自分の気持ちに気付いてしまえば、事は結構簡単で。
僕は片想いライフを満喫している。
街中で沖田さんを見付けたら、必ず話しかけたり。
家に近藤さんを迎えに来たら、お茶は勿論時間が有ればご飯を食べて貰ったり。
とにかく、1日1回は出逢えるように頑張った。そして、少しでも僕の良い所を知って貰うように努力した。
その度に笑ってくれる沖田さんに、僕の恋心はとどまる事を知らない。
…でも、この気持ちがバレる訳にはいかないから…ここまでなら普通の友達でも大丈夫、というラインを外れないように細心の注意を払った。
もしも、僕が女の子だったらそんな事考えなくても良かったのに…
普通に恋をして、普通に片想いして、告白して…
たとえ振られたとしても、こんなに隠さなきゃいけないモノにはならなかっただろうに…
あぁ、僕が女の子なら良かったのに…
そんな事ばっかり考えていたからか、僕の胸筋はたるむ一方で、どんどん脂肪が付いて膨れてきてしまった。
こんなんじゃ、まるでおっぱいだよ…男の僕におっぱいだけ有ったって仕方ないのに…
こんなの誰にも見せられない。
特に沖田さんには絶対。
だって、この間程度のたるみでもあんなに嫌そうだったのに、こんなダルダルになっていたらもう口もきいてくれないかもしれないもの。
自己管理がなってねェ、って嫌われてしまうかもしれない。
勿論毎日鍛錬は増やしたけど、全くもって胸筋は改善されない。むしろ更に膨れたかもしれない…
だから僕は万が一にもバレないように、外出時にはきつくサラシを巻いて脂肪を押し込めた。
凄く苦しいけれど…沖田さんに嫌われてしまうよりは断然ましだ。
苦しくて休み休み万事屋の掃除をしていると、いつもならダラダラと寝転んでいる2人がそっと僕を伺い見ている。
「新八〜、今日も具合悪いの?体調悪い?」
「顔青いアルヨ…」
本気で心配してくれているのは分かるけど、こればかりは僕だって譲れない。
絶対…絶対嫌われたくない…
「すみません、心配かけちゃって…でも大丈夫…」
「じゃないネ。」
「そうだな。今日はもう帰れ。」
僕の言葉を遮って、2人が怖い顔をする。
そのまま僕は銀さんのスクーターに乗せられて、家まで連れ帰られてしまった。
やっぱり胸が苦しくて、スクーターの後ろでぼーっと街を眺めていると、いつものように綺麗な栗色を見付けた。
嬉しくて声を掛けようとすると、隣に可愛らしい女の子が見えた…その娘は顔を真っ赤に染めて俯いて…一目で今から告白するんだ、って分かった。
心なしか、沖田さんの鼻の下が伸びてる気もする。
…そうだよね、あんな可愛い女の子に告白されるなんて、嬉しくない訳が無い。僕だったら嬉しい。猛烈に嬉しい。
そんな場面を、僕が邪魔なんか、出来る訳が無い。
だから僕はただ黙って俯いて、それ以上2人を見る事が無いように銀さんの背中に顔を埋めた。
思ったよりショックだったのか、家に帰り着くと僕はそのまま寝込んでしまった。
銀さんと姉上が何か話していたようだけど、今の僕にはどうでも良い事だ。
暫くして、心配した姉上が卵粥(という名の暗黒兵器)を持って僕の部屋にやってきた。
いつもなら根性で食べるけど、今日ばっかりはちょっと無理そうだ。
「新ちゃん、具合大丈夫?」
「姉上…あんまり大丈夫じゃ無いです…」
「そう…」
そっと僕の頭に手を当てた姉上が、とても優しい声で僕に話しかけてくれる。
「ねぇ新ちゃん、父上はもう居ないのよ?アナタはアナタの思うように生きて良いの。誰も咎めないわ。」
「…姉上…?」
姉上は何が言いたいんだろう…?
僕はそんな無理な事なんて…
あ…もしかして姉上…僕が沖田さんの事を…男の人を好きだって気付いてるんだろうか…?
そうだったら…それでも良いんだ、って言ってくれてるんだろうか…?
そっと姉上を仰ぎ見ると、にっこりと優しい笑顔…
「姉上…僕…僕…っ…!」
「大丈夫。アナタの思う通りに生きなさい。どんな新ちゃんでも私達は家族なんだから。」
やっぱり!やっぱりそうなんだ!!
姉上は僕の気持ち分かってるんだ!!
「有難う御座います、姉上っ…!」
起きあがって頭を下げると、又僕の頭を撫でて姉上は仕事に行ってしまった。
気持ちが軽くなった僕は、その場で苦しいサラシを一気にといた。
ここ数日で僕の胸筋の脂肪は又大きくなって、もう掌に納まらないくらいに肥え太ってしまった。
…これならブラジャーとかしたら女の子に見えるんじゃないかな…?
女装してコンタクトにしたら…僕だって分からないんじゃないかな…?
そうしたら…沖田さん、1回ぐらいデートしてくれないかな…
そんなくだらない事を1回考えてしまったら、僕はもう止まれなくなってしまった。
翌日、具合が悪いと万事屋には休みをもらった。
こっそり姉上の着物を借りて、百貨店に下着を買いに行く。
流石にご近所では買えないから…女物の下着なんて…
意を決して下着屋さんに踏み込むと、笑顔のお姉さんにあれよあれよという間にブラジャーを着けられる。
あちこちから肉を持ってこられて、僕は結構なおっぱいを手に入れた…っていうか、何で男だってバレないんだろ…
そのサイズで一番安いのを買って、その場で着けてもらうとなんだか気持ちまで女の子みたいに思えてきた。
その格好で百貨店を歩いていると、化粧品店のお姉さんに掴まって、僕は化粧までされてしまった。
鏡に映る僕の姿はすっかり女の子のモノで…これならきっと沖田さんだって僕だなんて分からない。
告白しても…気持ち悪くなんて思わない…かもしれない。
ドキドキしながら沖田さんを探して街中を歩いていると、やたらと人に見られている気がする。
…僕には女の子に見えてたけど、実は男だってバレバレ…なのかな…?
心配になってショーウィンドウに自分の姿を写してみるけど、ちゃんと女の子…だと思う。
どこかおかしい所が有るのかな…?
ぐるりと回ってみるけど、やっぱりおかしい所は無い…と思いたい…
「あの…君今暇してない?お茶でも奢るけど…」
「へっ…?ぼ…私ですか…?」
「そう、君。さっきから皆可愛いなって見てるんだよ?気付いて無かった?」
「わっ…私がですか!?」
そっ…そんな事言われたの産まれて初めてだ!
いっつもダメガネ駄眼鏡しか言われて無かったからね、僕。
そっか、化粧って凄いんだな…ってか、そんな僕ならやっぱり気付かれないで沖田さんに告白出来るかも…
それに、ナンパされるぐらい可愛いんなら、でっ…デート出来るかも…!
声を掛けてくれた人に丁重にお断りをして、僕は沖田さんを探して街中を走った。
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