※君の向こう側の沖田視点です
ボクの向こう側
アイツと出逢っちまったのは、ただの偶然。
久し振りに近藤さんが惚れたってェ女を、俺自らがどんな女か確かめようと、ただそう思っただけだった。
だから、意気揚々とその女の家に向かってみたのは俺の気紛れ。
そこにアイツが居たのも、運命のイタズラ。
そして、俺の人生はそこから回り始めた…
その女の弟だっていうヒョロヒョロと頼りねェ眼鏡。
ソイツは弱っちいクセに、近藤さんにデカイ態度で突っ込みなんざいれてて。
近藤さんも、されるがままにヘラヘラ笑ってて。
俺はソレを見て無性にソイツに腹が立った。
眼鏡の野郎、絶対図に乗ってる。
本気の近藤さんを知らねェクセに、弱いとか思ってんじゃねェだろうな?
確かに、姐さんはスゲェ。俺から見ても、かなりの猛者だ。色んな意味で、俺ですら勝てるかどうか判らねェ。
だからと言って、その弟である眼鏡までが強い訳じゃねェ。
それどころか、弱っちいだろ、アイツ。
あの細っこい腕や腰なんざ、すぐにポッキリ折れちまう。
…まぁ、胸板はそこそこ有るみてェだけど、それにしたってまだまだだ。
そんなヤツが、近藤さんにデカイ態度とってるなんて許せねェ。
だからと言って、表立って眼鏡を攻撃なんて出来やしねェ。
俺は、モヤモヤを抱えたまま、出来るだけソイツに近付かないようにしていた。
していたってェのに、運命ってヤツは残酷だ。
近藤さんが、得体の知れねェ銀髪の侍にやられたとソイツを探し出せば、その侍はえらく強くて土方までやられちまった。
俺も、ソイツと闘いたくてウズウズしてたってェのに、近藤さんに止められる程だ。
その侍の隣にも、あの眼鏡が居た。弱っちい眼鏡が。
その後、真選組で花見に行った時に見付けた好敵手。
宇宙最強の傭兵部隊 夜兎の小娘。
この俺と本気で殺りあえる珍しい相手で、ソイツも俺を敵視してくれた。
ソイツの隣にも、あの眼鏡が居た。弱っちい眼鏡が。
それも、恐るべき事に、俺と闘っていた筈の小娘が、眼鏡の一喝でさっさと闘いを止めて戻っちまったんだ。
一体何なんだ、あの眼鏡!
弱いからこその処世術なのか?
それにしては、全員眼鏡を酷く大切にしている。
姐さんは、判る。
でも、銀髪と小娘はそんな必要無ェだろ。
…確かにアイツの飯は旨かった。
花見の時に喰わしてくれた弁当も、近藤さん迎えに行った時の晩飯も。
その上気が利くし、一緒に居るとなんかホッとする…
イヤイヤイヤ!そういうのは女に限る!
男でそんななァ気色悪ィ!
やっぱり俺ァあの眼鏡とは相容れねェ。
だから、今度どっかで逢っても無視だ!無視!!
もうこれ以上関わったら、俺ァおかしくなりそうだ…
そう心に決めてたってェのに、次の日の見廻りで早速眼鏡に逢っちまった。
俺ァ無視したってェのに、眼鏡の方が慣れ慣れしく俺に話しかけてきた。
その上花見の話になって、未成年の飲酒がどーのこーのと俺に説教を始める始末。
今迄積もり積もってた、ってのも有った。
直前に馬鹿に絡まれて機嫌が悪かった、ってのも有った。
その上、煩いと払った手を、眼鏡は生意気にも奪い返した。
だから俺は、自分より全然弱っちい眼鏡に手を上げちまった。
流石にこの制服のまま往来の真ん中でそんな事出来ねェんで、わざわざ路地裏に連れ込んで。
本気で締め上げてやろうと思っちまったんだ。
…あぁ、でも今思えば連れ込んで良かった。
往来であんな事になっちまってたら、俺は自分が許せねぇとこだった。
そう、眼鏡の胸倉を掴んだ時に、俺の手には違和感が有った。
何かが、ぽよん、と当たった。
そのまま持ち上げて胸元が開くと、俺の眼の前には信じらんねェモンが飛び出してきた。
ちっさいけど真っ白な膨らみと、綺麗なピンクの巓…
…え…?
