Gの誘惑



その日僕がいつものように万事屋に出勤すると、銀さんと神楽ちゃんがゴキブリが出たと騒いでた。
普段はメッチャ強い2人なのに、ゴキブリは苦手なのか…なんだか可愛い!
こんな時こそ、僕の出番だよね!僕の有難味、思い知れ!!

「江戸で生きてくって事はねェ、ゴキブリと同じ部活に入るよーなもんですよ。見といて下さいよ、江戸っ子の心意気。」

僕が殺虫剤片手に意気揚々と前に進み出ると、後ろで銀さんが
「オイ、志村うしろ。」
とか言う。
ドリフかよっ!そう突っ込もうと振り返ると、僕の身長ぐらい有るゴキブリが、今まさに僕に襲いかかろうとしていた…


「ギャ――――――――っ!?」


なっ…何!?何!?あの大きさっ!!

大慌てで隣の部屋に逃げ込むと、流石にそこまでゴキブリは追って来なかった。
なっ…何であんな大きさのゴキブリ…?

銀さんによると、酢昆布を食べて体の中で化学反応を起こしてアノ大きさになったんじゃないかって…
本当かな…?酢昆布って、そんな危険な食べ物だったのか…?
分かんないけど、もし万事屋であんな危険なモノを造ったのがバレたらご近所中から袋叩きだよね…
今度こそ本当に真選組のお世話になっちゃうよ…そんなの…ヤダ…!

「たとえ無駄だとしても…この殺虫剤で…」

僕が持ってたはずの殺虫剤を掲げようとすると…

あれ…?

あ、さっきの騒ぎで向こうに落としてきちゃった…
僕がそう言うと、銀さんと神楽ちゃんが冷めた目で僕を見る。

「お前カンベンしろよ〜、お前はホント新八だな。」

「だからお前はいつまでたっても新八なんだヨ。」

「なんだァァ!!新八という存在そのものを全否定か!!許さん!許さんぞ!」

僕が怒っても2人はどこ吹く風で…

畜生みてろ!僕が責任取ってやるよっ!
僕は意を決して殺虫剤を取りに行く事にする。

そぉっとふすまを開けて…

中の気配を窺って…

ゴロゴロと転がって部屋の中に入って、殺虫剤を手に取る。

…ヤツは居ない…か…

周りの気配を探ったけど、生き物は居ないみたいだ…

…ふぅ…

僕がふと緊張を解くと、、目の前に黒い影が現れる。

「ぎっ…ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

大きく口を開いたゴキブリが僕を襲い、今まさに飲み込まれそうになった瞬時、ぐん、と引かれて大きく後ろへ下がる。
あっ!眼鏡持っていかれたっ!!
手を伸ばそうとするけど、そのまま引っ張られて誰かにドスンとぶつかる。
背中が暖かくなって、後ろから腕が回される…
って…抱きしめられてる…?

「…何でィ、あれァ…」

ピシャン

僕の目の前で玄関の戸が閉まる。
この声は…

「沖田さん!?」

「歌舞伎町に巨大ゴキブリが出たって聞いたんで様子を見に来てみたら…やっぱり襲われてるたァ…期待をハズさねェなァ、オメェは…」

呆れたように、はぁ、と溜息をつかれるけどそんな事気にしない!助かった!!

「あのっ…有難う御座いますっ!」

「良いって事よ。俺の新八くんがゴキブリなんぞに喰われたら堪んねぇや。」

「や、沖田さんのじゃ無いし…」

ハッ!しまった!!
つい、いつものクセで憎まれ口叩いちゃったよっ…
もしかして告白の絶好のチャンスだったんじゃ無い!?今っ!!
あぁっ、僕のばかっ…

僕が俯いて後悔していると、じっと僕を見ていた沖田さんがニヤリと笑う。

「そんなに怖かったのかィ?」

そう言って僕をぐるっと回して、今度は正面からぎゅっと僕を抱きしめる。

なっ…!

一瞬暴れてその腕の中から出ようとしたけど、コレはチャンスなんだよっ!
頑張ってぎゅうっと抱き返すと、ビクリとした沖田さんが優しく抱き返してくれて、ぽんぽん、と僕の頭を撫でてくれる。

「よーしよし、怖くねェ怖くねェ…」

まるで子供をあやすみたいな態度にムッとしたけど…いつもに無い優しい手つきが、何だか気持ち良い…
もう少しだけこのまま…

「新八1人でアイツとやり合ってたのかィ?旦那とチャイナはどうしたんでィ。」

「…銀さんと神楽ちゃんは…って!アノ2人助けに行かないとっ!」

僕がガバッと沖田さんの腕の中から飛び出して、殺虫剤を片手にもう1回ゴキブリに挑もうと玄関の扉に手をかけると、沖田さんが僕の腕を掴む。

「アイツにソレじゃぁ効かねェだろィ…」

僕の手の中の殺虫剤を指さして、又はぁ、と溜息をつく。
何だよっ…

「でもっ!2人が待ってるんです!神楽ちゃん、ゴキブリを酷く怖がってて…」

「へぇ、あのチャイナが?可愛いトコあんだねェ…」

意外そうな顔で沖田さんが言う。

…神楽ちゃんの事、可愛い、って言った…

「えぇ、可愛いんです!早く助けてあげないと!」

僕が悲しい気持ちとムッとする気持ちと、色々嫌な気持ちになりながら言うと、沖田さんが真面目な顔になる。

「対天人用の兵器が有りまさァ。着いてきな。」

さっさと歩いて行ってしまう沖田さんを、僕は小走りで追いかけた。