に日に新八くんの女度は上がってきて、今じゃ昔男だったなんて想像も出来ないほどだ。
叫び出したいほど、毎日新八くんは可愛い。
しっかし、山崎が焦ってくれて良かったぜ…
あの時本当は、俺もこっそり天人の薬を持ち出そうと思ってた。新八くんに飲ませる為に。
ま、失敗しても土方に飲ませたら面白ェかな、ぐらいに思ってた。
偶然先に山崎が保管庫から薬を持ち出してんのを見付けた時は、笑いが止まらなかった。
当然俺は、山崎が新八くんに惚れてんのは知ってたからな、誰に使うかなんて一目瞭然だ。
なんだかんだで山崎はそう言う事は失敗しねェし、新八くんも心を許してた。
俺が直接飲ませるよりは、成功率が高ェ。
そう確信してたから、こっそり屯所を抜け出す山崎を、俺もこっそりつけて行った。
後は、ここぞ、って時に王子様気取って助けに入りゃ完璧だ。
出来るだけ下心なんざ見せないで、ジェントル気取ればあら不思議。
万事屋に送り届ける頃には、真っ赤な顔が物語ってた。
しっかし…こんなに簡単だとは予想外でした。
新八くんはもっとお堅いと思ってやしたが…
それに、土方さんや伊東先生、万事屋の旦那に桂や高杉まで…あぁ、他にもモジャモジャや三つ編みも居たっけ…
ソイツらを蹴落とすには、少々骨が折れるかと思ってたんですが…
こんな簡単に俺に落ちてくれっと、ちょいとばかし面白くねェや。
安心しきった顔で俺の事見ていられっと…その信頼を裏切ってやりたくなるんでィ…
そろそろ…本気で色々してやりましょうかねェ…
なんで俺がドS王子なんて言われてるか…思い知らしてやりたくなりまさァ…
そんな事考えながらブラブラと見廻りをしてっと、大江戸ストアのタイムセールの時間になる。
さて、今日も愛しの新八くんに逢いに行きやすか。
スーパーの中に入って野菜売り場に行くと、いつものようにコロコロとカートを押して、真剣に野菜を選んでいる新八くんを発見する。
そっと近付いて、カートに手を掛ける。
「新八くん、俺がカートを押しやすぜ。」
ついでに、偶然を装って新八くんの手を握ってから、バッ!と手を離す。
すぐに頬を染めてにっこりと笑ってやれば、新八くんも真っ赤な顔で微笑んでくれる…今日も可愛いねェ…
「沖田さん…今日も買い物手伝ってくれるんですか?有難う御座います…でも…お仕事良いんですか…?」
ちょっと心配そうな顔をしてっけど、でも、嬉しそうだ。
「大丈夫大丈夫。今休憩時間だから。」
「嘘ばっかり…」
そう言いつつもクスクスと笑う表情は絶品でィ!
「あー…手ェ出してェ…」
「えっ…!?」
びっくりした顔で新八くんが俺を見る。
あ…ヤベ…つい心の声が出ちまった…
「…あー…だって…惚れたヤツには触れたくなっちまいまさァ…」
…こんぐらいなら…本音出してっても良いよな…?
「じゃぁ…あの…手…繋ぎますか…?」
真っ赤な顔で俯きながらちらちらと俺を見る…
んな顔されたら…俺まで赤くなっちまわァ…
「新八くんのお許しが出たんなら、当然繋ぎやす!」
プラプラさしてた新八くんの手を引っ掴んで、恋人繋ぎでギュッと握ると、新八くんも握り返してくれる。
やわっこくて気持ちい…
こんな事ならもっと早くに言ってみるんだったぜ!
そっと新八くんの方を窺うと、眼鏡の奥の瞳を潤ませて、俺の方を見てた…
何…でィ…そのツラァ…誘って…イヤイヤ、新八くんの事だ、無意識でやってんでしょうねェ…
その後は大人しく買い物して万事屋まで送る。
当然、手は繋いだままで。
折角お許しが出たんでィ!誰が離すかってんだ。
でも、楽しい時間にはいつも終わりが有りやがる。
すぐに万事屋の前に着いちまって…それでも離しがたくって階段の上まで手をつないで上る。
「あのっ、沖田さんっ!」
いよいよ手を離そう、って時に、意気込んだ新八くんが真っ直ぐ俺を見る。
「…どうしやした…?」
「あのっ…えっと…いっつも買い物を手伝ってもらってるんで…あのっ…お礼と言っては何ですが…今晩暇ですかっ?」
…コンバン…?こんばん…今晩!?
