その日から数日、僕は買い物に行く事は無かった。
体調が戻らなかったってのも有るけれど、一番はお金が無かったからだ。
あの日、スクーターが有ると思ってついつい纏め買いしてしまったのだ。
当然その間は沖田さんを見かける事も無く…まぁ、普通に生活してたら、そうそう武装警察なんて見かける事は無いんだけど…
そうなると、酷く寂しくて物足りない。

…やっぱり僕は、そういう性癖を持っているのか…道場の復興…どうしよう…

はぁ、と大きく溜息を吐くとお通ちゃん時計が可愛らしく3時を告げる。
あ!ヤバい!そろそろ支度を始めないと!
今日は大好きなお通ちゃんのライブの日で…あれ…?そうだよな、僕はお通ちゃんが好きなんだ。
そうなると、僕は…あれ…?
なんだか自分でも何が好きなのか分からなくなってくる。
ぼんやりとしながら親衛隊隊服に着替えていくと、サラシを巻いた所で変な違和感に気付く。

…最近ちょっと太ってきたよな僕…胸筋がたるんできてるよ…
やっぱりアレだな、最近鍛錬サボりがちだし。
剣を握るより、家事とかやっちゃってるもんな…
その上、沖田さんと仲良くなってからはちょいちょいお団子とか奢って貰ったりしてるし…そのせいもあるかも。
腹筋とかはそうでもないのに…動き的な何かなのかなぁ…もっと鍛えないとなんだか恥ずかしいや。まるで軍曹みたいになってるよ。

はぁ、と溜息を吐いてはっぴをはおると、たるんだ胸筋がちょっと隠れる。
見た目悪いし…はっぴで隠しておこう…それとももうちょっと上からサラシ巻こうかな…
まぁ、どっちにしてももう時間も無いし、取り敢えず家を出よう。
僕がそう思って荷物を持つと、窓から僕を呼ぶ声がする…沖田さん…?

「新八くん、近藤さ…」

「近藤さんですか?今日は家では見かけてませんが…って、どうしたんですか?沖田さん?」

ぽかん、と僕を見る表情が何だか可愛くて、ちょっとだけ心臓がドキリと鳴った。
やっぱり僕…この人の事…好き…かも…
そっと窓際に近付くと、物凄い素早さで沖田さんが窓の下にしゃがみ込む。
どうしたんだろ…気分でも悪いのかな…?
心配になって駆け寄ると、たるんだ胸筋がふるふると揺れる。あぁもう!今日から鍛え直さなきゃ!!
窓の下を覗き込むと、鼻を押さえた沖田さんが、なにかブツブツと呟いてる。ホントに大丈夫かな…心配だよ。

「…沖田さん…?具合悪いんですか…?」

そっと手を伸ばすと、僕の手に気付いた沖田さんがいきなり立ち上がって窓を乗り越えて部屋の中に入って来る。
ちゃんと靴を脱いでくれてるのは良いんだけど、何で窓から…?

「新八くん…アンタそんな恰好で何するつもりでィ…」

地の底から響いてくるような低音でそんな事言われるけど…何か…怒ってる…?

「は?これからお通ちゃんのライブですが…」

びくびくしながら僕がそう答えると、瞳孔全開で僕を睨みつけてくる!
え…?僕何かしたっけ…?

「そんな恰好で外に出るつもりなんですかィ!?そんなの許される訳ねェだろ!?」

沖田さんの目が更にカッ、と見開く。
何でそんなに怒ってるんだ…?

