それでは又、2年後に。



たった1週の休載だったハズなのに、休み明けで気分も新たに僕が出勤した万事屋は、銀さんがヤムチャになり、神楽ちゃんが神楽さんになり、定春がオッサンになっていた。
犬耳のオッサンはイボがどうのこうの言っていたけど、そんな事信じられるか!アホか!?
とにかくソイツらの言う事には、僕が1週間だと思っている間に、2年の月日が経っているのだそうだ。
そんな馬鹿な事が有る訳が無い。
どうせ皆で僕をからかってるんだろ?
銀さんはカツラを被ってるんだろうし、定春は銀さんの知り合いかなんかだろ?
神楽さんは………背も伸びてるんだよな…
イヤ、きっと坂本さんがおかしな薬かなんか持ち込んで、一時的に大きくなってるだけに違いない!
そんなの騙されないからな!

…でも、馬鹿な大人を叱ってもらおうと駆け込んだスナックお登勢では、お登勢さんもキャサリンも、たまさんまでもがイボ春になっていた。
顔が皆オッサンだなんて!そんな馬鹿な!!
その上、3人までもが休載して2年経っているという。
そんな…銀さんと神楽ちゃんならまだしも、お登勢さん達までそんな事言って僕をからかう訳が無い!
って事は…本当に2年経ってる…?
僕だけ取り残されて…2年も経ってる…?

そんな…そんなの…唯でさえ僕は皆より何歩も遅れてるって言うのに…
こんなに離されたら追いつくなんて出来ない…

混乱のまま僕は叫んで、走って家に逃げ込んだ。
部屋に籠っていると、姉上が僕に話しかけてくる。
…あぁ、姉上は2年なんて言わない!
良かった!やっぱり僕は1人じゃなかった!!

感動と喜びで、部屋を出て姉上と抱きあうと、姉上の隣に大きな何か…


やっぱり姉上も2年経っていて…いつの間にかストーカーゴリラが夫の座を射止めていた…
そんな馬鹿な!!
2年の間に何が有ったんだよ!?
一体何が有ったらあの2人がラブラブバカップルになるんだよ!?

その上邪魔だったのか、僕は真選組に押し付けられたらしく、隊長服を着せられて送り出され、暫く家には帰ってこれないらしい。
3人で、帰りを待っているんだそうだ…3人…
姉上のビッチィィィィィィー!!!



僕は又走った。
何処までも何処までも走った。
そして気が付くと岸壁で叫んでた。
誰も彼もが僕を置いて遠くへ行ってしまった。
銀さんも神楽ちゃんも定春もお登勢さんもキャサリンさんもたまさんも姉上さえも。
僕はどうしたら良い?僕は何処に行けば良い?


…何処にも…行く場所は無い…僕は世界にひとりぼっちだ…


ガックリと項垂れていると、そっと僕の手に触れる誰か。
顔を上げたソコには、とても可愛い女の子…え…?まさか…この声は…九兵衛さん!?
僕の気持ちが分かると慰めてくれる九兵衛さんは、ホントに可愛くなってて…2年って凄いかもしれない…
その上、なんだか僕との恋愛フラグ…立った…?
触る練習って…触る練習って!!
そっと、股間に導かれるまま僕がグルグルしていると、触れた先には触り慣れたナニか…
九兵衛さんは、男の子になる突貫工事済みだった………

嘘だろォォォォォォォォォォォォォォォ!?
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
でもあぁそうか!だからかまっこ倶楽部!ってそんなんどうでも良いわ!!

その後も、九兵衛さんとの被りを気にしてとったどぉぉぉぉぉな桂さんがやってきて、僕はもう逆に冷静になった。
月日の流れって怖いな、ぐらいの感覚になってきた。
だって…普通性別まで変わるかよ…
イヤ、きっと変わる人は或る日突然変わるんだろうけど。
あぁ、そりゃぁ2年も経ったら2人ぐらい変わるさ…


そこまで皆変わってるって言うのに、何で僕だけ変わって無いんだろう…?
僕は何かおかしな事したかな…?

