なんとかその変な気持ちを吹き飛ばそうと、僕はひたすらカイザーの演説に突っ込みを入れた。
でも、カイザーは僕の突っ込みなんか耳にも入って無いように、殆どテロリストみたいな演説を続けていく。
その姿は自信に満ち溢れていて、格好良くてどうしたら良いか分からない…って何言ってんだ僕ぅぅぅぅぅぅぅ!?

その内カイザーは、かぶき町に攻め入る為に『猛将坂田将軍』の『縁者』である僕を人質に取ったと言った。


…そうだよね…やっぱり僕はそんなモンだよね…
僕を待ってた、なんて…そういう意味だよね…

周りを刀に囲まれて、僕は逃げる事等出来なかった。
そんな事されなくたって、僕には逃げる場所なんかもう何処にも無いけれど。


全てを諦めて顔を上げた僕の目に飛び込んできたのは、ジッと僕を見つめるカイザーの碧い瞳。
あまりに綺麗で、僕はうっとりと見つめ返してしまった。

「沖田さん、アンタ万事屋潰すつもりですか?」

僕の問いかけに、カイザーが立ち上がる。
あ…身長伸びてる…

「我が野望を阻むものは、喩え誰であろうと、喩えどんな手を使おうと排除するのみ。」

その表面には僕の姿が映っているけど、僕を見て居ない綺麗な瞳。
ソレが酷く悲しいなんて…こんなに胸が痛いなんて、おかしいよ、僕…

「バカイザー!」

「…オイ、バカイザーは無いだろう。ちゃんとバカカイザーと…」

あ…やっと『僕と』話をしてくれた。
僕を見てくれた。
その瞳は少しだけ驚いたように広げられ、すぐに優しく細められた…何…?

「本来なら処刑してやる所だが、人質として使うまでは活かしてやる。」

そんな恐ろしい事を言ってニヤリと笑ったのに、僕の心臓はドキドキと高鳴った。
笑った顔が…格好良すぎる…どうしよう…どうしよう…!
僕が心臓をときめかせている間にも、僕が放った『バカイザー』という呼び方がプチ流行していく。
カイザー実は人望無い…?

「オイ、人質以外処刑しろ。」

「え…?」

山崎さんとトシさんはカイザーの部下…なのに…
僕が驚いてカイザーを見ると、僕を安心させるように、カイザーがふわり、と笑った…うわわわわっ!?

「御前は処刑などしない。安心しろ。」

一気に顔に血が上ってきて僕の顔は赤くなっているんだろうけど、その場から動く事が出来ない。
カイザーの瞳に掴まったみたいに、指先ひとつ動かない。
そんな僕の前に、不思議そうに首を傾げたカイザーが降りてくる。
思ったより背の高いその人を見上げると、その人は僕の頬に触れて来た。

「どうした?俺に惚れたか?」

ニヤリと顔を歪めたその姿まで、格好良すぎて僕は返事なんか出来やしない。
ただただポーっとその人を見上げていると、ふわりと良い香りが僕を包む。
なんだか温かい…って!僕今カイザーに抱きしめられてるんですけど!!
頭は逃れようと思うのに、全身が熱くて熱くてどうにも出来ない。
又腰が抜けそうになって、辛うじて動かせた腕でぎゅうっとカイザーに掴まると、酷く楽しそうにクスクスと笑うカイザーの声が耳元で聞こえた。

「こんなに小さくて可愛かったのか?新八くんは。何故我を抱き返す?」

カイザーが笑う度に、耳に息がかかる。
それがくすぐったくて、おかしな気持ちになって首をすくめると、ちゅう、と音がして頬に柔らかいモノが当たる…
ま…さか…キス…された…!?

「すぐに忍んで御前の元に行くから待っていろ。」

僕にだけ聞こえるような声で囁いて、カイザーが僕から離れる。
なっ…この人は何を言って…!?

「人質を連れて行け。」

そう山崎さんとトシさんに命令すると、バサリとマントを翻してカイザーはどこかへ行ってしまった。



その後僕は、山崎さんとトシさんに連れられて長い長い廊下を歩かされた。
どこに行くんだろう?やっぱり牢屋に入れられてしまうんだろうか…?
それとも、カイザーの所…とか…?
万事屋を潰す、って言ってたし…銀さんの弱点とか尋問されるのかな…?
それとも…

色々考え過ぎて泣きそうになってきた頃、「あん!」と言う声と何かが倒れる音がした。
そしていきなり手錠が外されて、後ろでカチリとライターの音がする。

「べそかいてんじゃねーや、情けねぇ。」

その声は、カロリーゼロなトシさんではなく、鬼の副長と言われていた2年前の土方さんで、恐ろしい瞳孔の開いた眼差しに戻っていた。

「俺も二年後とやらに取り残された側の人間だ。取り敢えずココ出んぞ。」

突然の事に着いていけない僕は、土方さんに手を引かれるまま廊下を走った。
あ…でも、カイザーが…

「土方さん、僕は…」

「あ?総悟とエロい事するから行けません、ってか?」

フン、と笑われて僕の顔に血が上る。
そうだよ、何おかしな事考えてたんだよ僕!

「しませんよ!そんな事。」

我に返った僕は、先に立って屯所を後にした。