「え…?あの…」

「姐さんは何も言わないんで?ダンナは…あぁ、もう良い。下にTシャツ着なせぇ!なんか黒いヤツ。」

そう言って僕の箪笥をゴソゴソと漁るけど、僕はそんなの持ってないし…
暫く漁って諦めたのか、ジッと僕を見てすぐにフイっと目を逸らす。

…あ…!そうか、この胸筋…
たるみきった僕の体を見て怒ってるのか、沖田さん。なんだかんだ言っても隊長だもんな、鍛錬不足の象徴みたいな僕に我慢ならないのか…

「なんかすみません、見苦しいモンお見せしちゃって…ここ最近あんまり鍛錬出来て無かったから、なんか気付いたら大変な事に…」

僕が誤魔化し笑いしながらそう言うと、恐ろしい目をした沖田さんが僕を箪笥に押し付けた。
痛…い…そんなに怒るような事かよ…
でも、凄く近くに有る真剣な、怒った顔がカッコいいだなんて…僕は…

「いい加減にしなせェ!アンタは…!………あ………すまねェ…」

何か言いたげな沖田さんは、俯いて黙ってしまった。
気になるけど、この人が言わないと決めた事ならきっと僕には何も教えてくれない。

「Tシャツは持ってないんです…」

「…じゃぁもっと上からサラシ巻きなせェ。」

「時間無くって…沖田さん手伝ってくれますか…?」

「へぇっ!?………良いんで…?」

「お願いします!」

はっぴを脱いでサラシを外していくと、沖田さんの視線がなんでか気恥ずかしい。
そんなつもりなんて絶対無いだろうに、僕が意識しすぎなんだよね…

脂肪を押さえてサラシを巻こうとしても、片手だからやっぱり巻きずらい。
沖田さんの目が気になってドキドキするし…全然出来ないよ…!

「できな…っ…」

「…すいやせん、ちっとばかし我慢して下せェ。」

グイッと僕の脂肪を固定した沖田さんが、力一杯サラシを巻いていく。
でも、息苦しいよりも沖田さんの手の感覚が気になって…
顔に血が上りまくりだし心臓は爆発しそうだし、その上お腹の中がうずうずして変な感じで…
まさか僕…沖田さんをイヤらしい目で見て…

「うし、巻けやした!…新八くん…?」

「うぁっ!はいっ!!ありがとうごじゃいましゅっ…!!」

慌てて顔をあげると、沖田さんの顔も真っ赤に染まってた…え…?

「ライブ、時間ねェんだろィ?送って行きまさァ。」

「え…おきたさ…」

僕が何か言う前に、沖田さんは僕の手を掴んで家の前に止めてあったパトカーの後部座席に僕を押しこんだ。
そうなったらもうタイミングを逃してしまって、僕は何も言えない。
何で顔赤かったんだろ…もしかして、沖田さんも僕と同じ気持ち…なんて有る訳無いよね…
ふと目を向けると、運転をしている沖田さんが格好良くって又心臓が早鐘を打ち始める。

どうしようどうしよう、僕はもうすっかり道を外れてしまったんだ。
こんなにも沖田さんの事が好きだ。
イヤらしい目でみてしまうくらいに…それも、色んな事をして欲しいなんて…男として本格的におかしいんだ。
こんなにドキドキしてるのに、僕のナニは反応してないって事はそう言う事なんだよね…?

「ほい、着きやした。ライブ楽しんできなせェ。後、サラシには気を付けろィ。」

そんな優しい事言って、にこり、と優しい笑顔なんて反則だ!

「ひゃぁっ!はいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

お礼もそこそこに僕は車から転がり出た。
沖田さん、変な顔してた。
イヤ、変な顔って言っても顔が変なんじゃ無くて、顔はやっぱり格好良くって…
あぁもう!こんなんじゃ次に有った時に普通になんて出来ないよ…どうしよう…

その日のお通ちゃんのライブは最高だったけど、僕は最低で。
どの曲も全部ラブソングに聞こえて、沖田さんの顔がチラついて、心臓が爆発しそうで…
家に帰ってからもドキドキが収まらなかった。
それに…サラシを外したら、巻いてくれた時の沖田さんの手の感覚を想い出して又僕はおかしくなった。

こんな事誰にも言えないよ…
銀さんにも神楽ちゃんにも姉上にも。
当然沖田さんにバレたら、もう僕は切腹するしかない。

でも…こっそり想うぐらいは良いよね…?
バレなければ…想うくらいは…良いよね…?