やっと言葉と意味が繋がる。
だって…アノ新八くんですぜ!?まさか新八くんの方からそんなお誘いが…それもこんなに早く来るなんて思ってもいやせんでした!
アノ薬にそういう効果でもあるんですかィ…?ちょいと調べてみやすかねィ…
「…新八くん、ダイタンでさァ…」
俺がちょいと頬を染めてそう言ってやると、真っ赤になった新八くんがぶんぶんと手を振る。
「イエ!あのっ!!そう言うんじゃなくてっ!!!晩ご飯…晩ご飯でもどうかなって!僕の作ったものなんかで申し訳ないんですけど…良かったら…」
…あぁ…飯か…
「…ビックリしやした…勿論ご馳走になりやす。新八くんの手料理、楽しみにしてやす。」
にっこり笑って言うと、安心したように笑った新八くんがほっと溜息を吐く。
そんな事で緊張してくれたんですかィ…
「断られなくて良かった…今日は頑張っちゃいますね、僕!」
それじゃ又後で、と言って階段を下りていくと、いつまでも階段の上から手を振ってらァ…
ベタ惚れされてるんですねェ、俺ァ…
さって、屯所に戻ってアノ薬の事調べやすか…
適当に見廻りして屯所に戻る。
さっさと資料室に行って、こないだ押収した…新八くんを女に変えた薬の資料を手に取る。
「今更そんなの見てどうするんですか?沖田隊長…」
書類棚の陰から、すぅっと山崎が顔を出す。
気配を消してたつもりなんだろうけど、殺気がダダ漏れでィ。
「新八くんの様子がおかしくてねェ。ちょいと調べものでさァ。」
「…なんですか?若いからこれぐらいじゃ足りないとでも言うんですか…?」
…若い…?何の事だ…?
「山崎ィ…オメェ…何を知ってんでィ…?」
しゃらん、と刀を突き付けると、にやぁりと笑った山崎が嫌な目で俺を見る。
「とぼけないで下さいよ沖田さん…あの薬の効果、知らない訳無いでしょう…?」
勿体ぶった言い方が、癇に障る…
このままぶった斬ってやろうか…?
俺の殺気が膨らむと、山崎があわあわと慌てだす。
「え!?ちょっと…まさか本当に知らないんですか!?あの薬は女性が滅亡した星で、男性が子供を産む為に作られた薬なんですよ!だから、是が非でも妊娠しなくちゃいけないんです。人類滅亡しちゃいますからね!その為に、女性化した個体からはとても強いフェロモンが放出されます。だから、あんなに沢山新八君を好きになっちゃったんです…まぁ、あの薬を飲む前から皆新八君を好きだったみたいですけど…」
「…それじゃ新八くんがおかしい理由にはならねェ…」
俺が更に刀を突き付けてすうっと皮一枚に斬り目を入れると、あばばばば、と意味不明な言葉を発した山崎が更に説明を始める。
「こっ…これからですよ!これから!!で、女性化した個体は、妊娠するまではどんな状況でも性欲が増加するんです!新八君…凄いでしょ?」
「…何がでィ…?」
にやぁりと笑った顔が気持ち悪ィ…
何が言いてェんだ?山崎…
「何がって…当然シちゃってるんですよね?新八君と…」
「だから、何をでィ。毎日買い物はしてやすが…」
不審げな顔で山崎を見ると、これ以上も無く驚いた顔で俺を見る…
何なんでィ、コイツ…
「え…?まさか…まさかですよね…?沖田隊長に限って…まだ新八君とエッチして無いなんて事…」
「…してねェよ…」
王子様キャラで押してんでィ。
それに、あんな純情な新八くんにおいそれと手なんざ出せねェやい…
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?副長じゃあるまいし、沖田隊長に限ってそんなヘタレな…」
「…悪かったな…ヘタレで…」
俺が殺気を膨らませて睨むと、凄い勢いで出口に逃れた山崎が温い笑顔を俺に向ける。
「逆に尊敬しますよ、かなりの効き目らしいのにそれに抗える新八君と沖田さんを…頑張って下さいね!」
グッと親指を立ててんじゃねェ!
滅茶苦茶ムカツク…
でも…そうか…そんな効果がねェ…
んじゃぁ、今晩はそういうつもり、って事で良いんだな…?
こりゃァ更に楽しみになっちまった…
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