夢で逢いましょう



僕以外の全員が2年経ったと言いだしたその日のうちに、僕は知り合いに牢屋に監禁された。
神聖真選組帝国 皇帝(カイザー) ソーゴ・ドS・オキタ3世と名乗る、バカイザーに。



いつも、不真面目ながらも自分の正義の名の元に江戸を護っていて、銀さんじゃないけどイザという時には煌めく人なんだと。
サボってばっかに見えるけど、実は朝早くから夜遅くまで仕事をしているんだと。
そんな事を知って、少しだけ尊敬していたっていうのに…

何だソレ!?皇帝と書いてカイザー?
どんだけ中2!?
江戸征服ってどんな妄想の世界!?
そこに僕を巻き込むな馬鹿!バカイザー!!

ほんと…馬鹿…
僕が待ってたのは、バカイザーなんかじゃなくて、沖田さんだったのに…



そう、あれは1週間前。
いつものようにタイムセール帰りの僕の前に、いつものように沖田さんが現れた。

僕が買い物をして帰る時には、必ず沖田さんが来てくれて荷物を持ってくれていたから、その日もそうなのだろうと嬉しくなって僕は笑った。
たまに、お団子やお茶に誘ってくれるのも嬉しかった。
何より、たわいのない話が出来るのが楽しかった。

でも、その日はちょっと様子が違った。
現れた沖田さんは何故か花束を持っていて、僕の前に立ち塞がったのだ。
そして、その花束を差し出して、信じられないような事を僕に言った。

「志村新八くん!俺ァアンタの事が好きなんでィ!!俺のモノになりやがれ!!!」

そう、言うだけ言って、沖田さんは走り去ってしまった。

「返事は休暇の後で構わねェェェェェェェ」

と、叫びながら。


そう、僕らは次の日から1週間休暇だったのだ。
銀魂世界全体が休暇だったのだ。

だから僕は、ゆっくり過ごす筈だった休暇を、ずっと沖田さんの事を考えて過ごしてしまったのだ。
すぐにでも返事、出来たのに!
そうだったら休暇の間に色々出掛けたり出来たのに!
だから僕は、休暇が終わったらすぐに沖田さんに逢って文句を言ってやろうと思ってた。

それなのに…僕の前に現れたのは、バカイザーで。
その人も、例に漏れずに2年経ったと言ってくる。
その上、僕の事を『坂田将軍の縁者』と言い、尻軽だと罵った。

2年前の僕は、沖田さんに何言ったんだよ!?
断ったから、あんなにグレちゃった?
それとも、今の僕と同じで受け入れた…?だとしたら、何で銀さんと…?

イヤ、銀さんは無い。
それだけは無い。
だって、僕にとっては頼りになるお父さんポジションだもの。

とにかく、ちゃんと沖田さんと話がしたいのに、僕の知っている沖田さんはもう居ない。
バカイザーなんて、沖田さんじゃ無いよ、あんなの!
すっごくカッコ良くなっちゃってさ…話し方も大人みたいになっちゃって…身長だってすっごく伸びてた。
でも、あの人は僕の逢いたかった、返事をしたかった沖田さんじゃ無い。
あんなの…あんなの…


牢屋の中で座り込んで膝を抱えていると、入り口の扉がギィ、と鳴る。
ガチャリガチャリと金属がぶつかる音と共に、赤い色が僕の眼に飛び込んでくる。

…真選組の制服に赤いマント、それに、僕を見下す冷たい碧…
バカイザーが、こんな所に何の用だ…?

「…お偉い皇帝様がこんな所に何の用ですか?僕は逃げ出したりなんかしませんけど?」

ジロリと睨みつけてやると、冷たい眼差しのまま、バカイザーが僕を瞳に納める。

…別に、傷ついてなんかねーし。全然。

「志村新八…坂田将軍は息災にやっているのか…?」

「そんな人知りませんよ。ドラゴンボールに乗っかろうと必死なバカは万事屋に居ましたけど。」

全然沖田さんっぽくない話し方にムカついたんで、いつも通りになんか話してやらない。
何だよ、息災なんてさ。
そんな難しい言葉知ってたのかよ。
沖田さんなんか、敬語もまともに使えないくせに!

「貴様は縁者だろう。夫の健康管理は妻の役目と…」

「誰が妻か!?」

「…じゃぁ、坂田の方が妻…」

「ちげーよ!逆とかそういう否定じゃねーよ!!大体、何時僕がそんな胸糞悪い関係を銀さんと結んだんだよ!?」

「しかし、辞書には『婚族を指す』と…」

「もっと色々調べろ!ソレだけが縁者じゃねぇよ!!アレだろ、親子みたいな関係って事だろ!!ってか誰が言ったんだよそんな事!」

「…山崎。」

僕の渾身の突っ込みを、眉ひとつ動かさずに聞いていたバカイザーが、そう言ってガチャリと僕の牢屋の鍵を開けた。
あー、良かった!やっと分かってくれ…と思ったら自分も牢屋の中に入ってきてキッチリと鍵を掛け直した。