病院に着いて、一緒に籠を降りた沖田さんが、一歩を踏み出せなくて立ちすくむ僕の背中をばしん、と叩く。

「とりあえず走れィ。俺ァ帰りまさァ…」

「あ…っ…沖田さん、デート…ごめんなさい…」

「良いって事よ、今はんな時じゃねェよ。」

「有難う御座いますっ!」

僕が病院の中に走り出すと、沖田さんは外の方に歩いて行ってしまう。
あぁ…本当に…そんな優しいなんて…ズルイよ…


僕が走って手術室の前に行くと、皆、不安そうな顔だけれど大人しく椅子に座って銀さんを待っていた。
なんだ、皆案外落ち着いてる…僕だけあんな取り乱しちゃって恥ずかしい…

でも、この様子だと大丈夫なのかな…?銀さん…そうだよね、銀さんだもんね!

皆が大丈夫だって言ってたら、銀さんを轢いた男がヘラヘラ笑いながら僕達に近付いてきた…

ちくしょ…

僕が文句を言ってやろうとしたら、神楽ちゃんとお登勢さんがソイツをボコった。凄い勢いで…
…これ…銀さん大丈夫じゃないんじゃないの…?
やっぱり不安になってきたんだけどォォォ!

廊下で僕らがあんまり騒がしかったからか、ベテランっぽい看護師さんが僕らを怒鳴りつけにやってきた。でもその手術室のドアが開いた隙に皆がソコに入ろうとして、僕らは遂には手術中のお医者さんにまで怒られた。
大人しくしないとつまみ出されそうになったんで、それからは僕らは大人しく手術が終わるのを待った。
でも、そうでもしてないと皆不安で…押しつぶされそうなんだよ…

手術が終わってすぐに銀さんは病室に移されて、僕らも静かにすると言う約束で、病室に入れてもらえた。
手術した割には銀さん元気そうだ…でも、僕が話しかけると、何かおかしい…


「君達は…誰だ…?」


…銀さんは、僕ら皆の記憶を無くしていた…
全部、忘れていた………

数日後、銀さんは退院出来る事になった。
体の傷はもうすっかり良くなったんで、後は自宅療養をして気長に治療していこう、と言う事になったらしい…

皆で病院に迎えに行くと、銀さんはいつもと違って着物をきっちり着込んでいて…その姿は、まるで別人のようで…僕らは違和感を拭えなかった。

万事屋に帰る途中、ゆっくり歩きながら思い出の場所を巡る。
何箇所か廻る中、僕と銀さんが初めて会ったファミレスの前も通った。

「銀さん、僕と銀さんはココで初めて出会ったんですよ?天人と店長にボコられそうになった所を、銀さんが助けてくれたんです!」

「…そんなベタな出逢いだったんですか…?」

僕があはは、と笑って言うと、銀さんがしみじみと言う。

「ベタって…まぁ、そうですね。」

「そんな出逢いで…僕達は一緒に暮らし始めたんですか?」

銀さんが頬を染めながら言う。

何で?

「イエ、一緒には暮らしてませんし。まぁ、僕が万事屋に押し掛けて、半ば無理矢理バイトとして雇ってもらったんですけどね?あぁ、それにたまに泊まったりもしてますけど…」

「えっ!?とっ…泊まって…!?」

「はい、銀さんが飲みに出かけて遅い時とか。神楽ちゃんが1人になると心配じゃないですか。」

「…あ…そういう事で…」

銀さんが緩く笑いながら、ガックリと肩を落とす。

何だろ…?

「他に何が有るって言うんですか?」

「あ、イヤ、うん…何でも無いです…」

僕がそう聞くと、銀さんが又頬を染めて目を逸らす。

ホントに何だろ…?

万事屋に帰り着いて看板とか建物を見ても、銀さんは何も思い出してはくれなかった。
それを見たお登勢さんが、まだ少し江戸の町を回ってみろと言ってくれた。
銀さんは、あちこちに根を張ってるから、どこかで何か思い出すんじゃないかって。

折角なので、病院と反対側を今度は3人でぶらぶらと回っていると、桂さんとエリザベスが引き込みのアルバイトをしていた。
昔馴染みの桂さんと話でもしたら、何か思い出すかと思って話しかけてみると、もっと訳分からなくなりそうになった…
なんとか桂さんから離れようとしていると、見廻りをしていた土方さんと沖田さんに桂さんが見付かって…バズーカを撃ち込まれた。
桂さんを追って走って行ってしまう沖田さんの背中を見送ってから銀さんを振り返ると、銀さんは壁にめり込んでて…
僕らが慌てて呼びかけると、お約束のボケをかました。

「君達は…誰だ?」