※ 病み注意。新八ビッチ注意
トライアングル
ここ最近で、僕の生活は劇的に変わってしまった。
まずは、普通に生活していたら絶対になる事が無かったであろう人と友人になった事。
武装警察なんて物騒な所で隊長を務めている美丈夫・沖田さん。
地味で目立たない一般人の僕なんかをどうして気に入ったのかは知らないけれど、毎日のように家となく職場となく買い物先となく遊びに来るようになった。
始めのうちは怖い人だって思っててかなり苦手だったのに、毎日話しているうちに、僕となんら変わらない10代の男の人だって分かってきた。
そうすると見る目が変わって、それまで嫌な事だと思っていた彼の悪戯も、可愛いものだと思えるようになってきて。
そのうちに、その悪戯を旨く躱せるようになってきたら、だんだん楽しくなってきて。
僕らは仲の良い友人になった。
話してみると、意外と境遇も似ている。
今迄話をしなかったのが凄く勿体無く思えるくらいに、沖田さんと話しをするのは楽しかった。
毎日くだらない話をして、たまに甘味屋でお茶をしたり、沖田さんの非番の日に遊びに行ったりもするようになった。
それまでの、家と万事屋を行き来して休みにはお通ちゃん関係の事をする。
ただそれだけだった僕の人生はそれなりに幸せだったけど、今に比べれば味気ないものだ。
そして、もう1つは…
「新八、俺と付き合ってみねぇ?」
そんな銀さんの一言で始まった。
そう言われる前にはフワフワと何か落ち着かなかった気持ちが、その一言で落ち着いた気がした。
そうか、僕は銀さんが好きだったんだ。
何かが違う気もするけど、銀さんと居ると凄く落ち着くし。
好きだと囁かれると、ドキドキした。
それに、僕らは男同士だから付き合うだなんて違和感が有ると思っていたのに、銀さんと居ると凄く自然だった。
それはきっと銀さんが僕に色々気を使ってくれているからだと思う。
そんな事をしてくれるぐらい僕の事を好きで居てくれるんだと思うと、嬉しくて幸せだと思った。
だから、毎日が楽しくて幸せで。
僕はこの世の春を謳歌していた。
そんなある日、僕は沖田さんにこっそり銀さんとの事を打ち明けた。
気持ち悪がられたり引かれたりするんじゃ、と思ったけれど、反面沖田さんなら分かってくれると思ったから。
僕の思った通り、沖田さんは普通に僕らの話を聞いてくれた。
そりゃ、ちょっとは…いや、かなりからかわれたけど、微笑んで僕の頭を撫でて、良かったねィ、と言ってくれた。
でも、その微笑みが…いつもに無く寂しげな微笑みが僕の頭の中に住み着いてしまったのだ。
ただ単に、沖田さんのそんな顔なんて見る事が無いから…他の人が見た事無い顔を見れたって優越感から、忘れられないだけだろうに…
僕の心臓はその微笑みを思い出す度にドキドキと騒ぎだしてしまう。
そう、まるで恋でもしているかのように…
そんな事、有る訳が無い。有ってはいけない。
そんなの銀さんにも沖田さんにも失礼だ。
それに、沖田さんは僕の事をただの友達だと思っているからこそ、銀さんとの話を聞いてくれているんだ。
僕の事なんか…想ってなんてくれる筈が無い…
×××××
最近新八の様子がおかしい。
俺の告白を喜んで受けてくれて、凄く幸せそうで。
偶然手が触れると真っ赤になって、それでも恥ずかしそうに幸せそうに笑う新八。
好きだと思った。
大切だと思った。
俺はまるで本当の家族になれたようで、やっと安心したってぇのに…こんな事になるんなら、告白なんてしなきゃぁ良かった。
一緒に居るようになって、新八の良い所をどんどん知っていって。
神楽と3人ぱぴーとまみーと娘、なんて疑似家族でも、一緒に居られれば幸せだと思った。
だから俺は新八に対する邪な気持ちは墓場まで持って行こうと思ってた。
それなのに、アイツが入ってこようとするから…
新八もアイツを好きになっていたから…
俺は、上手い事自覚の無い新八の気持ちを、俺に誘導した。
俺のモンになるように仕向けた。
誰か他の男のモンになるんなら、俺のになってくれても良くね?
アイツの人生を貰っても良くね?
どーせ家族ごっこやってんだからさぁ、本物の家族になっても良くね?
だから俺は、新八を手に入れた。
フワフワした感じで誤魔化して、浮かんできてた恋心を俺へのモンだと思わせた。
優しくして、包み込んで、気持ち良い事だけを教え込んで。
可哀想なお姫様は、王子様に気付かずに悪い魔法使いと幸せになりました。
めでたしめでたし。
俺とだって結構幸せだろ?
