「行っちゃったね。」
「行っちゃいましたね。」
いつの間にか隣に来ていた山崎さんとカブトムシを見送る。
うわっ!いつの間にっ!?
僕がちょっと距離を取ると、山崎さんが苦笑する。
「そんな怯えないでよ。沖田隊長がこんな近い距離に居る中で何かしようなんて思って無いから。」
ははは…と笑うけど…
「山崎さんは油断なりませんから。」
僕がもう一歩下がると、にこにこ笑った山崎さんがスッと距離を縮めてくる…わっ…!
「新八君も今日は泊まり?だったら沖田隊長には気を付けてね?」
「は…?」
僕が聞き返そうとすると、山崎さんは何も無かったように行ってしまった。
総悟さんに気を付けるって…何が…?
まさか…又この間みたいな事…?
ううん、まさか。
だって今日もあんな変な着ぐるみまで着て、話易くしてくれたんだもん…
それに、銀さんも神楽ちゃんも一緒だし…
大丈夫だよね…?
真選組と別れた後も、僕らはカブトムシを捜して山の中を歩き回ったけど…残念ながら、1匹も捕れなかった。
日も暮れてきたし帰ろうと言ったけど、絶対にカブトムシを捕ると張り切っている2人に押し切られて、僕らはキャンプ場に泊まる事にした。
銀さんがカレーを作ってくれて、3人で仲良く食べようとしていたのに、いつものように神楽ちゃんと銀さんが口喧嘩を始めて、僕まで巻き込まれて…結局僕は1口も食べないまま、カレーは全部ダメになった。
そのままの険悪な雰囲気のまま、僕らはテントに入って寝袋にくるまる。
でも…お腹が空いて、眠れねーよ!!
皆がそうだったみたいで、また銀さんと神楽ちゃんが喧嘩しだす。
もう…アンタらのせいだろうが!!
僕も起きあがって2人を止めようとすると、外が騒がしくなって、良い匂いが漂って来る。
その匂いに誘われるままテントから外を覗くと、真選組の皆さんがすぐ傍でバーベキューをやっていた。
…何でココで…?嫌がらせ…?
僕らがお腹を鳴らしながら涎を垂らしてそのさまを眺めていると、肉の串を持った総悟さんが近付いてくる。
もしかして…僕に持ってきてくれたの…?
ちょっと期待しながら総悟さんを見つめていると、僕らの近くまで来てワザと肉を落として、憎ったらしい事を言ってムカつく顔をして帰っていった…
ムッカぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
そう言う事するんだ、へぇー、そうなんだ。
あんまりムカついたんで、3人で神楽ちゃんの酢昆布を焼いて食べてると、真選組が可哀想なモノを見る目で僕らを見る。
土方さんや山崎さんまで…
なんだかんだ言いつつ、やっぱり僕なんてあの人達にとってはその程度なんだ。
今ここでご飯くれたら、すっごく見直したのになぁ。
ちょっとだけ揺れたかもしれないのになぁ。
普段優しいです~、みたいな顔してる分ガッカリだよ。
総悟さんは元々ドSだし?
それに…絶対後でフォローに来てくれるし?
やっぱり総悟さんを選んで良かった!
その後、ブチキレた神楽ちゃんが真選組にモザイクをぶちまけて…皆逃げ帰って行った…
…神楽ちゃん…女の子なのに…そんな攻撃は、しない方が良いと思うよ…
結局お腹は膨れないまま、又寝袋にくるまっていると2人の方からグーグーといびきが聞こえ始める。
…良く寝れるよな…
感心していると、ふと、知った気配がテントの前に立つ。
あ…!
そっと2人に気付かれないようにテントを抜け出すと、思った通りの人がしょんぼりと立っていた。
テントの近くじゃ又銀さんと神楽ちゃんに邪魔されそうなんで、総悟さんの手を引いて少し離れた所に移動する。
「…さっきはすいやせんでした…アレも仕事だったんでさァ…」
「…何しに来たんですか…?」
しよんぼりする姿が可愛くて、ワザと冷たく言ってみると、慌てた総悟さんが何かを差し出す。
「腹!減っただろィ?握り飯持ってきやした…!」
ラップに包まれたソレは、形も大きさもバラバラで…まさか…総悟さんが握ってきてくれたの…?
「…総悟さんが握ったんですか…?大きさバラバラ…」
「あっ…味は大丈夫!…な筈でィ…」
焦る姿も可愛くて、もうムッとした顔なんて作っていられない。
僕が笑ってしまうと、総悟さんがホッとした顔になって又僕の手を引いて何処かに連れていく。
「…総悟さん…?何処行くんですか…?」
「ここじゃチャイナやダンナに嗅ぎつけられっかもしんねェから、もちっと移動しやすぜ。」
…確かに…おにぎりの匂い嗅ぎつけそう…
あの2人に見付かったら、僕の分まで食べられちゃうよ!
総悟さんに引かれるままに付いて行くと、そこは結構な山奥で…でも月明かりでそこそこ明るい綺麗な草原だった。
その中に立つ木の根元に腰を落ちつけてゆっくりとおにぎりを堪能すると、イライラしていた事や、気まずい感じが何処かへ行ってしまった。
「…総悟さん…ご馳走様でした。美味しかったです、手作りのおにぎり!」
僕が笑うと、総悟さんも笑ってくれる。
「本当ならバーベキューを食べさせてやりたかったんですがねィ…チャイナがあんな…」
「いえ、おにぎりだって十分美味しかったです!ってか、逆にスミマセン…」
神楽ちゃんの仕出かした事を思って、あの時ちょっと総悟さんを恨んだ事は黙っていよう。
「でも!僕は本当は皆に仲良くして欲しいんです。だって、銀さんも神楽ちゃんも…もちろん総悟さんも僕にとっては凄く大切な人だから…」
そう言って見つめると、総悟さんの瞳がうるうると潤む。
こういう顔すると…色っぽいよな…
「俺も…?俺もちゃんと入ってるんで?大切な中に…」
「もちろんですっ!本当は…誰よりも…大切です…」
凄く照れるけど…本当の事だし…
「すげぇ嬉しい…俺も新八くんが誰よりも大切でィ…」
ちゅ、と唇が降ってきてくすぐったい…
でも…凄く幸せ…
「…近藤さんよりも…?」
「おう…新八くんは…?姐さんよりも…?」
ちゅ…ちゅ…と顔じゅうにキスを落とされて、愛しさが募ってくる。
「…はい…誰よりも…」
僕が言うと、安心したような笑顔を浮かべた総悟さんがそろりと近付いてくる。
だから僕はそっと目を閉じて、とても優しいキスを受け入れる。
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