2人のり(大江戸編)


ちりんちりんちりん

たまのお休み、僕が何するでもなく、ういんどしょっぴんぐなんてしながら散歩していた町の中、突然後ろから自転車のベルが鳴る。
振り向いて自転車を避けようとすると、僕の目に飛び込んできたのは真っ黒な制服と茶色の頭…何処から持ってきたのか、自転車を押している。

「…沖田さん……」

「新八ィ!でーとしやしょうぜ?でーと!!」

「アンタ又サボリですかっ!?」

「違いまさぁ!キューケーでさぁ、キューケー」

「…又、そんな言い訳して…知りませんよ?土方さんに怒られても。」

僕がそう言って、ハァ、と溜息をつくと、沖田さんの頬がプゥ、とふくれる。

「マヨラーなんて知るかィ。なんでぃ、折角ザキにチャリ借りたから乗せてやろうと思ったのに。新八は冷たいでさぁ…」

…ぷぷっ…子供か、アンタは…

「しょうがないですねー、じゃぁ付き合ってあげますよ。後ろに乗れば良いんですか?」

僕が笑いながら言うと、ぱぁっと笑顔になる。

「おう!しっかり掴まってろぃ!!」

僕が後ろに乗って沖田さんのお腹に手を回すと、それを確認して、グイ、とこぎだす。
スピードがのってくると、気持ち良い風が頬をなでる。
ぐんぐんと景色が変わっていって、いつもの風景が、普段とは違う風に見えてくる。

「沖田さん!自転車って面白いですねっ!!」

「そーですかぃ?そりゃぁ良かった。」

ちょっと屈んで沖田さんの顔を覗くと、にこにこ笑ってた。
えへへっ…僕も楽しくなってきたよっ!
ぐんぐんと動いてる背中にこてん、と頬を付けると、筋肉が動いてるのが分る。
…なんだか…スゴク近くなったみたい…嬉しい…
僕がぎゅーと強く抱きつくと、沖田さんがびくっ、とする。

「どっ…どうしたィ?スピード早すぎて怖ぇかぃ?」

ちょっとだけ顔を赤くした沖田さんが、平気な振りして僕に訊いてくる。
後ろに居たって横顔ぐらいは見えるのに…

「いいえ?ちょっと沖田さんにくっつきたくなっただけです。」

「そうですかぃ…?」

耳まで真っ赤になっちゃったよ、コノ人…可愛い…
僕がくすくす笑っていると、沖田さんが、ちぇっ、とか言っている。

「お、新八ィ!着きやしたぜ!!ここの景色、見せたかったんでさぁ。しっかり掴まってなせぇ!!」

「うわぁっ…!!」

自転車が、ぐん、とスピードを上げる。
いつの間にか下り坂に来ていたらしく、僕の目の前に一面の青空が広がる。
もぅ空しか見えないぐらいに真っ青だ。
ぐんぐんとスピードを上げていく自転車は、まるで空を飛んでいるみたいで…

「すごい!すごいっ!!こんな景色、見た事無いですよっ!」

僕が興奮しながら沖田さんを見ると、優しい瞳でちらっと僕を見て笑う。

「喜んでもらえて良かったでさぁ。」

キレイな青空をバックに綺麗な笑顔…
僕の顔が一気に赤くなったのが自分でも分かる。
それを誤魔化す為に、青空に目を戻す。

「…有難うございます、沖田さん…」

…たまにこういうコトしてくれるから、コノ人は…これ以上好きになるなんて無いと思ってたけど、まだまだ僕は甘いのかもしれません…
好き、って気持ちはこの青空よりも広がるモノなのかもしれません…

END