だから、なぁ
何処にも行くなよ?新八…
××××
新八くんに出逢ってから、俺の人生は変わった。
今迄年の近い奴なんて周りに居なかったから、ソイツとつるむのがこんなに楽しいモンだとは思ってもみなかった。
…イヤ、年が近いとかそんなんじゃねェな。
たとえオッサンだったとしても、ガキだったとしても、新八くんとなら俺は全部を楽しく感じるに違いない。
新八くんとなら、どんなモンだって綺麗に感じるに違いない。
薄汚れた俺でも、新八くんがそう言ってくれるなら綺麗だと思えた。
一緒に居られれば、優しくなれた。
新八くんも俺と居て楽しそうにしてくれてたから、俺はそれだけで舞い上がっていた。
もしかしたら、新八くんも俺の事、好きだって想ってくれるんじゃないかって。
なのに、ある日嬉しそうに恥ずかしそうに俺に言った言葉は
『僕、銀さんとお付き合いする事になったんです。』
俺ァ自分の耳を疑った。
お付き合い?
万事屋の旦那と?
マジでか!?
暫く呆然として、我に返った瞬間新八くんをひっ掴んできっすのひとつもぶちかまして奪ってやろうと思った。
なんなら最後までヤっちまって俺のモンにしようと。
でも、幸せそうに笑いながら旦那との初々しい話を俺にしてくる新八くんにそんな事は一切出来なかった。
しようとも思わなかった。
だから、俺は笑ったような表情を張り付けて、黙って話を聞くしかなかった。
そんな酷い事を思っちまった自分を酷く汚い物のように感じた。
…そうだ、俺ァ武装警察真選組一番隊隊長沖田総悟だ。
今迄何人斬ったかなんて、思い出せもしねェ。
その分、何時誰に斬られたって文句も言えねェ人間なんだ。
イヤ、人間なのかも判らねェ。
そんなヤツが、あんな幸せな人間をどうこうするなんざ、最初っからおこがましかったんだ。
旦那だって昔は相当だったと聞くが、今は町の万事屋だ。
年食ってる分、目も行き届く。
俺なんぞがしゃしゃり出て新八くんを不幸にするよりも、よっぽど安心だ。
ずっと幸せなままで居られる。
だから俺は、せめて話が出来れば良いと思った。
そっと想っていられれば良いと思った。
××××
ここ最近忙しいのか、沖田さんと逢う事が全く無くなってしまった。
近藤さんもウチに来ないから、仕事で何か有ったのだろう。
そんな事は分かっているのに、僕は沖田さんに逢いたくて堪らない。
心配で心配で、ジッとしていられないのだ。
元気なのだろうか?
怪我なんかしていないのだろうか?
…無事なんだろうか…?
ほんの少しでも良いから顔が見たい。
無事な姿を確かめたい。そう想うと泣きたくなる。
この想いは一体何なんだろう…
親友だから…?
じゃぁ、タカチンと会えなかった僕はこんな事考えたか?
…まぁ、タカチンは危険な仕事なんかしてないし…比べようも無いか…
考えても考えても、答えは恐ろしい方向に進んでしまう。
そんな事、有ってはならない。絶対に。
むしろ、逢えない方が僕にとっては良い事なのかもしれない。
でも…沖田さんに逢って相談したい事も有るんだ…
どうしても、沖田さんに…
「新八くん居るかィ?」
「おっ…沖っ…!」
突然の声に心臓がドキリと騒ぐ。
慌てて声のした方に振り向くと、仕事上がりなのか結構な勢いでボロボロで、疲れた顔の沖田さんが立っていた。
「久し振りですねィ。」
そう言って、沖田さんが笑った。
いつものように、ふわりと優しく笑っている筈なのに、今日の沖田さんは何故だか色っぽくて…僕のお腹はきゅうっと締まった。
「あ…はい!久し振りです!!お仕事大変だったんですよね…?お疲れ様です。あ!お茶淹れますんで入って下さい!」
あまりにおかしな自分が怖くなって、僕は慌てて台所に駆け込んだ。
お茶とお茶菓子を用意して、少しだけ自分を落ちつけて居間に戻ると、上着を脱いで卓袱台に肘をついた沖田さんがスッと目を上げて僕を見た。
その姿が綺麗過ぎて、僕の心臓は締め付けられる。
ドキドキしすぎて切なくて、お腹もお尻もきゅうっと締め付けられる…
「あの…お茶どうぞ…凄く疲れてるみたいですけど…ウチなんか来てないで屯所に帰って眠ったらどうですか?」
「んー?仕事より新八くんに逢えない方が辛かった…」
「へぇっ!?」
沖田さん…?
それは一体どういう意味なんですかァァァァ!?
「あぁ、新八くんは俺にとって人間らしい生活の最後の砦なんでさァ。アンタの淹れてくれたお茶を飲んでっと、俺ァまだ光の有る所に戻れてる、って気がするんでィ。」
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