そして舞踏会当日。
坂田家は普段着慣れないドレスやらスーツやらを着るのに大騒ぎで朝から死闘が繰り広げられていました。
しかし、シンデレラの頑張りでなんとか綺麗に着飾った3人は、何故かタキシードで正装したたまの引く馬車に乗って出掛けて行きました。
おっそろしい数のタッパーを持って。

やっと一息つけたシンデレラは、台所でお茶を飲みながら大きな溜息を吐きました。
そして、こっそり台所に隠してあった雑誌を開きます。
それは、去年の王子様の誕生日の特集号で、綺麗に笑った王子様がこちらに向かって微笑みかけておりました。

日に透けてはちみつ色に輝く髪を風にそよがせ、深い深い碧の瞳をすこぅし細めて微笑んでいる姿は美しく、その表情は全てを愛しむようで、王子様の優しさが溢れておりました。
その上キリリと引き締まった表情は、聡明さを醸し出していて…

シンデレラはその姿を雑誌で見た瞬間、恋に落ちてしまっていたのでした。

「あーあ…本物の王子様を見てみたかったなぁ…きっと、雑誌より何倍も格好良いんだろうなぁ…どんなお声なんだろう…きっと、この国をより良くする素晴らしいお話を沢山お話して下さるんだろうなぁ…」

シンデレラは王子様をかなり理想化しておりました。
恋は盲目です。

「僕を見てなんてくれないに決まってるけど、遠くからでも本物の王子様を見てみたかったなぁ…お声を聞いてみたかったなぁ…」

そこまで考えると悲しくなってきて、ぽろりと涙が零れます。

「…僕も…舞踏会…行きたかったなぁ…」



「行かせてあげようか?」



今はシンデレラの他には誰も居ない筈の家に、男の声が響きました。
シンデレラが慌てて辺りを見回すと、サングラスをかけてダンボールを腹の辺りに付けた男がニコリと笑って立っていました。

「なっ…ちょっ!貴方誰ですかっ!?」

シンデレラが備え付けの木刀を構えると、胡散臭い男が慌てて両手を振りました。

「イヤイヤイヤ!俺!俺だよ!!銀さんのダチだから!ホラ、前に酔っ払って此処に来た時に新八君にお茶漬けご馳走になった…」

「父上のお友達…ですか…?」

そう言えば以前、ベロンベロンに酔った父と肩を組んで良い機嫌で帰って来た人にそんな事をしたようなしないような記憶が有るような気がしました。
確か名前は…

「…長谷川…さん…?」

「そーそー、あん時は本当嬉しかったよー。だから、今度は俺が新八君の望みを叶えてあげようと思って。」

「ええっ!?良いんですかっ?」

「勿論。まだあん時のお礼して無かったしね。俺は森の魔法使いだから、多少の事なら出来るから。」

ニヤリと笑った魔法使いが、咥えていた煙草の煙をシンデレラに吹きかけます。
するとそこには煌めくティアラが、輝くネックレスが、揺れるイヤリングが、美しいドレスが、そして透き通るガラスの靴が現れました。
シンデレラがくるりと回るとその軌跡は輝いているようで、宵闇に光ります。

「凄く…綺麗…」

シンデレラがにこりと笑うと、その笑顔は花の綻ぶようでした。

「さて、後は馬車だけど…」

美しく着飾ったシンデレラをエスコートして魔法使いが外に出ると、リヤカーを引いた武蔵っぽい人が待っておりました。

「じゃぁ、この娘をお城まで宜しく。」

魔法使いが声を掛けると、武蔵っぽい人がグッと親指を立てました。
リヤカーと武蔵っぽい人にも魔法使いが煙草の煙を吹きかけると、ソレは美しい馬車と2頭の白馬に姿を変えました。

「じゃぁ新八君楽しんできてよ。あ、でもこの魔法は12時までしか効かないから気をつけて。12時には銀さんも帰ってくるって言ってたしね。俺が新八君を舞踏会に行かせた、なんてバレたら俺ヤバいからさー、間に合うように帰って来てよ?」

「はい、分かりました!それじゃ行ってきます!」

森の魔法使いに見送られ、静かに走り出した馬車は一路お城へと向かいました。



一方その頃お城では、今日の主役である王子様が雲隠れしておりました。

「総悟ォォォ!隠れてねぇで出て来い!テメェ親父に恥かかせるつもりかァァァ!?」

黒髪に黒い瞳の兄王子が、瞳孔を広げて怒鳴りちらしていましたが、弟王子は姿を現しません。

「おーい、親父泣いてたぞー?総悟の幸せを考えたのに迷惑だったのか?って今にも死にそうな顔で落ち込んでたぞー?」

兄王子がそう叫ぶと、何処からともなく弟王子が現れました。
兄王子には強気な弟王子でしたが、大好きな父王を出されると滅法弱いのです。

「チッ、死ねよ糞兄貴。テメェが美人な嫁さんもらったからって、俺にまでそこいら辺のメス豚宛がおうとかしてんじゃねェよ。」

「あ?オメェ好みの黒髪眼鏡が来るかもしれねぇじゃねぇか。」

ニヤリと笑う兄王子に、弟王子が珍しく顔を赤らめて叫びます。

「…っなっ…何で俺がんなダセェ女…っ…俺は義姉上みたいな美人が好みでさァ!」

「ふぅーん、じゃぁそういうのが来たら俺の愛人にしちまうかな。」

「あっ…義姉上を不幸にすんのは許しやせん!そんな女が来たらアンタより先に俺のにしまさァ!別に好みじゃありやせんけど!義姉上の為でさァ!」

ドスドスと足を踏み鳴らして、弟王子は舞踏会場に向かいました。
それを見送る兄王子はプルプルと肩を震わせます。
実はこっそり城下に降りている弟王子が、坂田家の次女に恋心を抱いている事を城の皆は知っていました。
兄王子が部下の山崎を使って調べていたのです。

「あのクソ天パの家にも招待状送っといたしな。年の頃も丁度良いし、沢山ご馳走も用意した。ここまでしたら絶対ぇ来るだろ、アイツラなら。後はテメェで上手くやれよ?総悟。」

国をあげた大々的なパーリィですが、実は弟王子の恋を一歩踏み出させようと城の皆が企んだモノだったのです。
最悪に過保護な坂田家を出し抜こうとした周到な計画だったのですが、残念ながらその計画は失敗に終わりました。


しかし、運命は恋する2人に味方するのです…