…アレ…?
えーと、コレは…おっぱい…?
確かめようと胸倉を掴んで広げると、やっぱり二つの膨らみがぽよんと揺れていた。
更に確かめる為に、軽く下半身に膝蹴りをかますと、そこにナニは無かった。
…え…?
コイツ…女…?
その割には、さっきからおっぱい出てんのに悲鳴の一つも出しやがらねェ。
俺の頭は混乱して、その隙に眼鏡の攻撃が俺の腹を直撃した。
痛みにしゃがみ込むと、
「これであいこですね。」
と偉そうな眼鏡の声が聞こえてヤツは立ち去った…のに途中で倒れ込んだ。
「…どうした…?」
腹を擦りながら眼鏡の顔を覗き込むと、顔が真っ青だった。
窒息させちまったか…?
正面を向かせて顔を上げさせると、眼鏡がそれでもニコリと笑う。
何でか俺の心臓は、ドキリと鳴った。
「すみません、お恥ずかしい話なんですが僕1ヵ月に1度貧血を起こしまして…今日はその期間中なんです…」
………!
いくら俺が田舎侍だからって、それぐらいの知識は有りやす。
女には、月のもの、ってヤツが有るって事ぐらい。
姉上も、確か酷く具合が悪くなると言ってた筈だ。
「乗りなせェ。恒道館まで送ってやらァ。」
そう言って、遠慮する眼鏡を背中に背負うと、おっそろしく柔らかいモンが背中に当たって気持ちいい。
それに、眼鏡は驚くほど軽かった。
「バッカじゃねェのか?具合悪ィ時は休んで良いんでィ。」
「…はい…すみません…沖田さんって、優しいんですね…」
そう言って、きゅっと隊服を掴まれて、俺の心臓はおかしくなった。
体温も異常に上がって顔に血が上ってくる。
まさかコレァ…鯉…?イヤ、恋…?んな馬鹿な…
早足で恒道館に向かって、着いてすぐに茶を淹れるという眼鏡を寝かしつけて姐さんの元へ向かう。
真実を確かめる為に。
居間に行くと、のんびりと茶を飲む姐さんが居た。
俺の侵入に驚いたようだが、眼鏡を運んできたいきさつを話すと礼を言われ茶を淹れてくれた。
「…姐さん…」
「その呼び方止めて下さらないかしら?私、ゴリラと結婚する気は無いんで。」
余計な事は、どうでも良い。
今俺が知りたいのは、眼鏡の真実だけだから。
「アンタの弟さん、妹さんですかィ?」
「ええ、そうだけど?だったら何?」
やたらとアッサリ認めた姐さんは、隠しているつもりはないと言う。
だったら、って…だったら俺ァどうしたい…?
女だったら…女だったらあんな眼鏡…
可愛いじゃねェか!
俺の両手で包みこんで護ってやりてェ。
毎日アイツの作った飯が喰いてェ。
アイツの笑顔が見てェ。
アイツと居たら、絶対ェ幸せだ。
「それじゃぁ俺が護りやす。俺が嫁に貰って、一生かけて護ってやりてェ。」
俺が真面目に言うと、姐さんがニコリと笑う。
「へぇ、出来るものならやって御覧なさいな。でも、新ちゃんは自分の事本気で男だと思ってるわよ?そんな新ちゃんを貴方程度が女の子に戻せるかしら?出来たら新ちゃんはお嫁にあげる。」
「…本気で…男…?」
おっぱいも有るのに?月のものも有るのに?
「そう。あんな身体なのに不思議よねぇ。」
頬に手を当てて首を傾げる姐さんは、完璧に面白がってる。
でも、こんな所で引き下がらねェ。
「俺に任せて下せェ!眼鏡くんを女に戻してやらァ!そん時は本当に反対しねェで下せェよ?」
「ええ、約束するわ。」
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