酒は飲んでも呑まれるな



神楽ちゃんが坊主さんと一緒に行ってしまった夜、何もする気が起こらない僕らは、お登勢さんのお店で晩ご飯を頂いた。
そこには長谷川さんも居て、皆でしんみりしていると、お登勢さんと、キャサリンさんまでもが、さりげなく僕らを慰めてくれた。

いつもは鬱陶しいだけなのに、ちょっとした優しさが心に沁みるよ…有り難いもんだなぁ…

銀さんもさっきからトイレに入ったっきり出てこない。
…きっと…人知れずトイレで悲しみに打ちひしがれて…

「やべーよオイ、やっぱあきらかに腫れてるみたいなんだけど、大事なとこが」


…なかった…


「え〜汚い手でさわったんじゃないスかアンタ。」

僕がいつものように突っ込むと、なんかウダウダ言ってお登勢さんにたしなめられてる。
ミミズにおしっこって…大人なんだから…って…えぇっ!?かけたの!?えいりあんに!?

…えいりあんにおしっこなんかかけるから…

あの言い伝えは本当だったんだな!僕は気をつけよっと。

銀さんのおかげで僕の気持がちょっと浮上した頃、姉上も僕らを元気づけようと高いお酒を持ってスナックお登勢にやってきた。
姉上も神楽ちゃんと仲良かったから…やっぱり寂しそうだ。
お登勢さんが人数分コップを出してくれて、今日ばかりは僕にもお酒を渡してくれる。

「姉上…僕、未成年で…」

「今日ぐらいは大目に見るわ。さ、新ちゃんもコレを飲んで悲しい事は忘れなさいな。」

お酒の入ったコップをぐいぐいと押し付けられるんで、素直に受け取ってぐい、と飲んでみると、甘くて飲みやすい。
こくこくと飲んでいくと、体がぽかぽかしてきて何だか楽しくなってきたっ!

あ…カラオケ…

「お登勢しゃん、歌唄っても良いでしゅか?」

「あぁ、悲しい事は唄って忘れな。」

お登勢さんが優しく微笑んでくれるんで、僕も微笑んでマイクを掴む。
お通ちゃんの曲入れよっと。
ピッピッピッ、とボタンを押すと、イントロが流れだす。
少し唄っていくと、なんか調子が良いみたい…今日はいつもよりも上手く唄えてる気がするっ!
立ちあがって、振りもつけながら唄ってると、すっごく楽しくなってきた!

うん、神楽ちゃんとはきっと又どこかで会えるよね!
これっきりじゃないよ、絶対!

僕が気持ち良く唄い終わると、皆でヒロインがどーの、って白熱してる。
どーでもいいや。なんか眠くなっちゃった…


僕が気持ち良く寝ていると、銀さんがゆさゆさと僕を揺らして起こす。
なんとか目を開けると、ヒロインは誰が良い?って聞いてくる。そんなの決まってるじゃん…

「お通ちゃん、お通ちゃんがいいれす。」

僕が言い終わるか終らないかのうちに、姉上とさっちゃんさんに殴られて店の外に吹っ飛ばされてしまう…

何でだよっ!ヒロインと言えばお通ちゃんだろっ!?
じゃなきゃ沖田さん。

僕が2人に文句を言おうと立ち上がると、2人はさっさとどこかへ歩いて行ってしまう。
…どこ行くんだろ…?危ない所に行かなきゃ良いけど…
一緒に殴り飛ばされてた銀さんも立ちあがったんで、2人でブツブツ文句を言いながら呑み直ししようと店に戻る。するとカウンターにはいつものように大盛りご飯を頬張る神楽ちゃんが居て…

「ボンキュッボンでなくて悪かったアルな。」

僕は銀さんと顔を見合せて、神楽ちゃんに駆け寄る。
その後は、ずっと笑いながら、姉上の持って来てくれたお酒を呑みなおした。


「えへへー、神楽ちゃん良かったよぅー」

僕が、にへっ、と笑って抱きつくと、真っ赤になった神楽ちゃんがジタバタと暴れる。
えへへ、可愛い…

「新八呑み過ぎヨー!もう帰るヨロシ!」

「うん…神楽ちゃん明日もいりゅ?」

「居るヨ。」

「明後日もいりゅ?」

「居るヨ。もうずっとココに居るヨ。」

「じゃあ帰りゅー」

僕がふらふらと立ち上がると、すっと横に来た銀さんが支えてくれる。

「おいおい、あぶねーから上に泊まってけ。」

「帰りゅー」

「イヤ、危ないから。」

「帰りゅんれすぅーっ!」

僕が銀さんを振り払って店の戸を開けると、そこには何故か沖田さんが居た。