知り合いに会いませんように…知り合いに会いませんように…
僕が心の中で呪文のように唱えていると、後ろから声がかかる。
「あれ?新八君?」
びくうっ!!
こっ…この声は…
「山崎さん…?」
にこにこと人の良さそうな笑顔で、隊服姿の山崎さんが大量のたこ焼きとお好み焼きを持って立っていた。
あー…知り合いに会っちゃった…
「新八君はお祭り見物?うわ――、可愛いね!今日は特に!!」
「あはは…冗談は止めて下さいよ…」
僕が悲しい笑顔で言うと、真剣な顔で山崎さんが近寄ってくる。
「イヤ!冗談で言ってるんじゃないって!浴衣も似合ってるし、ピンも可愛いよ?」
…真剣な顔の分、より一層悪いよ…
「あー…有難う御座います…山崎さんは今日は…サボリですか?」
山崎さんは大量の買い物を腕から下げて、お好み焼きをもぐもぐやっていた。口にめっちゃ青海苔ついてますけど…
「や、今日もお祭りの警備で…今はお使いで…って、新八君っ!?」
僕はティッシュを出して、口の周りを拭いてあげている。
「…あ、すみません。凄く青海苔付いてたんで…」
「いや!!怒ってなくて!!なっ…なんかコレって、恋…」
「山崎ィィィィィィィィィィ!テメーたこ焼き買いに何時間かかってやがんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
土方さんの剣圧で、山崎さんが吹っ飛んでいく。うわっ、土方さん…
「こんばんわ土方さん。お仕事ご苦労様です。」
「しっ…新八…?」
土方さんが固まる。
そうだよなぁー、普通こうだよなぁー…
「あ、すみませんこんな格好で…やっぱり気持ち悪いですよね…」
僕があはは、と笑って誤魔化す。
やっぱり土方さんは常識人…ってアレ?なんか真っ赤なんですけど…
「どっ…どうしたんですか…?顔赤いですよ?どこか具合でも…」
「いっ…イヤっ…きょ…今日は、やけにかわっ…可愛いな…?」
「そうですか?気持ち悪くない、って言うんなら良いんですけど。」
まぁ、この人達は大人だからな。僕を傷付けないように気を使ってこんな事言ってくれるんだろうな…
「気を使ってもらっちゃってすみません。大丈夫ですよ?僕が着たくて着てる訳じゃないですから。自分でも分かってるんですけどね?」
「そっ…そんな事はねぇ!俺はちゃんと普通にっ!!」
「土方君、何新八君を苛めてるんですか?」
「トシー、子供に向かって怒鳴っちゃダメだぞー?」
あ………
「こんばんわ、伊東さん、近藤さん。皆さんでお仕事ですか?」
「こんばんわ、祭の警備でね。それと一緒に、僕らはうかれた隊士の見張りもしているのさ。」
伊東さんがくいっ、とメガネを上げつつ言う。
…大変だなぁ……
「お疲れ様です。」
「ははっ、隊長として当然の事ですよ。それよりも新八君、今日は随分と可愛らしい格好だね。とても良く似合っているよ?このまま連れ去りたいくらいだ。」
伊東さんが僕の手を取って、手の甲にちゅっと口付ける。
「なっ…!?何を!?」
「やめるネ!このエロメガネっ!!!」
露店でわたあめを買ってもらっていた神楽ちゃんが突進してくる。
うわわわわ…伊東さん逃げてー!!
「おー、チャイナさんも今日は浴衣か。可愛いぞ?2人とも。先生は外国にも行っていたからなぁ!ソレは向こうでは挨拶なんだそうだぞ?」
近藤さんが突進してきて伊東さんに掴みかかろうとしていた神楽ちゃんとの間に入って、僕達2人の頭を撫でる。
…お父さんみたい…
神楽ちゃんも顔を赤くして、大人しく撫でられてる。きっと同じ事考えてるんだろうなぁ…
「ところで、お妙さんは…」
「姐御ならあっちアル!ワタシ案内するヨ!!」
神楽ちゃんが張り切って近藤さんの腕を引っ張っていく。
お父さんの事思い出したのかな?でも坊主さんとはタイプ違うよな…
姉上の近くに行くと、仲良さそうな姉上と銀さんがいて…あーあ、近藤さんがキレた…
「近藤さんもアレがなければ完璧なんですがねぇ…そう思いませんか?新八君。」
僕の背後に立っていた伊東さんが、肩に手を置く。なんか…近いんですけどっ…!?
「新八君…これから2人っきりで一緒に花火を見に行かないかい?」
「いっ…伊東さん…?でも僕…」
「万事屋の皆は忙しそうだよ?沖田君も何処かへ行ってしまっているようだが…?」
おっ…沖田さん!?伊東さん何を知って…!?
伊東さんが後ろから僕を抱き締めてくる。えぇっ!?ちょっと…
「てめっ、伊東ォー!新八に何やってんだ!?」
「土方君、祭の最中に抜刀とはいただけないな。」
刀を抜いた土方さんが伊東さんに斬りかかり、伊東さんも抜刀して受ける。
それを、いつの間にか戻ってきていた山崎さんが止めようと、オロオロと声をかけている。
はぁ…大変だな、真選組は…
神楽ちゃんに振り向いて花火大会の会場に行こうと言おうとした途端、後ろから来た人に小脇に抱えられて何処かへ連れ去られる。
「やっ…ちょっ…何するんですかっ!?たっ…助けてっ!神楽ちゃん!銀さん!姉上ぇ!近藤さん!土方さん!伊東さん!山崎さん!…沖田さんっー!!」
ありとあらゆる人に声をかけたけど、僕を抱えてる人は物凄く足が速くて、皆気付いてくれたけど、みるみる小さくなっていく…
僕は…何処へ連れていかれるんだろう………
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