思考の海に沈んでいた僕を、クラクションが現実に引き戻す。

「おー、いたいた…」

真選組のパトカーから理不尽なつぶやきが聞こえて、バズーカが僕に向けられる。
沖田さん!?
もしかして沖田さんも2年前のまま…?

「沖田さん!」

僕の呼びかけは聞こえなかったのか無視されたのか。
バズーカは発射され、僕の横で弾けた。

「だーれが沖田だ。」

よたよたと近付く僕に更に怒涛の現実が押し寄せ、僕はパトカーに詰め込まれて真選組屯所まで連行された。
バズーカで僕を撃ってきたのは、金髪で咥え煙草の鬼の副長ジミー山崎。
運転手は、爽やかに笑う地位までカロリーゼロになった仏のパシリトシさん…土方さんだった…

2年こえーよ!
どこまで変わってんだよ皆!!
有り得ないだろ!コレは有り得ないだろ!!

…待てよ?
近藤さんがウチに婿に入って土方さんがパシリになって山崎さんが副長…
と…言う事は…まさか…今はあの男が局長…?
皆がこれだけ変わってるんだから、きっと劇的な変化を遂げているに違いない。
みっ…見てみたいけど見るのが怖い。
僕の頭の中は混乱して、心臓はドキドキと騒がしい。

ゆっくりとパトカーが門の中に入って行く。
…え…?門の中って…屯所ってそんなに広…!?

僕の目の前に広がるのは、広大にそびえる西洋風のお城で…
2人に連れて行かれた所は、本当にお城の中の大広間だった…

「…えっと…あの…ココは…?」

「真選組屯所に決まってんだろが、あん?眼鏡が。」

…眼鏡馬鹿にすんなよあんぱん中毒め…
僕が山崎さんを睨んでいると、カツカツと靴音がして何者かが舞台のような一段高い場所に現れ、玉座にドスンと座る。
…え…?誰…?あそこに座ってる赤いマントの男は…

「あぁ、無事に連れて来たか。我は御前を待っていた…志村新八。」

僕を…待っていた…?
勝手に2年経って…皆が僕を置いて行ったのに…この人は…
ふっと肩に入っていた力が抜けた気がした。
そうしたら、僕の身体はおかしくなった。

ドキドキと騒ぎまくる心臓は何なんだ!?
体中の血が沸騰したみたいに熱くなってるのは何でだ!?
じっと僕を見つめる碧い目に…吸い込まれそうなのは、何でなんだ…?

「真選組皇帝(カイザー) ソウゴ・ドS・オキタ3世閣下に敬礼ィィィ!!」

カ・イ・ザー!カ・イ・ザー!と野太い声の皇帝コールが響く中、僕の脳味噌は遠い所まで飛んで行ってしまった。
何してんだ?アノ人………バカ…?

確かに2年経っているようで、顔はシャープさを増してイケメン度はアップしてると思う。
スッと長い脚を組んで座る姿も様になってる。
物腰も落ち着いて、大人びている。
憂いを秘めた瞳は深みを増して、見つめられるとそのまま吸い込まれてしまいそうだ。

…アレ…?何だろう、僕…おかしい…
心臓が暴走を始めて、顔に血が上ってきて…腰が…抜ける…
ぺたりと床に座り込んでしまった僕を、両側から力強い手が引き上げる。

「何やってんだ眼鏡!カイザー見て腰抜かしたのか?惚れたのか?あん?」

「新八君大丈夫?カイザーカッコいいもんね。」

「なっ…何言ってんですかっ!?だってアレ沖田さんですよね!?有り得ませんから!!」

なんとか自分の足で立って2人に文句を言うと、カイザーが『静粛に諸君』と言って演説を始める。
せっ…せいしゅく!?沖田さんが静粛!?そんな言葉知ってたの!?
あんまりびっくりしてちゃんと話を聞いてると、その演説は碌な事を言って無くて突っ込む所しか無かった。
なのに、その少し低くなった声に僕は又心臓を暴れさせてしまう…
え…?何…?
まさか僕…カイザーにときめいてる…?

イヤイヤイヤイヤ!僕は男だからね!
カイザーも男だからね!
そんな、ときめくとか惚れるとか…無いから!絶対無いから!!